第142話 やられて大人しくしている私ではありません
私は攻撃されてから、学園を休むことを余儀なくされた。
負った傷はユーグに治療してもらったとは言え、傷を完治させることは出来なかった。
まだ普通に歩くことが出来ず、ベッドから降りることもままならなかったから。
ライトが追った犯人は、途中で姿を消したらしい。
突如として。
私を攻撃した事といい、姿を突然消した事といい、間違いなく犯人は精霊との契約者。
それも足音からして複数と分かっている。
………ラファエルが言っていた5人目以降の契約者の中の誰か?
それとも、まだ分かっていない契約者…?
どちらにせよ、私に恨みある者だろう。
それも、学園に出入りできる貴族以上の者。
私が歩いていたのは、学園で貴族が通れる廊下。
平民は勿論、学園のカードを持っていない者には入れない場所。
カードは卒業時返却されるし、毎年キーの中に登録されているパスコードは書き換えられるらしい。
よって、貴族以上の者に絞られる。
それをふまえて、1番の有力候補は当然…
「ライト、カゲロウ」
私が呼ぶと、2人はサッと天井からベッド脇に降りてくる。
「ライトは侯爵家の令嬢、カゲロウは子爵家の令嬢を見張って」
「見張る内容は」
「契約精霊の有無。契約していたら何の属性か」
「我々は精霊が見えません。判断することは出来ないかと」
「話の内容を聞けば分かるはずよ。私を攻撃したかどうかが。分かれば、力を使うまで張り付いて」
私の言葉に、2人は頭を下げて消えた。
………さて、と…
「姫様」
「ソフィー」
「わたくしもお役に立てるかと。わたくしは究極精霊から力を頂きました。契約している精霊も見えます」
「………それで?」
「え……」
「貴女を学園に送り込めと? どうやって? 影武者にでもなるつもり? 私のカードは使えないわよ。カードは私の情報が組み込まれている。使えば学園に行けないはずの私が学園に居ることになるわ。だからといって、姿を消したまま行く? それじゃ影と変わらないでしょう。貴女は私の影より優秀なの?」
「それは…」
「提案はありがたいけれど、今回の件で貴女を私の代わりに動かせるつもりはないわ。精霊の貴女は、私のように攻撃を受けても平気でしょう? 影武者になれないわよ」
ソフィーは俯いた。
………ちょっと冷たかったかな……
「………姫様……精霊の力を使ってください」
「………」
「精霊に命令すれば、常に姫様の周りに精霊の加護が出来ます! こんな事にならなくて済みます!! この国は精霊が当たり前なんです!! 精霊の力を正しいことに使うか、間違ったことに使うか、人によって違います!! 姫様はあまりにもこの国で無防備です! 姫様はラファエル様の大切な人で、色々な方に妬まれる可能性があるんです! ご自分が大事な身であることを自覚してください!!」
「うん、ごめん」
私は素直に謝った。
究極精霊の力を使わないようにと押しとどめていた結果がこれ。
ラファエルが力のコントロールのために場所を用意してくれるまで、何もしないでおこうと思っていた。
それでは、遅かったんだよね。
「………言葉が過ぎました……お許しください…」
「正論だから謝る必要ないよ。ごめん。その加護の力の使い方、教えてくれる?」
私が言うと、ハッとソフィーが顔を上げて、泣きそうな笑顔で頷いた。
「2人が戻ってくるまで数日はかかるでしょうから。ベッドでも出来る訓練だったら良いのだけれど…」
「大丈夫です。やり方をお教えいたします」
「うん。宜しく。でもそれは1日待ってくれる?」
「………姫様…」
「睨まないで。ちゃんと話さないといけない人がまだいるから」
「ぁ……」
そう。
私はまだラファエルとあれから話していない。
ユーグに怪我を治療してもらい、ラファエルを泣かせてしまった後、私は気を失ってしまったのだ。
気づけば自室のベッドで、ラファエルはホッとすると同時に、事務的な報告だけして部屋を出て行った。
それから帰ってきてない。
たぶん、私を襲った者の捜索の手配で。
「それに、ラファエルが帰ってくるまで少し休みたいの。まだ本調子ではないし」
「あ、申し訳ございません。気づきませんで…」
「ううん。大丈夫。お茶もらえる?」
「畏まりました」
ソフィーが寝室から出て行き、私は息を吐いた。
「………ぃっ……たぁ……」
まだ痛みが引いてないから深呼吸をしたら痛む。
普通に話す分には問題ないのだけれど…
………私、怪我すること多くない?
王女なのに…
お転婆王女の名は、捨てられないかな。
捨てようとは思っていないのだけれど…
従者に馬鹿にされるのは終わらなさそう。
苦笑して、私はベッドに置いてくれているクッションに背中を預けた。
あ~……楽だわ…
………さぁ、犯人が分かったらどうしようかな。
今回の件、サンチェス国に報告するわけにはいかない。
なにせ、他国に口外してはいけない精霊の力によって負わされた怪我だからね…
この場合、正式にはラファエルが罰を下すのが正しい。
でも、それでは私の気がすまないし、なにより私の無警戒が原因だ。
まさか学園で攻撃されるとは思っていなかったし。
あっても口で言われると思っていた。
女の嫉妬といえども、令嬢だし過激な行動には出ないだろう、と。
完全に精霊のことは頭になかったことも含めて。
全ての原因は私だ。
それに女の嫉妬なら、ラファエルが間に入れば拗れる可能性が高いし。
う~ん。
ラファエルをどう説得しようかな。
………まぁ説得できなくても、私が大人しくしているわけないけど。
「お待たせいたしました」
ソフィーがお茶を運んできて、私はそれに口をつけながら、ラファエルの説得方法を考えていた。




