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魔王回復対策会議

エリザベートの心情とか、魔王の現状とか。


「エリザベートお嬢様、何故あのような下賤の者を魔王様のお付きにするなどとおっしゃるのですか!」


「そうです、それでなくとも魔王様は今、なんらかの呪いを受けそのご記憶や思考能力に鈍りをみせておるのですぞ!」


「……シノによればあれは当たり前の老化現象、呪いでもなんでもないそうよ。」


「そのような戯言、本気で信じておいでか!」


魔城チェイテ。

魔王の孫娘たるエリザベートの居城にして魔王の療養の場でもある。

その中でもひときわ広い部屋に多数の魔族の幹部が座し、激論を交わしていた。


数十年前、勇者と戦い破れた魔王はその身体に癒せぬ程に深い傷を負い隠遁した。

…それが世間の認識だが事実は異なる。


むしろ当時の勇者は魔王に惨敗している。

命からがら逃げ帰り辛うじて生き延びたらしい。


勇者曰く。

「ベ◯マ使うラスボスとか勝てるわけねぇだろ!?」

だそうだ。


「老化などと…脆弱な人間どもではあるまいにあの魔王様がそのような…」


「確かに俄かには信じがたい話だったけど、あの男の言う通りにしたらお爺様、とても穏やかになったのよ…今まで何人の祈祷師(シャーマン)自然魔術士(ドルイド)が解呪を施しても改善しなかったのは貴方達が一番よく知ってるわよね?」


「そっ…それは…しかし!」


「あの者達は魔王様に取り入ろうとしただけの藪医者…いや、藪術師であったと言うだけであろう!」


先からペラペラと喧しい老人達が言い訳にもならない責任逃れを始め、それを射殺すような眼で見るのはサクラ。


「魔族の智慧者と名高き八賢人ともあろう方々が見苦しい事ですね?」


正に視線で人が殺せるならこれこそそうなのだろう。

老人達は一様に萎縮し、小声で不満を囁く。


「それで、貴方方には魔王様の症状を改善する手立ての一つくらいあるのですか?」


「……サクラ様、今では魔王様の代弁者とも言われてご満足ですか?」


と、サクラの鋭い視線を真正面から睨み返す銀髪碧眼の男。


魔王軍北方方面軍司令官、氷魔将クビラ。

刈り込んだ短い銀髪、名前の通り氷のように冷たい眼差し…怜悧な光を放つ視線はさながら雪豹。水属性の高位の魔術師でありながら武威にも長ける魔法拳士(マスターアーツ)ーー潜った修羅場はゆうに百を超える猛者の中の猛者。

エリザベートもまた徒手空拳による格闘を得手とするがその実力はエリザベートの数段上を行く。


北方方面軍が配属された要塞都市「ジルコニア」は魔王領の北端、最大の敵対勢力である数多くの「勇者」を輩出した宗教国家「ザルムブルグ」との国境いにある最前線であり、彼はその司令官であり最大の切り札でもあった。


「…何が言いたいのでしょう、クビラ殿。」


「確かに魔王様の症状は人間が年老いてかかる病に似通った症状とは聞いています…が。」


「…が?」


「確かに強力な呪詛が見えるのですよ、私の浄眼にはね?」


その目は、言葉にせずとも語っていた。

即ち、それをなしたのはサクラではないか、と。


「貴方が言うのであればそうなのでしょう、しかしかの男の対処で確かな改善の兆しが見えたのもまた事実です。」


その意味をくみとれぬサクラでは無いが、あえてそう続ける。


「それで場当たり的な対応をさせる為に人間風情をお付きにすると?」


「お嬢様の意志であり…私自身も認めるところです、なによりヴラド様ご自身がこの半月であの人間に信を寄せているのです。」


「馬鹿な。」


「ありえませぬ、あのお方が人間に信などと。」


「おだまりなさい!私も信じたく…ありませんよ!」


ダンッ!


再び声を大にし始めた老人達の言葉にラウンドテーブルを殴りつけるサクラ。


それを見たクビラは一瞬瞠目するもその口に笑みを貼り付け、見下すようにサクラを鼻で笑う。


「フン、所詮戦場も知らぬ貴女には呪詛のなんたるかや恐ろしさもわからんのでしょうな…いや、しかし一つだけ謝罪をしておきましょう、サクラ様を僅かなりとも疑ったのは私の間違いであったようだ。」


「…少なくとも進行を緩やかにはできるとシノは言っているわ。」


サクラが立ち上げかけた絶妙なタイミングでエリザベートが声を挟む。


「時間こそ必要だけどお爺様が完全に魔王としての資格を失う前に手にいれさえすればいい。」


「…それは、先だっての会議で話に出た神の遺産(アーティファクト)で凡ゆる病、呪いを消し去ると言う案ですか。」


「…存在するかもわからぬ伝説の類ではありませんか…甘露(ソーマ)賢者之石(ワイズマンクリスタル)…そんなものが本当に手に入ると?」


「…私が幼い頃、不治の病と言われた魔力飛散性黒斑病に罹ったのを覚えているかしら?」


ため息を一つ吐き、昔話をはじめるエリザベート。


「何故、今その話を?」


「八賢人、それにクビラ…見なさい。」


告げながら胸元から取り出したのは正八面体の各面に正四面体を持つ立体的な石、所謂六芒星をポリゴンで作ったような、と言うとわかりやすいだろうか。

地球でならばダ・ヴィンチの星と呼ばれる形の宝玉だった。


「…その石は?」


石は色を失ったかの様な灰褐色だが、嘗ては美しい色合いをしていただろう名残か、所々にメッキが残る様に虹色の透明感ある色合いを残している。


「今の話に出ていた賢者之石(ワイズマンクリスタル)の模造品よ。」


「…な、なんと…ならばそれを使えば魔王様が完治なさる、と?」


八賢人の一人がそう勘違いするのも無理はない、しかし現実はそう甘くはない。


「…これは模造品に過ぎず、一度使えば効力を失ってしまう程度のモノよ。」


「…なるほど、魔力飛散性黒斑病が快癒した理由はソレ、と言うわけですかなエリザベート様?」


クビラの理解は流石と言えた。

八賢人は逆に何処が賢人なのかと言いたくなる。


「そうよ、これと同じ物か或いは大元である賢者之石そのものを見つけられれば…」


「それが病にせよ呪いにせよ、問題はない…?」


サクラがそう続けるとザワ、と室内の皆が活気に満ちた感情の波を広げていく。


「素晴らしい」


「これで魔王様が!」


と、口々に喜色を見せた。


「とはいえ簡単な事でもありますまい?」


「ええ、ですので今この場にいる魔王軍幹部全てにお願いをしたいと思うのです。」


「…なるほど、つまりは全力でその石を探すなり、複製するなりすれば良いのですな!」


「然り!」


「然り、然り…ならば我々は複製が出来ないか研究を重ねましょうぞ!」


「我々諜報部は石を探しましょう。」


「ならば私は…北方方面軍に戻り捕虜にした中に有力な情報を持つ者がいないか探すとしましょう。」


そう呟いたクビラの顔は冷たい殺意に満ちていた。

おそらく捕虜とやらはそれを聞き出されたあとは間違いなく始末されてしまうだろう、可哀想に。


「…では、今宵の会議はこれまでと致しましょうこの模造品のデータに関しては各方面にサーチアイを通じて連絡、賢人貴下の研究部には現物を渡します。」


「「「御意にございます!」」」


重なり合う八賢人の言葉を締めに、魔王回復対策会議は終了した、実に三時間に及ぶ不毛な話だった。




*****************



魔王の居室への廊下を歩く最中、サクラが尋ねる。


「…お嬢様、よろしかったのですか。」


「いいのよ、思い出の品ではあるけどもはや残骸に過ぎないものがお爺様の回復に役立つなら、お母様も許してくださるわ。」


そう、あの石は母の形見なのだ。

だから今迄は手放すことを躊躇う気持ちから、また石の存在は本来秘匿すべきだと母に言われていたから隠していた。


「…これ以上隠しても魔王軍そのものがなくなれば意味はないからね。」


「…確かに魔王様が不在のままではいずれ今代の勇者が現れた時我々は終わりですね。」


「…そうね、できればその前に石が見つかればと思うわ。」


「今は、ヴラド様の事、ですね。」


「そうね。」


と、話がまとまった瞬間。

奥から轟音が轟いた。


「ぎゃあああ!?や、やめっ爺さん、俺は勇者じゃねぇっ、しまえ、その物騒なのをひっこめぎゃあああ!?」


「またですか。」


「またみたいね。」


シノ・イヌヅカ。

何かの足しになれば、軍備の増強にならないかと異世界から貴重な遺物(アーティファクト)を使って呼び出した人間。


強くはないがある種の賢人であった彼はお爺様の介護とやらを引き受けてくれた。

時折戦闘能力がない彼が悲鳴をあげながらお爺様の攻撃魔法や武器から逃げ出してくるがまあ、それは仕方ない。


「助けてくれサクラさんっ!?」


まさに脱兎の如く逃げ出してきた彼がサクラに抱きつくようにして泣きついている。


「……コイツ、また…。」


最近、サクラは何故かこいつに甘い。

いや、役立つのは確かだしそれなりに擁護もしてやらなくはないが…密かに姉の様に慕うサクラを取られてしまうのではないかと私は危惧していた。


「あらあら、仕方の無い方ですねぇ。」


最初など「私の身体に触れるなんて、と怒っていたサクラが…数日後にはこんな風に嬉しそうな笑顔を向ける様になった。


シノはシノでだらしない顔をしながら抱きついて、助けを求めながらにやけているではないか。


「……後で蹴る。」


何故だろう、先ほどまでの憂鬱は霧散して、イライラする気持ちが勝っていた。


「ヴラド様っおいたをしてはいけないと申し上げましたでしょう!」


怒鳴るサクラ、そして何故かそれをダメだとたしなめるシノ。


「や、あの物騒なものさえなんとかしてくれたらいいんだ、怒る必要は無いと言うか、むしろ逆効果になるから…!」


…確かに私たちは偉大な魔王があの様になってしまう事に苛立ち、日々狂っていくか、赤子の様に無知になっていくみたいにしか見えないざまに怒鳴ることが多かった。


その度にお爺様は泣きそうな顔で癇癪を起こし、その魔力だけは衰えていないために城内で止められるのは私か、サクラだけ。


だからこそ、余計に怒鳴りつけて制圧し、時には魔封じの鎖で縛る事さえした。


「……何が愛情が必要なんだ、よ…私がお爺様を愛してないわけないじゃない。」


だからこそ、苛立つのだ。

誇らしかった祖父のこんな姿は見たくなかったから。


「…でも、今のお爺様楽しそう。」


父がまだ母とともに健在であった頃。

よくあんな顔で魔杖を振り回しては父を魔法と杖術で叩き回しながら笑っていたのを思い出した。


「ちょっとは感謝してやらないでもないかも、ね。」


騒ぎはまだ収まらず、高笑いしながらシノを追い回すお爺様と、そのシノを腰に抱きつかせたままでお爺様の猛攻をいなし続けるサクラ。


「……はあ、私も手を貸すわよサクラ。」


手に愛用の籠手を具現し、魔力を纏う。

今夜も、心地よい疲れを持って眠れそうだ。


魔王様は認知症だけど、実際には呪いによるものでもあった模様。


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