第128話 買い被らないで欲しい
「俺はソフィーとだけ契約していると思ってたけど、究極8大精霊と契約してるとは聞いてないけど?」
ソッと耳元で囁かれた言葉に、私は赤らめていた顔が、真っ青に変わるのを感じた。
誰だ。
ラファエルに余計なことを言ったのは。
スッと視線を泳がすと、ラファエルの背後に青の長い髪の青年がうっすらと見えた。
………ぁ~……
犯人はラファエルの契約精霊か。
流石水の精霊。
存在自体が希薄だ。
「ナルサスとダークは席外して」
ラファエルは私から目を離さず、2人に命令した。
2人が出て行き、私とラファエルとソフィー、そしてラファエルの精霊だけが部屋にいる。
「………さて。どうして黙ってた? 俺がソフィアの精霊を利用するとでも?」
「そんな事思ってないよ。言ったでしょ。過度な力は身を滅ぼす。言わないことによって、私は自分で自分を諫めてた。私には力などない、と」
「ソフィアはそんな事しないと俺は知ってる。でも、俺に内緒にしないでよ。精霊のことはソフィアより俺の方が詳しいんだから。何かあっても相談に乗れるよ。それに気をつけてないと俺が究極精霊の勘に障って国を滅ぼされたら困る」
「………ぁ…」
そっか。
精霊にそのつもりはなくても、暴走したら何が起こるか分からないものね…
「………ごめんなさい」
「ん。分かってくれればいいよ。それで、俺の精霊は見えてるのかな?」
「ぁ…うん…青い髪の男性が」
「そっか。彼の名前はユーグ」
ラファエルが言うと、ユーグが頭を下げた。
「水を操れるから、国の地下に流れる熱湯を最初に流すようにしてもらったし、定期的に温度を見てもらってる」
「………ぁぁ」
そういう事ね。
機械の遠隔操作など、いくら技術者が優秀だからと言っても、開発が早すぎると思った。
人が近づけない場所が、精霊も近づけないとは限らないものね。
「………ひょっとして穴掘りとかパイプ設置とかも精霊の力が?」
「穴掘りも設置も機械だよ。それは人の技術で何とかなるからね」
「そっか」
精霊と人とが協力して出来た事だったのね。
「………そういう協力の仕方も出来るのに、ソフィアは精霊の力を押しとどめるの?」
………ハッとした。
それが言いたくて私に言ったのか…
「確かに過度な力は人を陥れる。けれどソフィアはちゃんと自分の事を分かってる」
「………買いかぶりすぎでは?」
「少なくとも、ソフィーに過度な命令してないでしょ」
「わたくしとしては、姫様のお役に立つために何でも仰って頂きたいのですが」
ソフィーにラファエルが視線を向けると、ソフィーが少し笑みを浮かべて言う。
………2人とも、私をノせてどうするんだろう…
ため息を思わずついた。
「分かったから、それ以上言わないで。何度も言われると、最大の力を引き出したくなるから」
私だって魔法に憧れていた時期がある。
小説のチート能力にも。
でも実際に使えるってなったら、喜んで使える?
自分が国を滅ぼす程の力を持ったと分かって。
私は、この国の王太子の婚約者で。
サンチェス国の王女で。
手を出してはいけない領域など山ほどある。
犯してはならない当然の罪も。
それを理解している王女の私が、一般人のように何も考えずに容易に力を使えると思う?
常に何が起きるか分からない恐怖に支配されながら力を使う主人公なんて、物語系的にはあり得ないよね。
そのあり得ない立場が私。
だからソッとしておいて欲しい。
力を使わせないで欲しい。
そりゃ、学園で習ったような生活水準系の魔法なら私は喜んで使うだろう。
ソフィーの力だって、中だからまだ使える。
………でも、究極精霊の力を貸してもらうなど、私には無理だと思う。
ちょっと力加減を間違える、指示する言葉を間違えたら、一瞬で私は王女から罪人になるだろう。
そんなこと………絶対ヤだ。
人は…力を持ったら使いたくなる生き物なのだから。
………精霊の契約は、対等と同時に精霊に気に入られた人物に危害が及びそうになった場合、通常ならば――中までの精霊なら、相手を吹き飛ばす程度らしいけれど、究極ともなれば最悪相手を死に至らしめる程の苦しみを与えるという。
私は迂闊な行動も許されなくなった。
王女として過ごせば問題ないということなのだろうけど、あいにく私は庶民的な行動を取りがちだ。
無意識にやらかしてしまうだろうことは、否定できない。
私はソッとため息をついた。




