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魔王、患う。

魔王様登場。


尖塔から螺旋階段を降り、広いホールを抜けるとそこには謁見の間らしきさらに広い空間が広がっていた。


豪奢なシャンデリアが天井に吊り下がり、燭台には火ではない不思議な明かりが灯っている。

まだ昼時なので天窓から差し込む光もあるがやはり閉鎖的な空間ゆえに光量は多いに越したことはないだろう。


赤い絨毯が敷き詰められ、その先には玉座があり誰かが座っていた。

絨毯の両脇には鎧姿の兵士がズラリと立ち、ハルバードを構えている。


「エリザベートか、ようきたな。」


玉座に座る人物は好々爺じみた笑みを浮かべてそう漏らした。


「…魔王様…玉座においてその、あまり威厳を損なう様な発言はおやめ下さい…。」


脇に控えたメイド姿の女性が、そう進言する。


「魔王、ヴラド・クリーグ。我が祖父にしてこの地域を統べる偉大なる魔族の長よ、跪きなさい信乃。」


魔王…ますますもって空想じみてきたが、夢ではない、その上こんな大げさなドッキリって事もなさそうだし、やはり現実なのか。


とりあえず言われた様に玉座の前で跪き、こうべを垂れる。


「……」


痛いほどの沈黙とはこの事だろうか。

静寂がプレッシャーに変わったみたいな空気の中、暫く待つと声が響いた。


「脆弱なる人間よ…ここを魔王ヴラド・クリーグの居城と知って入り込んだか!」


なんかテンプレな魔王の台詞が始まった。

…明らかに場にそぐわない。

良くみたら出来のいい人形が玉座に座していた。

声は…録音だろうか?


「……サクラ。」


「はい、何でしょうかお嬢様。」


「なんでシャドウドールが代役してるのよ…お爺様は?」


「実は先ほど異世界の白く弾力のある食べ物を口にされた折に急に顔を青くなされて沈黙されてしまいました、暫くはヒクヒクと手足が動いておられましたが、何故でしょう?」


「……つかぬ事を聞くんだが、サクラさんとやら…それ、モチって名前の食べ物じゃあないよな?」


「博識ですね、貴方。確かにそんな名前でした。」


魔王様はお爺様扱いされる高齢者。

モチ、青い顔、痙攣ーー


「今すぐその魔王様の部屋に案内しろバカ!?」


「な、馬鹿?馬鹿とは失礼な…私はこれでも魔族の中でも指折りの実力をもつサキューー」


「魔王様を死なせたいのか、お前ら!」


「え、勇者の聖剣を片手で止めるお爺様が死ぬ筈ないじゃない、やーねぇ。」


「どんな達人でも喉詰まらせたら死ぬわっ!」


バタバタと慌ただしく走り、玉座の裏から続く通路を駆け抜けるとそこには一種禍々しいくらいの黒い扉があった。

蹴破る様にして部屋に入るとそこには椅子にもたれかかったまま土気色の顔で唇は真っ青になっている先ほどの人形と同じ顔立ちの老人がいた。


「お、お爺様が泡吹いて白目剥いてる!?」


「あらあら、魔王様…死んだふりなどお戯れを。あなた様はかの勇者になます切りにされても生還したではありませんか、それがこの様な事で死ぬはずがありません…ありません、よ、ね?」


「何を根拠にそんな事ほざいてんだ、どけ、はやくしないと本気で死ぬぞこの爺さん!」


「何を…魔王様は再生魔法の遣い手でいらっしゃいます、その意識ある限り…そうですね頭さえ無事ならば自動的に再生を…」


「阿保かっ、んなもん脳に酸素が行かなけりゃ頭もまともに働かんだろうが…いや、そもそも再生とか馬鹿な話はいいからどけ!」


咄嗟にサクラとかいうメイドを突き飛ばす。

モニュン、と。

思わず触れてしまったのはワザとではない、ないのだがその感触に一瞬セクハラで訴えられはしないかと考えたが一瞬だけだ。


直ぐに爺さんの傍にあった水差しの水で手を洗い、口腔内に指を突っ込んでこじ開ける。

手袋もないし消毒もできてないがが仕方ない。


「やっぱりモチか…掻き出すからちょっと我慢しろよ爺さん!」


喉に指を突っ込みモチを引きずり出すと爺さんの顔に一気に朱が差し込み、同時に激しくむせ混み始めた。


「グェッ、ガハッ、げ、ゲェッ!」


呼吸が戻ってきた、どうやら間に合ったか。

…普通ならあれだけ時間を置けば助からないんだが…。

思った以上に爺さんが丈夫なのか、本当にここがファンタジーな世界ならばそのせいなのか。


なんにせよ…助かったみたいで良かったよ。


「は、はー、はー、死ぬかと思うたわい…ん、んん?なんじゃお主…おおエリザベート…きておったか!」


涎をぬぐいながら孫娘を呼ぶ魔王様の視線は…何故かメイドのサクラに向けられていた。


「…お爺様…私、こっちなのだけれど…。」


「お?エリザベートか二人…おや?」


……ボケてる……この魔王様完全にボケてるぅ!?


尚、今は痴呆症(ボケ)てる、と言ってはいけない。

認知症、が正しい言い方である。


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