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第13話 ピンチが訪れました




影達に手伝って貰いながら、私は周辺の民に食べ物を配っていった。

住民は痩せ細り、固形物は食べられそうになかった。

王の配慮した食べ物は軟らかい食べ物ばかり。

私は父に感謝しながらゆっくりと食べるように民に言って回った。

人々は泣きながら食べ物を口にしていた。

数十日分の食べ物を各地に振り分けていった。

残念ながら亡くなってしまった人も結構いた。

数日前だったという話も聞いた。

………本当に、情けない……

私は、無力だ。

でも、私は泣いてはいけない。

私は――王族だから。

彼らにとっては、私も自分勝手なこの国の王族と同じように見られているはず。

私は彼らに正式に姿を見せていないから。

王宮の中でのうのうと生きている王族として見られている。

私は感謝する人々を尻目に、歩き出す。

残りは王都。


「カゲロウ、後は王都だけど、足りそう?」

「大丈夫。王都は比較的食べられてたみたいだから、固形の食べ物も配ろう」

「………ん」


頷いて前を向けば、突然カゲロウが私の前を塞いだ。


「姫様下がって!」


目を見開く私を置き去りに、カゲロウは腰に付けていた短剣を抜いた。

賊だ。

思い当たった瞬間に、私は素早く荷馬車の中に駆け込んだ。

こういう時に私は足手まといだ。

邪魔にならないところでジッとしている他に出来ることはない。

荷馬車の外から剣がぶつかり合う音がし始めた。


「その中の食い物を寄越せ!」

「貧乏人に配るぐらいなら俺達が食べてやった方が世の中のためだろ!」


勝手な言い分ばかり。

私はムカつきながらも、ジッとしていた。

カゲロウだけだったならともかく、王と王妃の影達もいる。

腕が立つ者ばかり。

大丈夫だ。

心配要らない。

そう思っていたのに…

バサッと荷馬車の後方を覆っていた布が開かれる。


「女がいるぜ。いい服着てやがる!」


見つかった。

腕を引っ張られ、荷馬車から降ろされる。


「おい、お前ら! それ以上動くなよ? 動けばこの女がどうなるか分かるだろう?」


なんてお約束な台詞なんだろう。

でも、私は声が出せなくなった。

………怖い。

情けない。

護身術でも習っておけば良かった。

思うのはいつも遅い。

私は首に添えられた剣を見つめることしか出来なかった。


「姫様!!」


カゲロウが私を見て真っ青になっている。

ごめんね。

結局足手まといで。

………私、どうなるんだろう。

彼らのオモチャになるのだろうか?

それとも身ぐるみはがされて売られるのだろうか?


――もう、ラファエルに、会えない……?


………やだ……


まだ、一緒にいたいのに…

彼と離れるのは、彼に捨てられたときだけだと思っていたのに……

こんな形で終わるなんて……

せめて王都に……


………そうだ。


まだ終わってない。


ラファエルがテイラー国で交渉を無事に成功させたのに。

私がしなくてはいけない事が終わってない。

こんな所でいなくなるわけにはいかない!


「は、なし…」

「あ?」

「離して!」


私は思いっきり私を拘束していた男の腕に噛みついた。


「いって! このアマ!!」


男が痛みに怯み、私の体は解放された。

勢いよく突き飛ばされた体は、地に叩きつけられ一瞬息が詰まった。


「ぶっ殺す!!」


逆上した男はもう私しか見てなかった。

勢いに任せて相手を逆上させてどうするんだろう私……。


「姫様!!」


カゲロウの叫び声が聞こえる。

でも、私の体は動かず、逆上した男が振り上げた剣を見続けることしか出来なかった。


………ラファエル……


どうか……


どうか私のために悲しまないで欲しい……


私を愛してくれてありがとう……


貴方は幸せになれる…


私以外の人と、どうか……生きて…


私は死を覚悟し、ギュッと瞼を閉じた。


「ぎゃぁ!!」

「………ぇ……」


覚悟した体に刺された痛みは来ず、男の悲鳴が響いた。

ゆっくりと目を開けると、広い背中が見えた。

そして私を拘束していた男は地に伏している。


「はぁ……はぁ……」

「………ぁ、り……」


肩で息をし、私に背を向けている男は誰か分からない。

でも、助けてくれたのは分かる。

多分全力で割って入ってくれたのだ。

だからかなり息が上がっている。

私はお礼を言いたいのに、意思に反して唇は震え、上手く機能してくれない。


「………はぁ……」


男はゆっくりと息を吐いて、私の方に体を向けた。

助けてくれたのは影だと思っていた。

でも、違って……

顔を見た瞬間、私の瞳から勝手に涙が溢れた。


「………ソフィア…」


彼は心底ホッとした顔をして、私を抱きしめた。

その温かさに、私は彼の背に手を回す。


「………ふぇ……」


安心したと同時に、涙が止まらなくなった。


「遅くなってごめん。まさかソフィアが自分で食べ物を配ってるとは思わなかったから」

「………ラファ、エル、さ、ま……」


私を救ってくれたのはラファエルだった。

恐怖に冷えていた体がラファエルの体温で温かくなってくる。

何でここにいるのか、とかの疑問は今はいい。

彼が居る。

私を助けてくれた。

それだけでこんなに安心してる。


「ありがとう。サンチェス国に援助を頼んでくれてたんだな。ホントにソフィアは王族の鑑だ」


そんな事ない。

頼むことしか出来なかった私。

食べ物を用意したのは父だ。

私ではない。

配るぐらいは自分も手伝える。

それぐらいしか、出来ない私だ。

ラファエルが褒めてくれるような女じゃない。


「さぁ、残りの食べ物も配ってしまおう。そうしたら………」

「………ラファエル、様…?」


言葉を切ったラファエルを見上げる。

そこにはあの目が笑っていない笑顔があった。


「………説教だ」


凍り付くような低い声で囁かれ、私は固まってしまった。


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