第138話 温泉に入りましょう
あの後は、視察は順調に終わった。
けれど1つ問題が。
温泉の建物――数はそれなりにあり、王族・貴族・平民用に分かれ、大浴場や個別になっているのは良いとしよう。
けれど、その周りにあるお土産屋の店の数が想定より多かったのだ。
私が考えていた商品では、圧倒的に品数が足りない。
どうしてこんなにいっぱい作ったのかと尋ねると…
「ソフィーの持っているイメージに近づけたかった」
と言われ、私は何も文句が言えなくなった。
その代わりに、アイデアを更に出さなければいけなくなったけれども…
「ねぇ、ラファエル」
「ん?」
「甘味店の3号店はここに出すこと出来る? 内装は変えなきゃだけど…」
ダメ元で聞いてみた。
けれど、あっさりとラファエルは頷いた。
「ああ、出来るよ。平民用と貴族用で離れた場所の建物使おうか。従業員は倍かかるだろうけど、貴族と平民が同じ場所に並びたくないだろうからね」
「だね。で、食べ歩き可能な甘味の完成状況は?」
「もう少しだよ。それは貴族用は要らないでしょ? 貴族が食べ歩くわけないものね」
「それはどうかしら?」
私はラファエルの言葉に、疑問を投げかけた。
「どういう事?」
「食べ歩きはしないだろうけど、持ち帰って軽く食べる甘味としてはいけると思うよ?」
「………成る程…」
「5個入とか10個入とか量を変えて、箱入にして売り出すとか」
「そうだね。そうなると入れ物も考えないとね」
「入れ物関係は私とソフィーに任せてくれない?」
私が言ったことで、ピクッとソフィーが反応する。
ラファエルもキョトンとしていた。
「どうして?」
「甘味に関しては、男性より女性の方が購入する頻度が高い。だから、女性受けが良い入れ物は私達が適任だと」
「………そうだねぇ。分かった、任せるよ」
「ありがとう」
私がラファエルに笑うと、彼も笑った。
「じゃあ、温泉入る?」
「うん!」
「良い返事だね。そんなに嬉しい? 俺と入るの」
「う――へ!? い、一緒に入るなんて言ってない!!」
「残念。引っかからなかったか…」
「そうやって誘導しようとするの止めてよ!」
顔が真っ赤になっている自覚はある。
でも、それよりもラファエルを何とかしないとと、止めるために必死だった。
ラファエルはあっさり引き、私は王族専用の温泉へ連れて行かれた。
そして宿の中に入り、男女入り口が分かれているところで、ラファエルと別れた。
私はソフィーと共に女湯へ。
脱衣所も日本の宿みたいに個別のロッカーが並んでいる。
ちゃんと鍵までついている。
服を脱ぎ、身体にタオルを当てて浴室へ。
「………ぅわ……」
扉を開けて私は驚く。
大浴場とは言っても、1種類だけだと思っていた。
けれど、白湯、薬湯、サウナ、プール、寝湯、露天風呂、などなど。
本当に何もかも日本の温泉のように種類があった。
「凄いですね」
ソフィーも服を脱いで私の後ろから覗き込んでいた。
本来侍女と入るのはあり得ないけれど、今日は貸し切りだから気にしない。
私がソフィーに入ろうと誘ったのだ。
「………ラファエルはどれだけ…」
私はかけ湯をして、ちゃぷっとまずは白湯に入った。
「っ……ふぅ…」
一瞬熱でビクッとしてしまったけれど、私は一気に肩まで湯に浸かった。
「気持ちいいですわね姫様」
「うん。ホント、ラファエルは私を何処まで喜ばせたら気が済むんだろうね?」
「恐らく一生、ラファエル様は姫様を喜ばせようとするでしょうね」
「うぅ…逆にプレッシャー」
「婚姻すれば、更にラファエル様は奮闘するでしょう。姫様を手放さないために」
ソフィーの言葉に、思わず半目でソフィーを見た。
クスクスと笑うソフィーは年相応。
う~……可愛い…
「ソフィーは恋愛したいとは思わないの?」
「………いきなりなんです?」
「いや……別に?」
最近、ソフィーがよくある人を見ているんだよねぇ。
でも何も言わないからこっちも聞かなかったんだけど。
せっかくだからリラックスしている今、聞いてみた。
けれど急に侍女の顔に戻るから、私はそれ以上聞かなかった。
ソフィーは私の心を読めるけれど、私はソフィーの心を読めない。
なんだか不公平だと思うけれど、人は人の心を読めやしない。
普通のことだ。
だから、今のままでいい。
「………わたくしは、精霊です」
「だから?」
「え……」
「精霊だから何? 人に恋しちゃダメなの? ソフィーは精霊と違って、寿命は私と一緒なんでしょ? だったらただ力を持っている女の子ってだけじゃない。私に気を使わなくて良いよ? ソフィーもせっかく第二の人生歩めるようになったんだから、自由にしたらいいよ。ソフィーは私の半身でしょ? 半身が幸せなら私も幸せだし」
「姫様……」
「大体、精霊が人間と契約したいと思う気持ちは、恋に似てるんでしょ?」
「………はい」
「何も可笑しな事じゃないんだから、アタックしてみたら?」
私の言葉に、ソフィーは少し顔を赤くして、湯の中に鼻下まで沈めた。
そんなソフィーを見て、私は微笑んだのだった。




