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第104話 兄弟 ―N side―




早朝の運動を済ませた後、朝食の時間。

ラファエルと王女が食事をしている間、俺は部屋の隅で待機だ。


「そうだソフィア。ペンに付けるマスコットっていうのは何?」

「人形をペンに付けるの。動物だったり花だったり、何でも良いんだけどね」

「じゃあ俺のペンにはソフィアにん――」

「却下」


目を輝かせて満面の笑みで言ったラファエルの言葉は、王女にバッサリと切られていた。


「何で!?」

「人型のマスコット人形なんて作れるわけないでしょ?」

「ソフィアの顔だけでも!!」

「それこそ怖い!!」

「でも俺ソフィアの人形欲しい!!」

「だから嫌だって言ってるでしょ!? もし内緒で作るなら嫌いになるからね」


ラファエルの顔がショックで固まった…

………何だかラファエルが哀れに見えるんだが…

王女もラファエルを好いていることは分かってるが…

2人の愛の温度差がかなりあるように見えるのだが…


「………それに、ここに来れば本物いるでしょ……」


ポツリと聞こえるか聞こえないかの声で王女が言った。

その言葉にパッとラファエルの顔が明るくなった。


「ソフィア愛してるよ」

「だ、だからなんでそんなに突然言うの!?」

「言いたくなったから」

「もぉ……」


満面の笑みのラファエルに対して、王女は顔を赤くして視線を反らしていた。

ラファエルが上の時もあれば、王女が上の時もある。

………この2人の関係はこれが普通なのか…


「っと、もう行かないと」

「ん。行ってらっしゃい」

「行ってくるよ」


ラファエルが王女の頭に唇を落とし、離れた。


「ああ、そうだ。ソフィア、今日1日ナルサスを預かってくれないか?」

「………ぇ……」


突然何を言い出すんだ。

俺は王女を傷つけた張本人だぞ!?

それに俺はラファエルがいなければ、一定の距離から王女に近づけない。


「今日は1日研究所?」

「うん。だからナルサスは連れて行けないんだ」

「分かった。ナルサスのチップに掛けた距離の制限は?」

「今の俺との距離ぐらい、かな」


ラファエルは王女から距離を取り、示す。


「分かった。気をつけるよ」


笑った王女にラファエルも笑い返し、出て行った。

………恐らく王女の気をつけるという言葉は、俺の命を奪わないように自分が気をつける、という意味だろう。

どうしてこの王女はそんな事が言えるのだろうか…

自分の命を奪おうとした男を何故、傍におけるのだろうか…


「………さて……何しようかな……」


食事を終えた王女は立ち上がって移動する。


「そうだナルサス」

「っ……は、はい……」

「ラファエルって、苦手なモノや嫌いなモノってないの?」

「………は?」


窓に背を預けて寄りかかり、王女は俺に話しかけてきた。

………淑女としてやってはいけない格好ではないのか?

本当にこの王女は型破りだな…


「私いつもラファエルに驚かされてるもの。ちょっとぐらい意地悪したいわ」


………そういう考えも、どうかと思うが…


「な、かった…かと……」


強いて言えば、王女に嫌われることだろうな…

嫌われるかもしれないと思っただけであの狼狽えようだ。


「むぅ……完璧イケメンむかつく…」

「は? いけ…?」


俺には分からない言葉を呟く王女。

首を思わず傾げてしまうと、王女は苦笑して何でもないと首を横に振る。


「今日は何の研究だろ?」

「おそらく話していたマスコットの件かと」

「ああ……本当にラファエルは私の人形作らないでしょうね…」

「それは大丈夫でしょう。あれだけ脅せば」

「おど……! 失礼ね!」


王女はイヴとかいう兵士と話している。

ラファエルと話している時と変わらない態度。

本当に王女はラファエルの前で作っていない。

………それがラファエルにとって、安心することなのだろうか。

今まで見てきた女は、表面上はイイ女だと思われたいが故に作っており、そして裏では平気で汚いことをする。

それが俺の知っている女だし、王女もそうだと思っていた。

けれど王女はラファエルの前で裏表なく自分を見せていた。

裏に通じている貴族は少なくない。

貴族の女は勿論、王族の女など、使用人に冷たく当たり散らす。

俺が見てきたのはそんな女ばかりだった。

なのに何故、目の前の王女はそうじゃないんだ。

従者に抗議はしているが、それは信頼しているからこその態度に見えた。

険悪なムードには一切なっていない。


「ラファエルだって、私に言うことを聞かせようとして拘束具見せてきたりしたんだから、私がちょっと意地悪したってバチ当たらないわよ!」


………拘束具!?

ラファエル、お前何やってるんだよ…

大事な女じゃないのかよ。

………いや、そうか…

俺達と一緒にいる時間が長かったから、そういう事でしか相手に言うことを聞かせられないと……身についているのかもしれない。

そういえば、ラファエルは一切女に興味がなかったな…

仲間が女を拘束して、言う通りにさせ、乱暴していた。

それしか見てこなかったな…

俺は女と遊んでたから、それ以外の方法はあると自然に分かったが…

………王女なら、ラファエルが至近距離で甘い声で願えばコロッといくだろうに。


「………ちょっとナルサス! 今なんか変なこと考えなかった!?」


………何故分かる!?

俺はスッと視線を反らしてしまった。


「やっぱり!? ちょっと!!」


王女は俺との距離を詰められないから、窓際で俺に怒ってくる。

………こういう時、思わず詰め寄ってしまうだろうに。

………どれだけ律儀なんだよ…

俺なんかのために。

俺は王女に気を使われるようなことは一切していないのに。

これじゃ、どっちが守っているのか分かりゃしない。


「もぉ! やっぱりナルサスはラファエルの友人だわ!」

「………ぇ…」

「そっくりだもの! 意地悪なところ!」


………それは、喜んで良いことじゃないな…


「やっぱり兄弟同然で育てば、似るよね」

「………兄弟…」

「だって、10年一緒に生活してたんでしょ? 一緒に寝泊まりしてたんだし、兄弟同然でしょ?」


当然、という顔で言われれば何も言えない。

兄弟という言葉に、俺の胸がなんだか温かくなった気がする。


「………俺がまたラファエルの傍にいるのは……王女のおかげだ…」


ポツリと呟いた言葉は、王女には届かなかったようだ。

もう俺を見ていなかった。


「イヴ、紙とペン用意してくれる? ラファエルに頼まれたアイデア書き出さなきゃ」

「畏まりました」


イヴが王女の傍を離れ、王女はソファーに座った。

街の人間が噂してた、ランドルフ国の改国のアイデアを王女が出している、というのは本当だった。

紙とペンが用意され、紙に何かを書いている王女は楽しそうで。

時々イヴと会話している王女の言葉は、俺には分からないことが多々あった。

目の前で見せられれば疑うことなどない。

ラファエルの手助けが…ラファエルと共に歩ける女は、王女以外いないだろう。

………良かった。

………ラファエルの唯一を……殺してしまわなくて……

止めてくれて……良かった。

楽しそうな王女を、俺はラファエルが戻ってくるまで、壁側に立ったまま眺め続けた。


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