第150話 精霊と新たな契約
一通り、一連の事件の経緯は分かった。
後の事はラファエルの仕事で、私の口を出す領域ではない。
私のやるべきことは、ラファエルがロペス侯爵家を処分するまで、この身を囮に使うこと。
それも学園に帰ってからのことで、数日は余裕がある。
その間に、精霊達と対話することにした。
力を部屋で使ってみることは出来ないから。
ラファエルは休憩だと言って、そのまま私の部屋でくつろぎタイムだ。
ルイスも呆れていたけれど、隅で待機している。
「ねぇ風精霊。精霊が操られているって分かったのは、やっぱり貴女が特別(究極)だから?」
『いいえ。私達(究極)はそれぞれの精霊が正常であるか否か、近寄れば分かります。主である貴女から一定の距離の範囲内ですが』
「じゃあ、フィーアの精霊に攻撃された時の距離からは分からなかったのね」
『いえ……その……』
風精霊は言いにくそうに視線を外す。
火精霊と土精霊まで顔を背けるのは何故!?
可愛い背を見られるのは癒されるけれども!
手乗りサイズ……抱き上げたい…
ってそうじゃなかった。
「………何?」
『………主が私達の力を使いたくないと思っていましたので、私達の力が主から出ないように抑え込んでおりました。その為、感知能力も極限まで抑えることとなっておりました』
………なんてこった。
何もかも自分のせいだった。
「………ソフィア」
「………はい……申し訳ございません……」
ラファエルに黒い笑顔を向けられました。
本当に申し訳ない…
「風精霊、だったっけ? それに火精霊に土精霊。他のソフィアの精霊も」
『はい』
返事は風精霊だけがした。
「これからは遠慮なくどんどんソフィアを守るために力を使って欲しい」
『………ですが』
「俺と契約している精霊じゃないから、言うことを聞くのを躊躇するのは分かる。けどソフィアは何でも自分の力でしようとする。他人の力を使うことを嫌がるんだ。王女のくせにね」
「………うっ……」
「自分を過小評価しすぎて、周りが強制的にやってしまわないといけないんだ。ソフィアの命令を聞くのも君達の仕事なんだろうけど、そうじゃなく本来は対等の立場でしょ。ソフィアを勝手に守る事もまた対等の立場故の行動だと思うけど? それに君たちが人間の契約者に対して“主”と呼ぶことも、人間の下に見られている元凶の1つでもあると思うよ」
『………』
痛い!!
痛いですラファエルさん!!
言葉攻撃ですか!?
「大体、この国の改国のアイデアを出しているのはソフィアなんだよ? なのに何故自分は何もしてないとか言うんだろうね? そもそものアイデアがなければ俺が物を作ってここまで国が豊かになることはなかったのに。これを何度言えばソフィアは納得してくれるのか」
「………」
「王女としての立場、俺の婚約者としての立場、ソフィアは充分それだけで尊い存在ではあるよ? でも、国が豊かになるアイデアを出す立場としても充分な価値があるでしょ。君達にも選ばれた」
『そうですね』
「なのに自己評価が低くて、俺困ってるんだ。だから自分を後回しにする」
『ですね』
2人とも酷くない!?
………って!!
なんか周りの私の従者&ルイスが一斉に頷いてるんですけれども!?
フィーアは除くけど…
「俺の可愛いって言葉を信じないし」
「………ん? それ、今関係ある!?」
「あるよ。これも過小評価してるでしょ。俺が愛してる可愛いソフィアなんだから、自分は普通なんて思わないで欲しいんだけど?」
「なっ!? だ、だから時と場合を考えてって言ってるでしょ!?」
真面目な話だったはずなのに!!
頬が熱い!!
「今言わなくていつ言うのさ。ソフィアは可愛いんだよ。同じ顔のソフィーが可愛くないって思う?」
「………それは、思わないけど……でも、ソフィーは柔らかい笑顔をするし、金髪ゆるふわな髪だし! ………あ、れ…!? て、ていうか…ラファエルがソフィーを可愛いって思ってるって事だよね!? 私捨てられる!?」
「だからどうしてそういう話になるの!? 俺はお前だから好きだっていつも言ってるよね!? なんで可愛い=好きだってなると思うのさ!?」
「世の中には一目惚れっていうのがあるのよ!? 一目見ただけで好きになっちゃうって!」
「俺そんな気の多い男じゃないから!! ソフィアがいるのになんで他の女に目を向けなきゃいけないんだ!! 俺はお前さえいれば何も要らないんだよ!!」
「でもソフィーを可愛いって言った!!」
「“思う?”って聞いただけだろ!? 分かりやすく瓜二つのソフィーを使っただけだよ!! ソフィーが可愛いなんて言ってない!!」
って、あれ……
何でこんな話になってるんだっけ?
「………ラファエル様、ソフィア様、痴話喧嘩はそれぐらいにして、話を元に戻してください」
「あ………」
「ちっ……ルイス! お前のせいでソフィアの可愛い表情が見れなくなったじゃないか!」
「………はぁ」
………ラファエルは私をからかってたの……?
まぁ、私もシリアスな話ばっかりで、ノってしまったのもあるけど…
ラファエルがソフィーを好きになる事はないってもう知ってるから、ああいう冗談言えるようになったんだけど。
それにフィーアの方が可愛いから。
何よ薄桃色の髪って!
瞳も大きいし!
美人とか可愛い系もう来ないで欲しい!!
あ、ルイスがため息ついてる。
従者はみんな苦笑してるし……
さっきのは痴話喧嘩と言われても仕方ないか。
久しぶりのラファエルとのやり取りは少し楽しかった。
最近軽口たたいてないしね。
「………とまぁ、ソフィアは自分を過小評価しすぎてるんだ。これ、ちょっとやそっとでは直らないと思うから、強引だと思うぐらいに守ってやって欲しいんだ」
『分かりました』
え、なんで3人の精霊は頷いているのだろうか…
『それから、ラファエル』
「………ん?」
『貴方は今まで観察していて、国に必要な人物だと判断いたしました』
「え……」
風精霊の身体が光り、そして大きくなっていく。
数秒後には、緑の服を着た、同色の長い髪に瞳。
綺麗なお姉さんがそこに居た。
………あの夢の中と同じ姿だ。
『我らの主と共に国の為になると。そんな貴方に、我々の眷属である各属性の精霊の主として契約することを許しましょう。彼らも、貴方に興味があるそうですし、主だけでなく、貴方も命を落とすことにならぬように、我ら精霊が力を貸しましょう』
「ちょ、待て!」
ラファエルが止めようとして手を伸ばすも、風精霊から、そして火精霊と土精霊、私の身体からそれぞれの属性の光がラファエルへと吸い込まれた。
「………うぁぁ……」
光が収まると、ラファエルが手で顔を覆っていた。
『精霊の力は特大に当たります。良き共存を』
それだけ言って3人は私の中に入っていった。
「………ラファエル?」
落ち込んでいるように見えるラファエルに、声をかける。
精霊に見放されそうになっている国。
その精霊がラファエルと契約したいと思ってくれた。
嬉しくないはずないのに、どうしたのだろうか…
「………くそぉ……仕事が増えた……」
「………え……」
「今の仕事でも手一杯でソフィアとの時間が取れないのに、更に精霊の力のコントロールに時間を割くことになる……共存よりもソフィアとの時間がもっと欲しい……」
………ぁぁ……
王太子モードじゃないラファエルはこういう人だった…
「………王太子としては、喜ばないといけないんだけど、ね……」
ラファエルの苦笑に私は苦笑し返して、ソッとラファエルの肩に手を添えた。
こういう時のラファエルには…
「私と一緒にコントロール練習するの、嫌?」
少し身を屈めて、上目遣いでラファエルを見て首を傾げた。
「頑張ろう!」
ラファエルが私の両手を取り、一瞬でやる気に満ちた顔になった。
………あ、はは……
周りの従者の呆れ顔は見なかったことにして、私はラファエルに笑みを向けたのだった。
………あま、くない!?
次はすみません、筆休めの回になります。




