第130話 弱い自分が情けないです
ソフィアの言葉に私は何も言えなかった。
確かに私は王女であるためにソフィアの言葉を聞きたかった。
人としてではなく、王女としての立ち振る舞いや思考を、常に導いていて欲しかったから。
私は自分を評価していないから。
常に何かをやらかしてしまうと、思っていたから。
でも、実際にソフィアに窘められ、鋭く見られて…
「………」
私はスッと視線を反らしてしまった。
欲しかった言葉をもらっただけなのに。
王女としての道を示してもらっただけなのに。
ズキズキと胸が痛む。
弱い自分を引っ張り上げられた。
怖がっていないで前だけ向けと言われた。
でも、自分が間違っていたら?
そんな考えは消えてくれない。
身に余る力を持たされた私の気持ちなんか、ソフィアに分かるはずないと。
「……はっ…」
私は自分に失望した。
ソフィアに王女としてのアドバイスを自分から強請ってたくせに。
いざとなったら反抗する。
やはり私は、子供だ。
自分の思い通りにならなかったら言うことを聞かない子供。
「………唯華さん、わたくしは王女としての道は示せますが、精霊達をまとめ上げる主としてや、平民の思考の理解等は出来ません。わたくしは生粋の王家の子ですから」
グサッとソフィアの言葉が心臓に刺さった。
「………」
「わたくしは王女としての考えしか与えられませんので。今の唯華さんは王女としてではなく、1人の精霊契約者として悩んでらっしゃるのでしょう。ですから、目を背けても咎める人は誰もいないでしょう」
ソッとソフィアがティーカップを回収して離れていった。
おそらくお代わりを煎れてくるのだろう。
遠回しに呆れられた……?
思わずソフィアの背に手を伸ばしかけて止めた。
………ソフィアの考えを受け入れずに反抗した自分が、どうして彼女を呼び止める資格があるというのだろうか。
………はぁ……
私はやっぱり王女に向いてないと思う。
カチャリ…と少しの音を立てて机にお茶が入ったティーカップが置かれた。
「………ねぇ」
「はい」
「………王女として出るとき――」
「お断りします」
「まだ何も言ってない!!」
言葉の途中でソフィアに遮られ、あまつさえ断られた。
「わたくしに唯華さんの代わりが務まるとでもお思いでしたら、勘違いも甚だしいですわね」
「………ちょっとソフィアが口悪く……」
「あら。片割れの言葉遣いが移ったのかもしれませんわね」
ニッコリ笑顔で貶さないで欲しいんですが!!
「ランドルフ国王太子の婚約者は誰ですか」
「え……ソフィア・サンチェス……」
「ですけど! ラファエル様に認められているのは誰ですか!!」
「………」
「隣に立てる資格はこの世界でただ1人にしかありませんし、ラファエル様が許可した唯一の人は誰ですか!!」
ソフィアが怒っている。
眉間にシワを寄せて、真っ赤な顔で、唇をワナワナさせて、目が潤んでて……
………こんな時に、思っちゃいけないんだけど……
………滅茶苦茶可愛い。
………ラファエルの好みだろうな…と思ってしまった。
こんな顔、私には絶対に出来ないし…
………どうしよ……
ラファエルが……やっぱりソフィアがいいって言い出したら……
「ラファエル様の隣に立つ資格は、唯華さんしか持っていないのです!」
ソフィアに強く言われて、ハッと我に返る。
「で、でも、ソフィアが隣に居た方が、ちゃんと王女出来て、同盟国の王族とも上手くやれると。そ、それに精霊の力が自分の自由自在に操れる王女なんて、ランドルフの王太子のパートナーにピッタリで…」
「わたくしは、ラファエル様といたいから存在したいと思ったのではありません! わたくしは唯華さんと共に生きたかったから力を得たのです! 唯華さんはわたくしの半身で、唯一の人で、一緒に笑ったり泣いたりしたいからここにいるのです! 王女としてのわたくししか見てない唯華さんは酷い人です!!」
「………ぁ…」
ボロボロとソフィアが涙を流し始めた。
ソフィアの言葉に、私は自分がどんなにソフィアを傷つけたのか気づいた。
「唯華さんのお友達……わたくしのお友達……なれないんですか……?」
「ぁ、の……ごめ……」
「ちょっと。外まで丸聞こえなんだけど」
ソフィアとの会話に第3者の声が入ってきて、私はドアを見た。
すると、ドアに寄りかかって腕を組んでこちらを見ているラファエルがいた。
ソフィアは顔を手で覆って泣き崩れている。
ど、どうしよう…
ドアが開いてるから当然警護に立っていたイヴとダークもこっちを見ているし、ラファエルに伝言を持って行かせたライトもいるし。
上にはカゲロウもいるだろうし。
「………お、おかえ、りなさ、い……」
と、取りあえず挨拶は欠かしちゃダメだよね、うん。
「ただいま。さて……」
すぅっとラファエルの目が鋭くなった瞬間を見た。
「ちょっと話し合おうか」
目が笑ってない笑顔は怖いですよ!!
などとは言えず、私はソッと姿勢を正した。
「まず、俺しか知らないはずの名前を何故侍女風情が呼んでるのかな」
ひゅっと心臓が凍ったような感じになった。
じ、侍女風情って…
「そ、それは……」
「それで? 何故ソフィアが侍女風情をソフィアと呼ぶ? そしてあまつさえ俺の隣に立たせるって何?」
何処から聞かれていたのでしょうか!!
目は勿論だけど、声も怒っている。
イヴとダークはそっと扉を閉め、部屋の中に待機。
ライトはラファエルの背後に立ったまま。
………ライトは私の影じゃなかったっけ!?
しかもライトにまで冷たい視線向けられてる!!
私はダラダラと冷や汗を流しながら、ラファエルへの言い訳を考えていた。




