第14話 また彼を怒らせたようです
盗賊に襲われ、命を失ってしまうと思った時、テイラー国にいるはずのラファエルに助けられた。
サンチェス国から送られた食べ物を配るところは、あと王都だけだった。
ラファエルにも手伝ってもらい、何とか全ての街や村に食べ物を配ることが出来た。
泣きながら感謝していた人々の顔が、頭から離れない。
………私は、少しは王族として役に立ったのだろうか。
「お嬢ちゃん」
喜びの涙を流す人々をぼんやり眺めていると、後ろから話しかけられ振り返る。
「………ぁ、貴方は…」
「ありがとよ。食べ物をこんなに運んでくれて」
「ぁ、いえ……」
立っていたのは初めて訪れた城下で、最初に食材を買ったところの店主だった。
「………王子も。助かったよ」
「いえ、私は彼女が手配した食べ物を配る手伝いをしただけですから。今まで申し訳ありませんでした」
潔く頭を下げるラファエルは、立派に見えた。
王族として簡単に頭を下げることは許されない。
けれど、王族の行いでここまで貧困していた。
この場は逆に下げなければ、遺恨が残っただろう。
「あんたのせいじゃないとは薄々感じていたが、わしらも憎しみをぶつけるところが必要だったんだ。睨んで悪かったね」
「いえ、当然です」
店主と話していると、街の人たちが周りを囲んできた。
口々に感謝を言ってくる。
それに笑って対応するラファエルは流石王族って感じだった。
私もそれをしなければいけない。
のに、足がその場から動かなかった。
その理由は分かってる。
人々に食べ物が渡ったのは、ラファエルと父のおかげだ。
私の力じゃない。
なのに感謝など、受け取れない。
………私は、何もしてない。
そっと人混みの中から抜け出した。
今は皆、ラファエルに視線が行ってたから簡単だった。
さり気なくカゲロウに合流する。
「姫様。全部配り終えたよ」
「ありがと。皆も」
王と王妃の影達にもお礼を言うと、皆笑顔で頷いてくれる。
「姫様。お父上からお手紙を預かっております」
「………ぇ、カゲロウとは別に?」
「はい。全て配り終えた時にお渡しするように伺っております」
「分かった。ありがとう。皆帰り道気をつけて」
手紙を受け取り言うと、皆頷いて元来た道を荷馬車と共に去っていった。
その音に気づき、街の人たちが手を振ったりお礼をまた口にしていた。
「………カゲロウ。私を部屋へ」
「分かった~」
まだラファエルは私に気づいていない。
その隙に部屋に戻ろうとした。
が、パシッと腕を捕まれる。
「ひっ……!?」
思わずビクッと反応してしまった。
私の腕を掴んだのはラファエルで、その顔が怖かったから。
「………何処行くの」
ギロッとラファエルが睨んだのはカゲロウ。
カゲロウは今まさに私を抱えようとしていた。
「ぇっと……お部屋に……」
「なんで一緒に帰るって思ってくれてないの」
「そ、それは……」
ここは居心地が悪いから、なんて言えない。
「それに、そいつ誰」
「………ぁ」
カゲロウの存在は秘密にしていた。
勿論初対面だ。
そのカゲロウが私を抱えて連れていこうとした。
………これは誤解される…
「ぇっと……ここでは……」
言葉を濁すと、ラファエルはため息をついて私は彼に抱き上げられた。
「ひゃぁ!?」
私の背と膝裏にラファエルの腕が!!
こ、これは、お姫様抱っこというものでは!?
初めての体験に心臓の鼓動が激しくなる。
や、やめてぇ!!
ドキドキしすぎて、逆に心臓止まる!!
息止まる!!
なんて事は言えるはずもなく、私は顔を真っ赤にしてラファエルに抱きかかえられたまま、固まった。
「皆、申し訳ないですけど、私はこれからやることがありますので、今日はこれで失礼します」
早口で言ったラファエルは早足で離宮へ向かった。
部屋に入ったラファエルは、乱暴に私をソファーへ下ろした。
「ら、ラファエル様、ソファーが汚れてしまいます」
ランドルフ国を歩き回っていた私の服は土や泥で汚れている。
そんな私がソファーに座ったら汚れてしまう。
「そんなのはいい! あいつは誰だ」
こ、怖い……
カゲロウは人前に出るから、一般市民と同じ格好だった。
当然覆面もしてなかった。
歳は14だから、可愛い男の子、って感じなんだよね。
「ソフィア?」
あ、それどころじゃなかった!
怖い顔で見られてたんだった!!
こ、これは誤魔化したら――ダメだよね…
「………カゲロウ」
諦めて私はカゲロウを呼んだ。
するとスタッと天井からいつもの全身黒づくめの格好で降りてくる。
「姫様なに~?」
「………えっと……私の影のカゲロウです…」
「?」
カゲロウは首を傾げる。
ラファエルは怖い顔のまま。
「………影」
「は、はい…」
「………男……」
「そ、そうです…」
ラファエルさん、眉間のシワが凄いです。
ますます怖い表情になってます……
「女は?」
「いないよ~? 姫様の影は、俺とライトだけ~」
「………ライト?」
「うん。俺より年上で背が高い」
「………後は?」
「いないよ~。さっき言った通り姫様の影は二人だけ~」
「………」
沈黙するラファエルが怖い。
カゲロウを睨んだままだ。
「もういい? 用がないなら上にいる」
「………ああ」
ラファエルが頷き、カゲロウが天井裏に姿を消した。
いやぁ!!
一人にしないでカゲロウ!!
追いすがろうとした私を視線一つで止めるラファエル。
こ、怖い……
これ、何回思ったんだろう……
何か怒らせる事をしたのだろうか?
無自覚でそれをしたなら謝らなきゃいけない。
でも、ラファエルの目が怖くて口が開きません……
私は蛇に睨まれた蛙の如く、縮こまるしかなかった。
 




