第113話 公爵家パーティに潜入です
数日後、正式な公爵家のパーティの招待状が届いた。
ラファエルと私は、王族ということを隠しての参加となるため、貴族用のドレスコードを用意した。
こればかりはラファエルに買ってもらうしかなく、私はやむを得ず嫌々購入してもらった。
基本、王族は仕立て、貴族は高級既製品。
私はお忍びで平民服を着ることや、貴族服を着ることはあっても、貴族ドレスは持っていなかったから。
自分で買う、と最後まで言えないほどにラファエルが捲し立ててきたので、私の方が最後に折れてしまった。
ご機嫌なラファエルを見ていると、これで良かったのだと思ってしまう。
「ソフィア、準備できた?」
「うん」
部屋に入ってきたラファエルに返事をし、私は座っていたソファーから立ち上がった。
ラファエルが買ってくれたドレスは、ラズベリー色にフリル控えめで落ち着いていた。
ネックレスも小さなもので、トップにルビーが1つついているだけなもの。
今回の髪型はアップにせずに少し巻いているだけ。
髪飾りはバレッタに首元までの長さに編み込んだミサンガもどき。
私が自作した。
今回の私は階級が低い辺境貴族、といった呈で参加する。
………予定なんだけれども…
「ん?」
………首を傾げて私を見るラファエル。
私のドレスと色もデザインも合わせて、シンプルなんだけどもね……
イケメン過ぎるから何着ても高貴な生まれだと分かるのよ!!
私物凄くアンバランスな気がするよ!!
「ソフィアは何着ても可愛いね」
………褒めてくれてるけど、なんかラファエルと並ぶの嫌になってきた……
ドレスが女性の戦闘服って言われてるのがよく分かるよね…
いつもの王族ドレスじゃないと、釣り合わない気がする…
「ソフィア?」
「………ん。行こうか?」
「うん。ダンス楽しみだね」
………ラファエルさん?
本来の目的忘れないでね…
そう思いながら私とラファエルは馬車へと向かった。
ガルシア公爵家に行くということで、イヴとダークの護衛は勿論、今回ガルシア公爵のご子息である騎士も参加させることにした。
彼は騎士ではなく参加者の方で。
王宮騎士が公爵家に行くのは可笑しいしね。
彼は先に実家に帰っているだろう。
公爵家へは馬車で数分。
乗っているだけですぐに着く。
城下へ行く道の途中で曲がり、距離的には城下へ行くのとあまり変わりない。
「見えてきたよ」
ラファエルの言葉に私は窓から外を見ると、綺麗な屋敷が見えた。
流石機械の国とあって、丈夫に作られているようだった。
日本でいうとコンクリート造りって言えばいいのかな。
街や村は木造だったけれども。
眺めていると馬車が止まった。
門までは結構距離がある。
先に着いていた招待客の馬車が門から道を塞いでいるから。
「歩くけどいい?」
「うん」
「じゃ、行こうか」
ラファエルにエスコートされて馬車を降りて、ガルシア公爵家へと向かった。
門からは溢れんばかりの人。
これだけの人数がいれば私は紛れ込めるだろう。
ラファエルは群青色のカツラをかぶって、同色の瞳の色に変えてある。
この世界でもカラーコンタクトあるのかな?
彼もバレることはないだろう。
入り口で招待状を見せて屋敷の中へと入った。
入り口からパーティ会場まで一本道だった。
真っ赤な絨毯が道しるべのように敷かれている。
そして会場に入れば広い空間があり、壁側に丸テーブルがあってその上に料理やグラスが並んでいる。
天井にはシャンデリアが5つ。
思ったことはただ1つ。
贅沢すぎる。
だった。
貴族の見栄は分かるけど…
公爵故に必要以上に豪華にしないといけないのも分かるけど…
私には合わないな…
今の王太子の婚約者用の部屋も合わないんだけどね…
慣れなきゃいけないんだろうけど…
視線だけで周りを見ていると、奥にマーガレットがいるのが見えた。
彼女もこちらを認識したらしく、目礼された。
こちらもし返し、ラファエルを見上げる。
ラファエルが私を壁際に誘導し、パーティが始まるまで他愛のない話をしていた。
そうこうしていると、公爵の挨拶が始まりパーティが開始された。
流石公爵家といったところで、殆どの貴族達が集まっているようだった。
そして、派閥だろう固まりが出来ていくのも。
実に分かりやすい。
「………あちらは旧国派でそちらは中立派で、向こうが新国派、かしら?」
「正解」
小声で呟くと、ラファエルからも小声で返答があった。
旧国派は、ラファエルの父が行ってきた国政継続を支持している派閥。
新国派は、ラファエルの行っている改国を支持している派閥。
そして中立派はそのどちらにも属さない派閥。
現在は公言していないのか、ガルシア公爵は中立派の人達と話し込んでいる。
両派閥の人達には最初に挨拶のみを交わしていた。
マーガレットは令嬢達に囲まれ、話し込んでいる。
令嬢は国政にも派閥にもあまり関係ないので、主催者の令嬢に媚を売るために集まっているのだろうけど。
「………あの令嬢達、どう思う?」
「ソフィアの方が可愛い」
「………そんな事聞いたんじゃないんだけど……」
即答されて、私は反応に困ってしまった。
「………少なくとも当主に派閥に引き込めるように、それとなく仲良くなれとかは言われているだろうね」
「別の派閥派の自宅パーティに出席すれば最後。引きずりこまれるわよね」
「ホント、こういう派閥争いはうんざりだよ」
「………旧国派の対策は?」
「不正の証拠は握ってる。でも、一斉に切るには時期尚早。また借金増やされる前に何とかしたいけど、まだ彼らには使い道があるからね」
「………繋がっている者達の割り出しが不十分って事ね」
「そう。まだ、隠されたルートがあるかもしれないからね。彼らも悪巧みのプロだから。抜け道はいくつも持ってると思うよ。俺が動けないから影に動いてもらってるけど、相手の人数が多いからね。それに向こうの影も腕は立つから」
ラファエルの言葉に思わずため息をつきたくなる。
やっぱり国って、人って、複雑よね。
そう思っていると、コツコツと足音が聞こえてくる。
視線を向けると、マーガレットがこちらに歩いてきていた。
私とラファエルは壁際の人気のないところにいたから、会話を聞かれてないと思うけど、一応警戒。
マーガレットだけならいいけど、彼女は男性にエスコートされて来ていたから。
「ようこそおいで頂きました」
「マーガレット様。この度のご招待ありがとうございます」
ラファエルが礼をして、言葉を返す。
「こちらはわたくしの婚約者で」
「スティーヴン・クラークと申します」
………スティーヴン……王冠………冠…って意味だったっけ……?
………クラーク……聖職者…?
………え?
聖職者の王なのかしら…
って、そんな事ないわよね。
ついつい考えてしまう。
長身で、金――というより、ハチミツ色? の短髪のイケメン。
………やっぱりこの世界ってイケメン率高いのかしら?
「わたくしはフィリップ。こちらはわたくしの婚約者のアンリです。辺境の没落貴族故、家名は秘めさせて下さい」
ラファエルが偽名を言うけど……適当すぎじゃないですかね……
絶対ふと頭に過ぎった単語を言っただけでしょ…
まぁ、唯華って言われないだけマシだけど…
「なら、道中大変だったでしょう。数日こちらで滞在なさるのですか?」
「いえ、すぐに帰らないといけませんので」
「そうですか。残念ですね…」
スティーヴンが困った顔になる。
………これはどう判断したらいいんだろう。
私達の正体は気づかれてないだろうけど。
「マーガレットがお世話になった方だと先程伺ったので、私からもお礼をと思ったのですが…」
「マーガレット様に、ですか? いえ、わたくし達は何も…」
ラファエルが首を横に振りながら否定する。
けれどスティーヴンが手を上げ、ラファエルの言葉を遮る。
「マーガレットが本日お忍びで街に出た時に、絡まれていたところを助けて頂いたとか。お礼もしないのは公爵令嬢の婚約者としてあるまじき事です」
………いつの間にそんな話になったのだろうか…
「是非、何なりとご要望を!」
ズイッと一歩スティーヴンがラファエルに近づいた。
………たった一歩なのに、何故距離が一気に縮まったように感じるのだろうか。
ある意味怖い。
「い、いえ……お気持ちだけで充分です」
ラファエルの顔も引きつっている。
笑顔を保つのが難しくなっているみたいだ。
「いえ! こちらの気が済みません! ただ、どんなに請われてもマーガレットだけは譲れませんが!」
………ぇ……
なんでここでそんな選択肢が出てくるのだろうか…
私、婚約者だって紹介されたよね……?
スッと私は気配なくその場から離れ、スティーヴンの背後に回ってマーガレットの隣に立った。
「………彼、猪突猛進タイプですか?」
「………実は…そうなのです……真面目すぎるのが相手を困らせるのです……ちょっとラファエル様に似ていますわよね?」
「………ぇ……?」
………どこが?
確かにラファエルは真面目なところはある…仕事に対してだけど…
マーガレットにニコッと微笑まれた。
「わたくし、ラファエル様がソフィア様と話している所を拝見して、スティーヴンと似ていると思いましたわ。婚約者一筋なところが」
「………」
その言葉に、私の頬が引きつった。
微笑んでいるマーガレットは、愛されているのが当然という風な感じだった。
………さすが公爵令嬢……
私、そんな事言えないし、思えない…
ラファエル同様、私もどうしようか困ってしまった。




