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第115話 理想の関係の為に ―M side―




ノック音が部屋に響き、入室を許可する。


「マーガレット、入るよ」

「ええ」


入ってきたのはスティーヴン。

わたくしの婚約者。

昔から知っている彼とわたくしは、気心知れた仲。

お互いが思っていることは、なんとなく分かる関係。


「あの人達、王太子とサンチェス国の王女、だろ?」

「よく分かったわね。面倒なことには関わりたくないと言っていた貴方が」

「分かるよ。マーガレットの兄のヒューバート殿が王宮騎士になったのは、王太子の動向を探るためだろ。マーガレットが王家の事を気にし始めたのはサンチェス国王女が来てから。国が変わり始めてから。ヒューバート殿が王宮騎士になった以上、俺は公爵家に入って家督継がなきゃいけないんだから、それぐらい調べるさ」


ドスッとスティーヴンがソファーに乱暴に座る。

昔から面倒事が嫌いな彼は本当に面倒くさそうにしている。


「貴方にはずっと王宮騎士になってもらう事は出来なかったからね。その性格上」

「やだよ。ずっと頭を下げ続ける人生なんて。それに俺は畏まったところが性に合わない」

「でしょうね。それに貴方は忠誠を誓えないものね」

「俺の忠誠はとっくの昔にマーガレットのモノだ」


当然という顔で見返してくるスティーヴンに、わたくしは苦笑する。


「………それで? 王女は信用できるのか?」

「失礼ね。ソフィア様とお呼びしなさい」


スティーヴンの言い方に、わたくしは注意した。

その言葉にスティーヴンは口角を上げる。


「へぇ? 惚れ込んだんだ?」

「お話しさせて頂いて、ソフィア様は間違いなくこの国に不可欠な人だと分かったわ。影の情報で分かっていたことだけれどもね」


わたくしは窓際に近づいた。

パーティが終わった屋敷は、賑やかだった時間が嘘のように静まりかえっている。


「………ですからわたくしは、絶対にソフィア様に気に入られなければいけないわ。お父様の為にも、公爵家のためにも、この国のためにも。その為には、信頼を取り戻さなければ」

「マーガレットがそこまですることはないだろ。あの王女――ソフィア様が異常であって、本来令嬢としてはあり得ない行為だ」

「そのあり得ない行為のおかげで今の国があるのよ?」


思わず冷え切った目でスティーヴンを見ると、彼は肩をすくめた。


「わたくし達がしなければならなかった事を、他国の王女様にやらせておいて、まだ傍観者でいられるはずがないわ! わたくしが迷って動けなかったことを、ソフィア様は迷わず突き進んでいらっしゃる。常識などに囚われていては何も変わらない。そう、体を張って教えてくださっている。それに続かなくてどうしますか!」

「………分かったよ。俺もやればいいんだろ。ったく…マーガレットをソフィア様に取られた気分だ…」

「あら、男女の恋愛と、女の友情を一緒にしないでくださる?」

「………友情って言うが、まだその域に達してないんだろ? まだ知り合いって所じゃねぇか。ソフィア様に止められていただろ」

「………聞いてましたの…?」


スティーヴンはラファエル様に捲し立てていたのに。

全て分かっていてソフィア様との会話の時間を作ってくれていたのね。

聞いてたのは予想外だったけれど。


「………ソフィア様はわたくしが協力することが、迷惑なのかしら…」

「………迷惑っていうより、巻き込みたくないんじゃねぇの?」

「え……」

「あの王女――ソフィア様は自分がやっていることが非常識だって分かっている。だからこそ、公爵令嬢であるマーガレットを巻き込みたくないと思っていると思うけど?」


スティーヴンの言葉に、わたくしは唖然とする。


「………スティーヴン……貴方……」

「マーガレットが接触しようとしている人物だぞ? 俺が相手を危険かどうか判断する必要があるだろ」

「ソフィア様のプライベートまで覗いたの!?」


スティーヴンは、疑えば徹底的に調べる傾向がある。

それは昔から。

わたくしに近づく男達しかり、公爵家の敵になる者達しかり。


「失礼じゃない! 王女様なのよ!?」

「だからこそだろ! 何かあればマーガレットが消されるかもしれないだろ!」

「それは無いわよ! もしそんな事があるとすれば、わたくしが何かしらの非礼をソフィア様にしてしまった時よ!」

「そうなったとしたら俺が王女を殺す」

「バカなことを言わないで!!」


スティーヴンがわたくしを愛してくれていることは、純粋に嬉しく思っている。

けれど、その感情が時にこうなってしまう。


「そんな事をすればランドルフ国が沈むわ……それどころか、サンチェス国との同盟がなくなり、サンチェス国からの攻撃を受けることになるわ。そうなってしまえば、わたくしも貴方も死ぬわ…」

「………」

「絶対にソフィア様に手を出さないで。ラファエル様にもよ。お2人は正しい判断が出来る人達。もし間違っていることを万が一にもされてしまった時は、言葉で伝えれば分かってくださる方達ですわ。スティーヴンもちゃんと言葉で伝える努力をして。この家を継がなきゃいけないと、さっき言ったわよね? 公爵が力で解決するということは、権力に物言わせて従わせる事に他ならない。非道に成り下がるわ。……国王と王子達がしてきた事と何が違うの? それを貴方もするなら、婚約は解消するわ」


ガタンッとスティーヴンがソファーから立ち上がって、わたくしを驚きの目で見つめてくる。


「………力ずくで解決なんて……わたくしは、貴方をソフィア様自身で見極めて欲しいと願ったのよ…? わたくしは貴方を信頼してたから…ちょっと過激な言動はあるけれど、それも個性だと思っていた。…なのに、王女様を殺すなんて簡単に言葉にするなんて……わたくしの信頼を裏切る人だったなんて!」

「ぁ……ご、ごめん! マーガレット! ごめん…俺が悪かった……謝るから……解消するなんて言わないでくれ…」

「………もし、ソフィア様が傷ついたと聞いたときは、貴方の仕業だとわたくしは疑うわ」

「………ご、めん……」

「2度目はありませんから」

「………分かった」


スティーヴンをそのままに、わたくしはもう一度窓の外に視線を向けた。

………あの時の……ソフィア様に言えなかった言葉……


“ソフィア様は、わたくしが改国にご協力することはご迷惑でしょうか?”


………今まで何もしていなかった女からこんな事を言われては、ソフィア様は困ってしまっただろう。

信頼してもらうにはどうすればいいのだろう。

公爵令嬢であるわたくしには、他の者達が近づいてきた。

自分から相手に信頼してもらうために動いたことはない。

ソフィア様にとって、わたくしは貴族の令嬢の1人。

それだけでしかない。

それ以上でも、それ以下でもない。

………学園に通うと仰っておられた。

恐らく、素性はそのままで。

学園の人間はソフィア様に群がるか、遠巻きに見るか。

いずれにせよ、お近づきになれた今、他の令嬢よりは一歩進めていると思う。


「………スティーヴン」

「………何?」

「………ソフィア様が学園にお越しになるわ。恐らくラファエル様も。絶対に失礼なことをしないで。わたくしはソフィア様と親しくなりたいの。お力になりたいの。貴方のせいで台無しにしたくない」

「………分かった…マーガレットの為に…」

「わたくしの為ではないわ。ラファエル様とソフィア様、国の為よ」

「………ん…」


わたくしのお心をソフィア様に分かって頂くためにも、ソフィア様の為に尽くさなければ。

今まで動かなかったわたくしは、その分動かなければ信頼されない。

わたくしはグッと手を握りしめた。


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