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翌朝、学校では全校集会が開かれ光彦さんこと上杉先生が正式に皆に紹介された。 とりあえずその場で俺と光彦さんの関係については言及することもなかった。


光彦さんは校長先生に促されて壇上に上がったのはいいけど、身長は176センチの俺より10センチ程低いくらい、服の上からでも肉が付いていないのが十分に分かるくらいの痩せ型で坊っちゃん刈りに黒縁メガネ、そんな男性教師に興味を示す生徒は一人も居なかった。


光彦さんの挨拶はマイクを通していても、体育館のあちこちから聞こえてくるざわざわとした喋り声に負けてほとんど聞き取れないでいた。 終わり際に「限られた時間を皆と一緒に目一杯やっていきたい」という言葉が聞こえたのをきっかけに教頭が " さっさと終われ " と言うようなスローテンポの拍手を始め、それにつられてそこに居る全員が拍手をし、光彦さんの挨拶は切り上げられた。


そうか、光彦さんは産休での臨時教師だから一年くらいしか居ないんだな。




「瀬野、昨日の倉庫の件どうする? 」


集会が終わって教室に戻ろうと歩いていた渡り廊下で上田が後ろから追いかけてきた。


「ん~、 正直めんどくさいんだよなぁ。 少なくても年内は3年も居るんだろ? 俺たちだけなら気が楽なんだけど」


「だよなぁ、結局金払って肩身の狭い思いして、あれ?…… おい瀬野、アレ、なんかヤバくね? 」


上田が " アレ " と指差した先は四階建ての校舎の屋上で、その手摺りの際には一人の女子生徒が遠くを見つめたまま突っ立っていた。


「おいおいおいおい上田! 急げ! 」


俺と上田は全力で階段を駈け上がり、屋上の重い鉄の扉に体重を乗せて押し開けた。


居ない。


「瀬野、こっち! 」


階段をぐるぐる駈け上がっているうちに方向が分からなくなっていた。 階段の出入口となっているペントハウスの扉はさっき下から見ていた場所の逆側だった。 それに気付いた上田が裏側に回るとそこにはさっきの女子生徒が居た。 川澄美樹だった。


「待てよ! 」


手摺りにもたれ掛け、遠くを眺める川澄美樹は俺の声に振り向くとキョトンとした表情になった。


「おい、 やめろよな、 早まるなよ、OK分かったお利口さんだ、 そのままそのまま、 何があったのかは知らないけどさ、川澄みたいな奴が死んだら学校中の男共が悲しむことになるんだからな、 俺たちでよかったら話は聞くよ、 あっ! 別に下心があるとかそんなんじゃねえから」


「うふふ」


川澄のキョトンとした表情は俺たちを見て少し呆れたような笑顔に変わった。


「もしかして私がここから飛び降りたりすると思ったの? 」


「へ? 違うのか? 」


「ただお日さまと風が気持ち良かったからサボってただけ、集会なんて出ても意味ないし」


「サボり? 川澄でもサボリとかすんのか? 」


「瀬野君と上田君でしょ? 」


「知ってるの? 俺たちのこと」


「もちろんよ、 同じ2年だし、私たちの特進(クラス)って格好いい男子なんて全然居ないから女子はみんな普通科の男子の噂ばっかりしてるわよ」


知らなかった。 俺たちなんて特進クラスの奴からは学校の偏差値レベルを落とすだけの迷惑な邪魔モノだと思われてるんだと思っていた。 それに川澄まで俺たちの、いや俺のことを知っていたなんて。


「おい瀬野、 別にお前のことを格好イイとは一言も言ってないぞ、早とちりすんなよな」


上田が小声で俺に注意してきたがそんな小さな事はどうだってよかった。


「しかし屋上っていつも鍵閉まってるだろ? どうやって来たんだ? 」


「これ」


川澄は胸のポケットから小さなキティちゃんのキーホルダーの付いた鍵を取り出した。


「い…… せ…… し…… ま…… 伊勢志摩! 三重県のご当地キティちゃんだ! 」


「上田、それはどうでもいいだろ、それもしかしてスペアキー? 」


「そう、闇ルートから手に入れたのよフフフ、 たまに疲れた時に一人でこうやって光合成をしに来るの」


「光合成? 」


「そう、この屋上の下、教室にはたくさんの人が居て、その人たちが辛くなったり切なくなったりして吐くタメ息のね、その中にある二酸化炭素を貰いながら、お日さまの光を浴びて私の養分に変えていくの」


「川澄ってもしかして不思議ちゃん? 」


「ああっ!瀬野君ってばひどーい、それって馬鹿にしてるよね? ちょっと上田君、この人酷いんですけど~ 」


「瀬野、お前が100パー悪い」


「なんだよ上田、俺たちの友情ってそんなもんかよ」


「フフフフ 」


川澄は楽しそうに笑っていた。 初めて話をしてまだ数分しか経っていないのにずっと友達だったみたいな感じがした。


「俺たちも今度ここに光合成しに来てもいいか? 」


「ん~、 どうしようっかなぁ、スペアキーは1つしかないから、タイミングが合えばね」


「よっし! 」


「授業始まるよ、 私行くね」


「おう、 俺たちも」


まさかこんな形で川澄と友達になるとは思ってもいなかった。


そう俺も川澄も、上田もヒロトも、芽衣も、俺たちの物語はまだ始まったばかりなのだから。 まだまだ青臭い果実ははじけてしまうには早すぎるんだ。



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