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「だからアレは絶対に三年の仕業なんだって」


夕飯の時、俺は光彦先生にどうしても昨日あったことを話しておきたかった。


「でも学校は本人の不注意による事故ってことでこれ以上は何もしないんでしょ?」


焼き魚の小骨を取るのに苦労している光彦先生の代わりに隣で聞いていた母ちゃんが返事をした。


『本人』とは同級生の岡田のことで、『事故』というのは昨日の放課後、その岡田が体育館の裏で全身傷だらけになった状態で用務員に発見されたことだ。


そんなことがあったにも関わらず学校は警察に届けることも俺たちに説明することすらも無く、何事も無かったかのようにいつものように授業を進めていくだけだった。


けど俺は見たんだ。岡田が、アイツが必死の形相で逃げていくところを。



昨日、五時間目が始まってすぐ、俺と上田は屋上の端の手摺りにもたれながら珍しく進路のことなんかを真面目に話し合っていた。


普段はバカ話しかしない俺たちがなぜそんな柄にもない話をしていたかと言うと、ヒロトの奴が両親から成績が上がらないことを相当怒られたらしく、しばらく大人しく勉強していると言ってきたからだった。


ヒロトの親父さんはこの町で工場を経営しながら町会議員をしていて、ヒロトにも大学に行かせた後は自分の跡を継がせようとしているそうだ。 けれどヒロト本人はお笑い芸人になりたいという密かな夢を持っており、その夢を父親には話せずに一人苦悩していたんだ。


この時もヒロトを屋上に誘ったが授業をサボれないからと言い、上田と二人で行くことにした。


「あれ? アレ、岡田じゃね?」


上田が体育館の裏手の方に走って行く岡田を見つけた。


「何慌ててんだ?アイツ」


屋上から見る岡田は蟻のように小さく表情なんかは分からないがとにかく必死に走っていた。


「さあ、三年にパシらされてるんじゃね? 焼きそばパンでも頼まれたんだろ」


「ハハハ、なんで焼きそばパン指定なんだよ」


「大体パシリで買ってくるもんなんてジャンプか焼きそばパンって相場が決まってんだよ」


「何の相場だよバーカ」


「知らねーよバーカ、焼きそば相場だよ、ん? いや、焼きそーばだよ」


「瀬野、おもしろくないよ」


「うっせーよ」




「と、まあこんな事があったんだよ昨日」


「はぁ? 全然分かんない! 岡田君ちょっとしか出てこなかったじゃない」


話を聞いていた母ちゃんが呆れたようにクレームをつけてきた。


「だからそのあと岡田を追いかけるように三年が走って体育館の方に行ったんだよ」


「それを言いなさいよ、達哉のすべった話なんてどうでもいいから」


「全然すべってねーし」


「めちゃくちゃすべっとるわ」


母ちゃんはすかさずおかしな関西弁のイントネーションでツッコミを入れる。


「ごちそうさま」


食事中一切話に入って来なかった凌は相変わらずの無愛想ヅラで、食器をシンクに持っていくと自分の部屋に行ってしまった。


「光彦先生、俺別に岡田と仲が良いわけでもないけど、学校がこんなあっさり話を終わらせるって言うのが納得いかねーんだよね」


「達哉、あんまり光彦さん困らせたらダメよ、光彦さんはただの臨時教師なんだから」


「そりゃそうだけどさぁ」


母ちゃんはそう言ってテーブルの下で空いた皿を咥えておかわりをねだるリョウの頭を撫でながらお茶を飲んだ。


光彦先生は何か考えるように黙ったまま焼き魚を綺麗に骨だけ残して食べ終わったところだった。


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