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第15話 説教タイムです




怖い顔でラファエルに見られています。

私また何かやったんだろうか……

確かに黙って離宮を出たのはマズかったよね……

せめて手紙に出掛けることを書いてカゲロウに連れ出してもらうんだった。

これで二度目だから怒られるよね…

じゃあ、カゲロウを睨みつけてたのは何でだろ?

………まさか、嫉妬って事は………

………………ないない!

なにあり得ない妄想してるんだろう私。

だって私美人じゃないし、男にモテないことはラファエルも分かってるだろうし。


「ソフィア」

「は、はい!」

「俺の知らないところで、男と一緒にいるのはやめろ」

「………ぇ…」

「ソフィアは俺と婚約しているんだから、他の男のところに行けるとは思わないで」


………その、まさか……なの?

ラファエルはカゲロウに嫉妬してたという事なのだろうか?

どうして……


「か、カゲロウは私の影ですので…」

「影でも男だろう。俺の信頼する女の影を付けるから、俺の知らないところで二人きりにならないで」

「そ、そんな…大切な影を……」

「俺にはソフィア以上に大事な人なんていないんだから。ソフィアにもそう思ってもらえるようにこれからも努力する。だから、俺の願い聞き入れて」


なんだろう、この胸の苦しみは。

いや、苦しいより…痛い…?

ラファエルの気持ちも、この胸のモヤモヤも、私には理解できなかった。


「あ、の……」

「………はぁ」


ラファエルに声をかけようとしたら、ラファエルは顔を手で覆ってため息をついた。

そ、そんなに私に不満があるのだろうか……

これは、やっぱり食の問題が解決したから用済みって事なんだろうか?

でも、そうすると、さっきのカゲロウの件の流れは可笑しい……よね?


「………ごめん」

「………っ」


や、やっぱり、私ラファエルの婚約者失格…?

じわりと視界が歪んでくる。

だめ。

泣いちゃダメ。


「………俺、小さい男だよね」

「………ぇ」

「分かってる。ソフィアは他意は無く、民を助けるために影を使って食べ物を配ってくれてたって事は。………でも、俺以外の男と一緒にいたって事に、凄く嫉妬してる」


………

………ええ!?

し、嫉妬!?

それは無いと思っていたのに、それが正解だったの!?


「これからは出来るだけ俺と一緒に出かけて。いい?」

「は、はい…」


少し首を傾げながら言われ、その行動が可愛かった。

思わず顔が赤くなるじゃない!

やめてー!


「うん。じゃあ影の件はこれでいいよ」


………ん?

………影の件“は”?


「どうして賊に抵抗したんだ」

「………ぇ」


あの時はラファエルはいなかったはずなのに…

いや、その後にラファエルが割り込んでくれた。

見える位置にいたのだろう。


「あと少し遅かったら死んでいた」

「………そう、ですね…」


返す言葉もなく、私は俯いた。

何も言い返せずにいると、ラファエルが膝をついて私を覗き込んでくる。


「大人しくしていなかったのは何でだ?」

「………それは……ラファエル様はきちんとテイラー国の被服店との交渉を成し得てくださいました。ですから私は民に食べ物を全て配り終えないといけないと……それしか、私に出来ることはなかったのです。あと王都だけというところで、いなくなるわけにはいかないと思ったのです……」

「大人しくしていれば誰かが君を助けられたはず。無茶をしないで」

「………申し訳ございません…」


ラファエルの目を見れずに視線を反らした。


「それに、ソフィアは何も出来ないなんて俺は思ってない。ちゃんと手を貸してくれている。サンチェス国にも交渉してくれていたんだし、ちゃんと今民に必要な物を手に入れてくれた」

「私は! ……私は、お父様に頼み込むことしか出来ませんでした……民に必要な物を用意されたのはラファエル様と父です。私は何もしてません。何も出来なかった……」

「それは違う!」


両頬に手を添えられ、無理矢理視線を合わされる。


「何もしてないなら食べ物は運ばれてないし、民も助かってなかった。ちゃんとソフィアは出来ることをやってくれた。何も出来なかったなんて言わないでくれ」

「………ラファエル様……」


………本当に?

私は、民のためになることを……

王族として恥じることのないことを…

やるべき事をやれたのだろうか…


「………私…まだラファエル様の傍に……いられますか……?」

「………“まだ”? まだってどういう意味?」


ラファエルの問い返しに、私は余計なことを言ったと気づく。

思っていたことが、無意識に口をついて出た。

………私の、バカ……

ジッと見てくるラファエルに、誤魔化す事が出来ない。


「………ラファエル様がテイラー国に行っている間、思っていたんです」

「何を?」

「………お父様に支援をお願いしたら、お断りされたんです…」

「え? でもちゃんと…」

「………ラファエル様がテイラー国の被服店との交渉を成功させたら考える、とのお返事で…」

「そうだったのか…」

「………その時に気づいたんです。私は、ラファエル様を信じることしか出来ず、お父様にもお願いすることしか出来ず、……私自身は…民を助ける力が何もなくて…」

「ソフィア…」

「私……たまたま王女に産まれて……王族教育と言っても国の事は何も知らない……役立たずの王女なんです! 王族の鑑なんて言わないで下さい!!」


あの時のラファエルの言葉が頭に残っている。

“王族の鑑”という言葉が、全身に重くのし掛かっている。

自分が無力だと思っているのに、賛美の言葉は言って欲しくない。

分不相応な言葉なんて、そんな言葉私には相応しくない。

だめだ。

泣かないって思っていたのに、勝手に涙が溢れてきた…

頬を流れ落ちる涙は、ラファエルの手を濡らしてしまう。


「私、ラファエル様に想ってもらえるような女じゃ――」


私の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

ラファエルに唇を塞がれたから。


「………自分をそんなに卑下してはいけない。そこから動けなくなる」

「………」

「ソフィアは役立たずじゃない。ソフィアがサンチェス王に事前に交渉してくれていたから、俺が話す前に民に食べ物が行き渡った。俺がテイラー国で交渉し、そしてサンチェス国に行って交渉した場合、更に倍程の日数がかかっただろう。そうすれば、民は誰もいなくなっていたかもしれない」

「………でも……」

「出来ることをやってくれたソフィアは、立派な王族だ」

「……そんな…事……」

「俺が褒めているソフィアを、ソフィア本人でも侮辱するのは許さないよ」


ラファエルの言葉に何も言えなくなってしまった。

彼に嫌われることだけは避けたかった。

私を婚約者に選んでくれた人だから…

私を…好きだと言ってくれた人だから…


「ソフィアが何故自分の評価が低いのか分からないけど、俺はちゃんとソフィアを見てるから」

「ラファエル様…」

「ソフィアは誰にも恥じることはない、サンチェス国第一王女で、俺が惚れた君だよ。だから今までもこれからもずっとソフィアは俺の婚約者で、未来の妻だ」


ラファエルの言葉に、私の涙がまた溢れ、止まらなくなった。

私が否定し続けた私自身を、ラファエルは認めてくれる。

私の居場所はここだと、言外に言ってくれている。

それだけで私の心に巣くった霧が晴れていく。

私を救ってくれる。


「ソフィア…」


ラファエルは汚れることを厭わず、私を抱きしめてくれた。

温かい……

私は出来ることをして、彼に認めてもらえた。

そう、思うことが出来た。

私はまだ、ここに存在してて良いのだと。

ずっと苦しかった。

ラファエルと離れてから今まで。


「………ラファエル様…」

「どうした?」

「………    ……いえ、何でもありません……」


“一生共にいたい”

そう口に出そうとしたけれど、音にならなかった。

………どうしよう…

本当にもう、私は彼から離れられなくなってしまう…

――怖い。

彼に依存し、少しでも離れると、自分が自分でなくなる気がした。

私を認めてくれた彼を好きな気持ちが……今までより大きくなってる。

依存して、離れないでと縋って、彼を困らせている自分が、頭に思い描かれた。

そんな事すれば、捨てられてしまう。

王族としての立場は失えない。

彼が失望してしまう。

そんなの嫌だ。

嫌われたくない。

ずっと一緒にいたいの。

だから、距離を……適切な距離を保つようにしないといけない。

ちゃんと……ちゃんと演じるから……

彼が好きなソフィア・サンチェスを存在し続けさせるから…

私を……貴方の傍にいさせて……――


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