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第111話 傍観者は加害者と一緒です




ラファエルと公爵が私とマーガレットの元に来た。

話は終わったようだ。


「ソフィア。変わったことなかった?」

「あるはずがありませんわ。少しの時間でしたし、お庭でティータイムを取っていただけですし」

「いいな。私もソフィアと是非お茶したいよ」

「まぁ。ラファエル様ったら」


公爵達の前なので、作った会話をしなければいけないのが堅苦しいのだけれど。

こればかりは仕方がない。

私は立ち上がって、公爵に礼をする。

ドレスの裾を少し摘まんで、腰を少し落とす。

それで私からの挨拶が開始される。


「ソフィア・サンチェスと申します」

「お目にかかれて光栄でございます。わたくしは公爵の位を頂いておりますローゼン・ガルシアと申します。以後、お見知りおきを」

「こちらこそ」


私は公爵に挨拶し終えて、座り直した。

ラファエルが隣に座り、公爵をマーガレットの隣に促した。


「ラファエル様。お話は終わりましたの?」

「終わってなかったら来ないよ。これから公爵には色々動いてもらうことになった」

「それは心強いですわね。これで少しはラファエル様が休息を取れることを祈りますけれど、ラファエル様は負担がなくなった分、追加でお仕事をしてしまいますからね」

「そんな事ないよ。ちゃんと休んでる」

「あら? そうですの? わたくしが知らないお仕事までなさっていると伺いましたが?」

「え? 誰から? どの事を?」


ラファエルに問いかけられたけれど、私はふふっと笑って誤魔化した。

後でゆっくりと問い詰めさせてもらうよ。

私の表情が怖かったのか、ラファエルの笑みが少し引きつった。


「ガルシア公爵はおいくつですの?」

「わたくしは40になります」

「まぁ。お若い時に継いだのですね」


貴族の当主は王家とは違い、40~50で世代交代が普通だけれど。

ラファエルから公爵はその地位についてから10年目に入る年だと聞いている。


「父の体は余り丈夫ではありませんでしたから。わたくしが継ぐときには、ベッドから降りることもままならなくなっておりました」

「そうでしたの。今もご存命で?」

「はい。身体が弱いのであって、内に持つ病気などはございませんので」


なるほど。

障害ってことね。


「ご子息は跡を継ぐ意志はありますの? 王宮騎士になっていると伺っておりますが」

「お恥ずかしながら、息子は公爵の地位より武に関心があるようで。勉学より剣を選びました」

「それでしたら、マーガレット嬢の伴侶が公爵家へ?」

「はい」


公爵の言葉にチラリとラファエルを見た。

けれど、ラファエルは目を閉じて紅茶に口を付けていた。

………ぉぉぃ……

これ、結構重要な話なんですけど!?

幼い頃から公爵が躾けた息子が家督を継がずに、外部の者が公爵となれば、問題が生じるんですけど!?

その者がこちら側とは限らないから。

王家に刃向かう者が公爵令嬢の伴侶ってだけで家督を継げば、やりたい放題されるんですけど!!

人の本性はその時になって初めて分かる場合が多いから。

作った顔で接して、地位を得た瞬間に化けの皮を剥がす。

そんな人、いくらでもいる。


「ソフィア様。宜しければ今度お忍びで家のパーティに参加いたしませんか?」


マーガレットに言われ、私は彼女に視線を向けた。


「ソフィア様が杞憂している件は、わたくしの婚約者にお会いして頂いてご判断頂ければと」


………おっと。

心を読まれたぞ。

侮れないわね公爵令嬢…


「………失礼ですが、わたくしがその方を信用できないとお伝えすれば、マーガレット嬢は婚約を解消なさるのですか?」

「はい」


即答され、私は眉をひそめた。


「わたくしの婚約者は幼なじみなのです。昔から気心知れた者です。ですが、わたくしは昔から知っているから信頼しておりますが、ソフィア様やラファエル様にとっては、この国の現状故に信用できませんわよね?」

「そうだな」


ラファエルも即答し、思わずギョッとしてしまいそうだった。


「ですから直接見定めて頂けませんでしょうか? わたくし自身がお2人に信用されていないことも承知しております。わたくしたち公爵家の人間は今まで国のために腰を上げようとせず、民のためにと何かをしようともしておりませんでした。自分がお恥ずかしい」


マーガレットは私を真っ直ぐに見つめてくる。

………私じゃなくて、ラファエルを見つめるべきだと思うけど…

国主はラファエルなのだから。

公爵家を生かすも殺すもラファエル次第。


「わたくしは王に膝をつけぬと、目に触れる行為を避けておりました。民を苦しめる行為に引きずり込まれることを拒んだ故の現状です」

「………静観者でも加害者の一員ですからね」

「はい」


私の少し厳しい言葉にも、マーガレットは頷いた。

悪事をしている者が民を苦しめ、止めることをしない行為は民を苦しめている事に変わりない。

権力者が民を苦しめた。

その事実がある以上、公爵家も同罪だ。

それをマーガレットもよく分かっている。

公爵も自覚あるようだった。


「………ラファエル様、変装はお得意ですか?」

「いきなり何? 侍女に頼めばそれなりに変われると思うけど…」

「あら? わたくし1人で公爵家のパーティに参加しても宜しいのですか? では、ルイス宰相か誰かにエスコートを願っても宜しいでしょうか?」

「!!」


ガタンッとラファエルが音をたてて立ち上がった。

………王太子の仮面が脱げた……

鋭い視線を送ると、ラファエルがハッとして咳払いをした。

………誤魔化せてないと思うよ?


「ダメだよ。ソフィアのエスコートは私以外にいないし、させないからね」


ニッコリ笑ってラファエルは言った。

………取りあえず、座ろうか?


「良かったですわ。ラファエル様、よっぽどパーティに行きたかったのですね。久しぶりにラファエル様とご一緒できる時間が出来て嬉しいです。わたくしも嬉しすぎて立ち上がってしまいそうですわ」

「これは…失礼した」


ラファエルが恥ずかしそうに座り直した。

公爵とマーガレットの視線が、妙に生暖かくなったような気がするのは気のせいにしておこう…


「では、正式な招待状をお待ちしておりますね」

「はい。ありがとうございます。楽しみですわ」


マーガレットが微笑み、その後は当たり障りのない会話をしていた。


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