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第11話 お願いは聞き入れてもらえませんでした




ラファエルをテイラー国に送り出し、私はライトとカゲロウを呼んだ。

彼らは私が小声で名を呼んだらすぐに目の前に姿を現すから不思議。

二人に私の手紙をサンチェス国の王、つまり私の父親に渡すように言い、見送った。

一週間後、彼らは王の返事を持って帰ってきた。

書いた内容は“ランドルフ国に送った物資分、一時的に更に追加で送ってもらえないか”という事。

ランドルフ国の現状を内密にして欲しいとはじめに書いて。

こういう事は誤魔化したらいけない。

騙したことになれば、もう二度と信用されなくなる。

つまり、サンチェス国がランドルフ国を見捨てる。

国益を優先するサンチェス国に、ランドルフ国の現状を話せば見放される可能性が高かった。

でも、私がラファエルをテイラー国に行かせた理由も書いた。

何もかも正直に。

それが王との交渉の第一歩になる。

私は手紙を受け取って、封を切った。


「………はぁ!?」


呼んだ後、私は思わず手紙を握りつぶしてしまった。


「姫様顔怖~い」

「あの頑固親父め!!」


私が怒ったのには、当然訳があった。

王の言葉を要約すれば…


“テイラー国との交渉が成功してから言ってこい”


だった。

今、困窮している民のために、食を確保したいのだ。

ラファエルを信用してないって事じゃない。

でも、交渉もどれぐらいかかるか分からない。

一時凌ぎでも、民のために必要なのだ。

民が皆いなくなってからようやく物資が運ばれてきても遅い。

今も何処かで民が命を落としているかもしれない。

一分一秒も早く対処したいのに、やはり父は冷酷だ。

そりゃサンチェス国に問題を持ち込まれたくないのは分かる。

でも、ランドルフ国の技術が使えなくなれば、いずれこの国のように民が苦しむことになる。

そんな事も分からないのかあの親父は!!

うがーっとそんな事をライトとカゲロウの前で叫ぶ。

彼らは見て見ぬふりだ。

………まぁ、叫んでスッキリした頭は冴えている。


「………カゲロウ、私の財産いくらある?」

「ん~何に例える?」

「王都に住む民の数で一日分の食が何日分?」

「………七日と持たないと思うよ」


それならばランドルフ国全土の民に到底行き渡らない。

サンチェス国で生活している間に、事業を立ち上げていたけれど、その利益を当てても無理か。

私が立案し立ち上げた事業とは、日本で言う服飾雑貨。

装飾品が主だった。

出来合いのバッグや小物入れなどの布に装飾を施す、いわゆるリニューアル品やリサイクル品。

貴族は使用した物は一度使えば捨ててしまう。

それを買い取ってリメイクして販売する。

貴族が買うはずもないから庶民向け。

高額にするわけにもいかず、買い取り価格を出来るだけ下げて、利益が出るように最低限の金額で売っている。

庶民には人気があるけれど、蓄えがそんなにあるわけでもない。

テイラー国との同盟が出来れば、貴族向けの商品も作れるだろうけど、そもそもサンチェスもランドルフも同盟を結んではいない。

更にランドルフよりもサンチェスの方が同盟の可能性が低い。

技術があるわけでもない。

そんな国との同盟を望んでくれるはずもない。


「八方塞がり」


私は天井を仰いだ。


ラファエルがいつ帰ってくるのか。


交渉は成功するのか。


民はそれまで生きていてくれるか。


お金を何処から捻出するか。


考えても思考は空回り。

良いアイデアが思いつかない。

冬の食材と言えばキャベツやさつまいもやながいもとか?

あ~!

この世界に日本のパソコンとネット環境が欲しい!!

私、食の知識なんか殆ど知らないよ!

農家でもなかったし、料理とか出来なかったし!!

こんな事なら食にもっと気を配るんだった!

カゲロウやライトに作るぐらいの手料理は、おぼつかないけど出来る。

でもそれだけ。

もしラファエルに作ってと言われても、全力で拒否するぐらい本当に下手なのだ。

カゲロウやライトには何故か気に入られてるけど…

………そういえばこの世界で産まれてからも、与えてくれるものを食べていただけだったな……

ダメだわ私……

なんの知識も無い、子供だ。

対策を立てることは出来る。

でもそれは教育の賜物で……

この世界の食べ物が一からどうやって作られるのかとか、どんな作業が必要なのかとか、全然知らない。


『そんな事は知らなくて良いんですよ。こういう食べ物があるとだけ、知っていればいいのです』


教育係の女の声が頭に思い出される。

日本と似たような食べ物はあれど、全く同じものっていうのが存在しない。

サンチェス国で冬の食べ物が作られているはずもない。

………自国の王女に自国の食の知識が必要ないって……

………ぁぁ、私が“王女”だからか。

第一王子は当たり前のように知っているのだろう。

それが国の頂点に立つように教育を受ける者。

第二王子?

あの人はそんなの教えられても忘れてるでしょう。

最初から私は他国へ行かされる予定だったのか。

………なぁんで気づかなかったんだろう。

そりゃ社交や裁縫の教育メインだよね……

女はそこで在れば良い。

政治は男の仕事だもんね…。

私が今までラファエルに対策を提案できたのは、日本の知識のおかげだ。

前世を思い出さなければ、私は何も知らない只の飾り王女だったわけだ。

あの時……学園でラファエルの目に止まったあの出来事は、私の前世が無意識に言わせたことだったのかな…?

………分からない。

自分が無力に思えた。

何を考えても無理な気がした。

私は……何も考えない只の置物になっていれば良いのかな。

ゲームではラファエルが何とかしてたんだもん。

………私がいてもいなくても……彼はちゃんと国を救えるだろうし……


「はぁ……」


ドスッと私は脱力してソファーに体を埋めた。


「………ねぇ、ライト、カゲロウ」

「何?」

「どうしました」

「………私、ここにいて良いのかな」


何もかも、場違いに思えた。


ラファエルの婚約者。


サンチェス国王女。


そんな肩書きが今更ながら両肩にズッシリと重くのし掛かる。

出しゃばり女に命令されたくないよね…

民を放っておけない。

でも、私のせいで設定が狂ってたくさんの民を失ったら?

そんな命……前世の記憶を思い出した庶民の私が……背負えるはずもない。

王女としての記憶だけだったとしても、荷が重かっただろう…

………どうしよう……

震えが止まらない…


誰か……


助けて……


サンチェス王に断られたせいで、弱気になった。

分かってる。

ここで立ち止まったら、ダメなことぐらい。

誰かに願ってばかりでは、どうにもならないことも。

でも……一度考えた思考は消えてくれなかった。

私は強く目を閉じた。


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