第122話 知らなかった方が良かった…
私は学園終了後、ラファエルと共に王宮に帰ってきた。
直接部屋に行こうとするラファエルに、私は声をかけた。
「私、図書部屋に寄ってくるね」
「え?」
「調べたいことがあるから」
「じゃあ俺も一緒に行くよ。何調べるの?」
「精霊」
私が即答すると、ラファエルが遠い目になった。
………なんでよ。
「………やっぱり精霊にソフィア取られた……」
………何を言っているのだろうかこの人は…
「………あのねぇ……ラファエルにとっては特に気にすることない事なんだろうけど、私にとっては恐怖の対象なの」
「………恐怖?」
「どう思っているのか知らないけど、学園で言っていた生活水準の能力じゃないから。究極の力を持っている精霊は、どのくらいの規模を消滅させるのか。今日は火属性だけだったから別の能力を持っている精霊を知っておきたいの。じゃないと何かが他国で起こった時、精霊と契約している人が起こしている可能性を瞬時に見極められるようにならないと、同盟に影響出るかもでしょ?」
「………」
私の言葉に考え込むラファエル。
………なんで…
ラファエルのことだから、すぐに思い至りそうなものだけど………
「私の知らないことで事件が起きて、何も判断できない。なんてことは王族としてあり得ないから。私達は知らないという言葉を決して言ってはならないのだから」
「………そうだね」
「学園に通えるようになって、ランドルフ国の事を詳しく知る機会が出来て、本当に良かったわ。ラファエル、もう隠してることないでしょうね? ラファエルの心情じゃなくて、国のことを一番に考える王太子として、私に隠し事はもう無いわね?」
「ないよ」
ラファエルは両手を挙げて、頷いた。
「じゃあ、徹底的に精霊のことを教えてもらうわよ」
「………はい…」
私の目が怖かったのか、ラファエルが若干引いた。
失礼な。
共に図書部屋に向かう。
相変わらず広い空間の部屋で、ラファエルは場所を覚えているのか、すぐに精霊に関して詳しく載っている本を数冊持ってきた。
「精霊は大きく分けると火・水・風・雷・土・氷・光・闇の8つに分けられている」
「………8つ…」
思っていたより多い。
4つか5つくらいだと勝手に思っていた。
火属性究極→森を焼き払う
水属性究極→王都くらい水没させる
風属性究極→竜巻を起こせる
雷属性究極→密集している100人くらいは感電死させられる
土属性究極→王都くらいの地面に穴を開けられる
氷属性究極→王都を氷付けできる
光属性究極→王都くらい日照りにさせられる
闇属性究極→王都を闇で覆える(2日くらい)
ラファエルの説明を簡単にするとこうなった。
私は今度こそ頭を抱えてしまったのだった。
何処が生活水準の簡単な能力だ!!
ランドルフ国の人の基準が可笑しすぎる!!
「………ねぇラファエル……」
「………なに…?」
私は机におでこをつけ、後頭部に両手を当てたまま問いかけた。
「………こんな大事なこと、学園に通わなかったら一生私に隠しておくつもりだったの…?」
「………ソフィアが気づくまでは……そのつもりだった」
「どうして!」
「大・特大・究極の能力を持っている精霊は、ここ数百年現れてなかったから」
「………ぇ…」
私は頭を上げてラファエルをまじまじと見た。
「どうしてかは分からない。まぁ、特に究極の精霊は頭も良く、慎重だから近づくことなく遠くから観察してたんだろうけど。どうしようもない国主に呆れていたのかも知れないけど、ランドルフ国は精霊に見放されつつあるのも事実。今精霊と契約している者は、両手で足りるだろう位の人数」
「………契約している人数分かってるの……?」
「俺が契約している精霊は水属性に分類されて、人の目に幻を見せる、みたいな能力なんだ」
………水鏡の応用、みたいな感じかな……?
蜃気楼?
でも蜃気楼なら光属性に分類されるかな?
「この幻の能力は精霊の契約者にも有効で、ある意味催眠のようなものをかけられる。それで誘導してみるんだ。さり気なくね」
「………へぇ…」
「でもそれだけ。能力は中だね」
「そうなんだ。………それで? 今私に学ばせようとしたのはどうして?」
「………」
ラファエルは私を――私の後ろを見た。
そして嫌そうな顔をする。
………何なの……?
「………ソフィアの周りに究極だろう精霊が集まってきてるから」
「………………………は!?」
私は思わず座っていた椅子から、ガタンと立ち上がってキョロキョロ辺りを見渡した。
でも当然部屋しか見えず。
「………本当に……?」
「………本当に……」
………それが本当の話なら、本当の危険人物は私なのではないだろうか……
ってか、チートになるとか嫌よ!?
そんな過剰な能力要らない!!
むしろ、私一生知らないままの方が良かったんじゃないかな!?
私は唖然としたまま、暫くラファエルの嫌そうな顔を眺めるしかなかった。




