第137話 心を読まれていました
私は絶句した。
目の前の光景に。
「ソフィア?」
ラファエルに呼ばれるけれど、私は返事が出来なかった。
今日はラファエルと共に温泉街を視察に来た。
目の前に広がる光景、それは酷く懐かしく感じる風景だった。
まるで、京都の花見小路道のように、木造の建物がずらりと並んでいた。
これで舞妓さん達が歩いていたら完璧だ。
頭の中で、手毬唄を思い浮かべてしまう。
………ここは通りの名を覚える必要がない場所なのに…
というか、なんでここまで似たのかしら…
偶然?
「ソフィア、気に入った?」
ハッとラファエルを見上げると、彼は嬉しそうに笑っていた。
その笑顔に、なんだか裏がありそうで。
「……ここ…」
「悪いけど、ソフィアの頭の中をちょっと覗かせてもらったんだよね」
「………ぇ……」
私はスッとラファエルから距離を取ってしまった。
「ぜ、全部は見てないよ!? ソフィアの前世の記憶を断片的にユーグに拾ってもらったんだよ! 温泉街、っていうのがどういうのが良いのか、想像つかなかったし! それにソフィアが喜んでくれる場所にしたかったんだよ!」
「………」
私はにわかには信じられず、疑いの目を向けてしまう。
「ぜ、全部見てたら、俺は早い段階でソフィアの中にソフィーが居ることに気づくよ!」
「………それは…」
そうなんだろうけど、勝手に見られて良い気分になれる人などいないだろう…
「それにユーグには俺がソフィアに嫌われるような情報は俺に言うなと言ってあるし!」
「………それより勝手に覗くの止めて欲しいんだけど…」
「うっ……ごめん……」
私を喜ばせようとしてくれたのは純粋に嬉しく思う。
けれど、精霊とはいえ私の情報を握られているのは落ち着かない。
例えば、私がラファエルの事をどう思っているのか、とか。
色々なことを知られてしまっている可能性があるはずで。
第三者にそんな事を知られてしまっているかと思うと…
カァッと頬が赤くなるのが分かった。
「え、ソフィア?」
「ふぇ!?」
「なんで顔が赤いの」
「だ、だって! ラファエルの精霊は私のこと全部知っちゃってるかもって事でしょ!? そ、そんなの恥ずかしくて、もうラファエルの傍にいられない!!」
「え!? ちょ、待って!!」
思わず私はその場から逃げてしまい、ラファエルが慌てて追ってくる。
「ユーグは俺の言ったことしか調べてないって!」
「ラファエルが私の気持ちを知りたいって言ってたら探るでしょ!?」
「そんな事言わないって! ソフィアが俺を愛してくれてるって事知ってるし! 第一、ユーグから聞いてどうするの!? そういう事はソフィアの口から聞くのが良いのであって、他人から聞いてどうするのさ!」
「ぅっ…」
そ、それもそうだよね…
で、でも…
やっぱり恥ずかしいのはおさまらなくて、足が止まらない。
「待てって!!」
「ひゃぁ!?」
パシッとラファエルに腕を掴まれ、後ろに引かれた。
必然的にラファエルの胸に倒れ込むことになる。
そしてそのままラファエルの腕の中に抱き込まれた。
「俺から逃げるな」
「っ…!!」
耳元で囁かれ、ビクッと反応してしまう。
さっきよりももっと、頬が赤くなっているのが分かる。
「もう、お前は俺のモノだ。俺の傍にいられない? いや、いてもらう。一生」
「ラ、ファエ…ル…」
「お前の心も、身体も、全部俺のモノだ。違う?」
み、耳元からラファエルの唇が離れてくれないっ!
恥ずかしいんですけどっ!
「わ、わざとやってるでしょ!?」
「ソフィア。今は俺が聞いてるんだけど? ソフィアが俺に質問して良いのは俺の問いに答えてから、でしょ」
「っ……!」
「ソフィア?」
「ぅぅっ……そ、そうだ、よ……私は……ラファエルのモノ…」
モノって言うのも恥ずかしいっ!
さ、最近こういうやり取りも、してなかったな…
って、それどころじゃない!
ラファエルに唇を離してもらわないと!!
「だよね。でも、ソフィアは俺から逃げたよね? 何で?」
「は、恥ずかしかったからっ!」
身体を動かすも、ラファエルの拘束から逃れられない。
「何が恥ずかしいの? 俺を好きなことがそんなに恥ずかしい?」
「ち、違うっ! す、好きな事自体が恥ずかしいんじゃなくてっ! 私が思ってること全て知られてることが恥ずかしいの!」
「でも、俺はユーグにそんな事を探れとは一言も言っていない。俺がソフィアの事を調べるのに、他の男にそういう事を探らせるような事を言うと思う? 俺の知らないソフィアを俺以外の男が知るのを許すと思う? 今回はソフィアを喜ばせるためにやむなくユーグを使ったけど。それは悪かったと思ってるよ。そこは謝るよ」
………っ!
ず、ズルくない!?
「ねぇソフィア」
「な、なに…?」
「笑ってよ」
「………ぇ…」
「俺、ソフィアに喜んで貰うために、ここ、作ったんだから」
「………ラファエル…」
「確かにソフィアはここで生きてる。でも、羽を伸ばす為の場所ぐらい、ソフィアが居心地が良いようにしたかったんだ。ごめん。勝手に探って」
ラファエルの言葉に、私はもう抵抗できなかった。
謝ってくれたし、もう気にするのは止めよう……
「………はっ!!」
「ソフィア?」
今まで忘れていた。
私達は2人で来ていたわけではないと。
ラファエルの方を見たら、後方に私の護衛の4名とソフィー、そしてラファエル側の護衛が2名。
私はまたカァッと頬が赤くなる感じがし、ポスッとラファエルの胸に顔を埋めて隠したのだった。




