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第12話 居場所は何処にありますか




父である王に話を断られてから三週間。

その間何度か手紙を出したが、同じ内容で返答された。

その度に自分が無力だと思わされる。

いっそ直訴しに行こうと思ったけれど、それは出来なかった。

私が父に出した手紙以上に私への手紙が届いていたから。

その相手は一人しかいない。

ラファエルからだった。

約束通り、手紙をくれる。

私の返事は要らないのかと聞きたいくらいに毎日手紙が届いている。

これではここから出掛ければ最後、いないことがバレてしまう。

何故かというと、彼の手紙が来る度に私は返事を書いてカゲロウに持って行って貰っている。

そしてテイラー国の運び屋に届けて貰っているのだ。

ラファエルは運び屋に化けているライトに手紙を渡すようにさせている。

普通の運び屋に手紙を託すなんて危ないことは出来ない。

ランドルフ王家にバレたらどうなるか分からないし。

勿論、影のことはラファエルに話していない。

それとなくライトを付けているだけ。

自分が無力な人間と分かり、落ち込んでいた。

でも、彼の手紙が届くようになって一度落ち着いた。

私が、状況を教えてくれるようにと手紙を要求したのにも関わらず、彼の手紙は私に対する想いだけが綴られていた。

“好き”

“愛している”

“ずっと一緒にいたい”

など、本当にそれだけ。

短い手紙だけれども、今度はどんな言葉が書かれているのかとドキドキする。

けれど同時に、民のために何も出来ない自分に失望していた。

街に行きたい。

後どれぐらいの時間が残されているのか。

私がラファエルの隣に居られるのは王女であるから。

王族としての立場をわきまえていたから。

だから観察され、平民のように過ごしていた私に恋をしてくれた。

両方が合わさったから彼は私を選んだ。

だから私は、平民みたいに居るだけで良いわけではない。

ちゃんと王族として動かなきゃいけない。

だから私は彼から情報を聞いて対策を考えて立案しなきゃ。

じゃないと私はここにはいられない。

彼に相応しくなくなってしまう。

………そう思ってしまう私は、もう王族失格なのかもしれない。

民よりも、彼が大事だなんて……

本当に、前世の記憶なんて要らなかったな……

………彼を好きになった心も……

そうすれば……私はちゃんと王族として生きていけたのだろう…

………いずれ本当に、彼に捨てられるだろうな……

こんな私……必要なくなって……

フッと諦めた自虐めいた笑みを浮かべ、今日届けられた手紙の封を切った。


「………ぇ」


そこには、待ち望んでいた言葉が書いてあった。


『テイラー国の何十店かの被服屋に

 機械を受け入れてもらえました。

 前金として頂いた金額で、

 ランドルフ国の半数には食べ物が

 行き渡るでしょう。

 更に機械に合わせた丈夫な糸も提供すれば

 継続的な収入になります。

 幸いサンチェス国に見本とするために

 何種類かの糸を用意していましたから、

 これを継続的に作ることが出来れば

 新たな資金源になります。

 私はもう何件か回って一度帰国します。

 待ってて下さい。

 愛しいソフィア』


ポタッとラファエルの手紙に雫が落ち、慌てて拭って手紙を遠ざける。


「よ、かった……」


これでサンチェス国に交渉できる。

王に援助をお願いできる。

借金をしてでも民を生かせる食べ物が手に入る希望が出来た。


「カゲロウ、父に手紙を」

「分かった~」


予めラファエルが交渉に成功したらすぐに王に出せるようにしたためていた手紙。

もう一度読み返し、不備はないか確認。

カゲロウに手渡せばすぐに出て行く。


「う……っ」


我慢していた涙が、どんどん溢れてきた。

拭っても拭っても止まることはない。

今まで自己嫌悪ばかりだった。

民のことを考えられなくなった自分が嫌だった。

でもラファエルのおかげで目の前が明るくなった気がする。

まだ、ソフィア・サンチェスとしていられる気がした。


「………あと、どれぐらいだろう……」


早く彼に会いたい という心。

彼に会いたくない という心。

どちらの気持ちも私の中にある。

弱気になっていた私を彼が見たら失望するだろう。

でも、恋する心は彼に会いたくなっている。

彼に見放されるまで、私は彼の傍にいたい。

そしてもう要らないと言われたら、潔く去ろう。

改めてそう決意した。




そして一週間後、カゲロウが戻ってきて、援助をするという王の返事を持ってきてくれた。

予めいつも取引している国境の門ではなく、カゲロウとライトが使っているルートを王に教えてくれたらしい。

その道を通って物資を送ってくれたそうだ。

感謝し、私は離宮から抜け出した。

勿論カゲロウに連れて行って貰ったけれど。

カゲロウが荷馬車の護衛もしてくれたらしく、もう近くまで持ってきてくれているらしい。

本当に早い対応で助かる。

これを近くの街から振り分けていく。

王族に知られないように。


「王と王妃の影達も、御者に扮して護衛してくれてるよ。街に振り分けるのも手伝ってくれるって」

「………ぇ」

「王も厳しい顔してたけど、最初の手紙を読んだときから、姫様の手紙を待ち遠しそうにしてた。前もって物資を準備してないと、こんなに早く運べないよ」


カゲロウの言葉にハッとする。


「じゃ、じゃあ……お父様は……」

「王は国益重視だけど、闇雲に民を見捨てる非情ではないよ~。姫様と同じく民を大切にしてるんだから、姫様の気持ちも分かってた。でも、自国民ならともかく、同盟国と言っても自国の民じゃない。簡単に援助するなんて言えない。だから姫様の婚約者の手腕を試したいってさ」

「試すって……そんな事で民を!」

「でないと今後も続くでしょ? 王族の傲慢が」

「………」


カゲロウの――王の言うことは分かる。

けれど、私の心はそう簡単に割り切れなかった。

それが一国を背負う王と、ただの王女の違いなのだろう。


「援助はいつまでも続かない。だからちゃんとした金品を確保する力量があるか試すために、静観するって言ってた」

「………」

「サンチェス国もお金が無くては植物の種や肥料を得ることは出来ないからね」

「分かってる! ………分かってる……ごめん……ありがと……」


外で泣いてはいけない。

私は王族だから。

父の気持ちも考えずに怒っていた自分が恥ずかしい。

個人の気持ちじゃなくて、国として考えないといけないのに。

つくづく私は、王族に向いていない。

私はそっと目を閉じた。


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