第109話 ランドルフ国公爵令嬢
キュッと手にはめた手袋を引く。
王女としてのきちんとしたドレスを身に纏い、綺麗に化粧をされ、髪は編み込まれて飾りを付けられた。
飾りはラファエルにプレゼントされたバレッタを希望した。
ピアスはマズいので、イヤリングに付け替える。
「………はぁ…」
思わずため息が出た。
………コルセットを取りたい!!
息止まりそう…
………でも我慢!
私も王女としての仕事をして、堂々とラファエルの隣に立たなければ!!
拳を胸の前で握り、気合いを入れた。
「せっかく綺麗な格好をしているんだから、そんな仕草は控えなきゃね。可愛いけど」
「ひゃ!?」
いきなり腰を取られ、私は慌てて顔を上げた。
いつの間にかラファエルがいて、腰を抱きながらニッコリ笑って見下ろされていた。
ラファエルは王太子用の謁見の為に作られている服を着ていた。
普段ならただの貴族との謁見は普段着が多いけれども、今の王族は貴族からの信頼はない。
正式な格好で、形からでも信頼を取り戻そうということで、この格好になった。
私のドレスはランドルフ国のものではなく、サンチェス国のものだ。
ラファエルから今ドレスを受け取ることはないし、正式に結婚したわけでもなく、ラファエルの婚約者としてだけの立場で会うから。
「準備は良い?」
「うん。大丈夫」
頷くと、ラファエルが私に手を差し出した。
その手に私は自分の手を置き、エスコートされながら部屋を出た。
………そういえば、ラファエルにエスコートされるのは、サンチェス国の婚約パーティ以来だなと思う。
デートの時はエスコートじゃなかったし。
………なんか緊張してきた!!
悟られないように私は視線を落として、静々と歩く。
………ヒールが怖い…
運動してて良かった!!
体力もバランス感覚も鍛えられてる!
ダンスだけじゃなくて、体力作りも為になってるよ!!
でかした私!!
自画自賛してたら、応接室へ辿り着いてた。
慌ててソフィアの顔を作った。
応接室の扉の前に立っていた騎士が、扉を開く。
中は趣味が悪い金の壁。
………ここもか!!
そして金を主体にした一人掛けの豪華な椅子と、趣味の悪い形の机。
………ラファエル……これ、速攻で取り替えて欲しいんだけど!!
座りたくない!!
と、思ってても口に出せない。
「お待たせしました」
ラファエルがニッコリ笑って、立って待っていた公爵と公爵令嬢に言い、私を椅子に促し座らされる。
ラファエルも隣に座り、漸く2人も座った。
公爵は私が想像していたより若かった。
40代前半か、下手したら30代後半。
顔は整っており、イケメンだ。
………何?
この世界イケメン率高いの?
緑――いや、若緑……? の髪色に、紺色の瞳。
短髪で、若い頃は絶対モテたね。
公爵令嬢も同じ髪色と瞳の色。
ふんわりとしたウェーブで腰ぐらいまでの長さ。
小顔で、勿論顔のパーツが整っている。
………美女だ!!
敗北感が半端ない!!
「今回の謁見のご用件は何でしょう?」
内心落ち込んでいると、ラファエルが話しかけていた。
思わずギョッとして顔に出てしまいそうになり、私は心を落ち着かせる。
けど……
………ぇ?
謁見理由も知らずに許可したの!?
と、思わずにはいられない。
「最近の改国を見させて頂いておりました」
「ええ。それで?」
「是非協力をさせて頂けないかと」
「………」
公爵の言葉に、ラファエルは考える仕草をする。
多分ポーズだけ。
ラファエルの中では心は決まっているはず。
ラファエルが黙っている間は公爵は口を開けない。
ジッと待つだけになる。
「ソフィア」
「はい」
「私は公爵と少し2人で話したい」
「分かりましたわ。では、わたくしは外で公爵令嬢とお話しさせてもらっても宜しいかしら?」
「いいよ。終わったら私が向かうから」
「はい。では失礼いたします」
立ち上がってラファエルに言い、公爵令嬢に微笑むと、公爵令嬢も立ち上がり私と共に部屋を出た。
「ソフィア・サンチェスと申します」
「マーガレット・ガルシアと申します。お会い出来て光栄です」
「わたくしもですわ」
互いに微笑み、自己紹介をしながら庭へと歩く。
………ガルシア……槍……?
え?
攻撃されないよね私!?
そう思うのには訳がある。
当然イヴとダークが私の護衛として後ろにいるんだけど……
公爵令嬢の護衛は5人。
………多くないですかね?
私より多い護衛など、不敬だと思うんですが?
後ろからブスッとされそう……って心配になるし、なにより……
………サンチェス国王家舐められてる?
って思ってしまう。
私は気にしないけど、暗黙のルールがね…
そういうのには疎い令嬢なのだろうか?
と、思っていると、スッと令嬢が手で何かを指示した。
すると、護衛の4人がサッと距離を取り、立ち止まって令嬢を見送る体勢になった。
………へぇ。
令嬢の護衛が1人になり、途端に空間が広く感じる。
「構いませんわよ? わたくしは気にしませんから」
「いえ、ソフィア様の護衛より多く護衛を連れているなど、恥知らずなことできませんわ」
「そうですか」
その辺は心得ている、と。
ふんわりと笑う公爵令嬢に、私は複雑な気分になる。
………ぅぅ……美女はズルい…
微笑み一つで何でも出来そうで羨ましい。
………こんな主人なら影は言うことを聞くのだろうか。
私は内心落ち込みながら、令嬢と2人で庭へ向かった。




