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5

「くさーい! 達哉またタバコを吸っていたんでしょ? 」


芽衣はポニーテールの髪をピョンと横に振り、背伸びをして俺の学生服の胸元あたりに顔を近付けると、クンクンとその匂いを嗅いで鼻を摘まんだ。


「マジか? そんなに匂う? 5限は細木の授業だったよな、ヤバいかなぁ、芽衣! お前消臭スプレーとか持ってねえの? 」


「失礼ね、私臭くなんかならないし、制汗スプレーならあるけど貸さないわよ」


「はあ? ケチ」


「見つかっちゃえばいいのよ、それでスパッと辞めなさいよ」


「ぐっ、 そんなことを言う奴はこうだ! 」


俺はそう言ってそのタバコ臭い学生服に芽衣の顔を押し付けて両手でしっかりと抱き締めた。


「フグーッ! ホムーッ! ムーッ! ヤメッ! ヤメッ! 」


芽衣は身体をバタバタとさせて必死に離れようとしているが俺はさらに強く力を込めた。


「どうだ参ったか? 」


「ぷはっ…… はぁはぁはぁはぁ…… バカッ! なんでそういう事を平気でするのアンタは! 」


「お前赤くなってるぞ? 照れてんのか? 」


「バカッ! 」


芽衣がおもいっきり俺の股間を蹴り上げた。


「ふんぎゅーっ! 」


「息が出来なかっただけよ! はぁはぁ、 ったくいつまで保育園児でいるの!? 」


今度は転がって悶絶している俺に芽衣の反撃が始まった。 股間を両手で押さえて倒れている俺の尻をつま先でちょんと蹴ると芽衣が聞いてきた。


「そんなことより達哉、アンタ引越しするの? 」


「お、おう、 どうして知ってるんだ? 」


「ナオミちゃんが言ってたの、 達哉から聞いてると思ってたって」


芽衣は俺の母ちゃんのことを " ナオミちゃん " と呼ぶ。 これは芽衣の母ちゃんがそう呼んでいたのが伝染ったみたいで母ちゃんもオバチャンとかって呼ばれるよりは嬉しいみたいだ。


「なんで教えてくれないのよ! 」


そう言って芽衣はまた俺の尻を、今度は力まかせに蹴る。


「いってぇええ 」


「べ、別に引越しって言っても転校とかする訳でもねえし、お前も興味なんかねえと思ってたし」


「バカ…… なんにも分かってないんだから…… 」


「達哉君」


俺と芽衣がそんなことをしながら昼休みを過ごしているとまた誰かに呼び止められた。


「達哉」と呼ぶのは芽衣くらいだけど、俺のことを「達哉君」なんて呼ぶ奴は男にも女にも居ない。 いったい誰だ? と振り向くとそこには数日前に初めて記憶した男の人の顔があった。


「光彦さん」


母ちゃんの結婚相手の光彦さんが校長先生と一緒に立っていた。


「誰なの? 達哉」


「ん? あっ、 いや、ちょっとした知り合い」


いきなりのことで芽衣の質問にはテキトーな返ししか出来なかった。


「ちわっす」


「ほう、 知り合い? 」


今度は校長先生が光彦さんに質問した。


「ええ、 まあ、 狭いですね世間って」


「なんで光彦さんが学校に? 」


「上杉先生には産休で休まれる伊藤先生の代わりに皆の国語を教えてもらうことになったんだよ」


「えっ!? 光彦さん先生なの? 」


「はは…… まぁ、補欠みたいなものだけどね」


光彦さんは照れくさそうに笑うと「それじゃまた」と先を歩く校長先生を追いかけて小走りに離れていった。


「ちょっと達哉、アンタまだ何か隠してるでしょ? 」


キーン コーン カーン ~


「いけねっ! 授業だ、またな芽衣」


「達哉! 帰りに待ってるからね! 」


とりあえずその場は逃れたけど、芽衣には全部説明しないととても納得はしなさそうだった。

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