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「「やあ、君たち」って先生、何してるんですか? そんな所で呑気に」


俺たちは駆け寄って行き貯水タンクの上に座る光彦先生を見上げた。


「何? ってサボりだけど…… やっぱりまずかったかなぁ? 」


「そりゃマズイでしょ上杉先生、先生がそんなんでどうするんですか? 先生まで達哉の馬鹿が伝染っちゃったんじゃないですよね? 」


芽衣は昔からこういう生真面目な所があって、弱いくせによく周りの同級生や、時には上級生にもムキになって注意をして逆に泣かされることがあった。


「そうかぁ、じゃあこのことは先生たちには内緒でお願いします」


「…… 」


「もちろん君たちのサボりのことも学校には内緒にしておくから」


光彦さんの顔はその言葉とは裏腹に悪いことをしているという様子は全く無く、のんびりと、風を受けてどこまでも気持ち良さげだった。


「危ないですよ、ね? 降りて来てきましょ? 」


芽衣が一人説得し続けている。光彦先生のことを籠城する犯人を扱うように優しく、丁寧になだめていた。


「それよりも君たちも登って来てごらんよ」


上田もヒロトも俺もそんな光彦先生の誘いに躊躇していたのだが、川澄が好奇心いっぱいの顔で梯子に両手を掛けて右足をその一段目に乗せたのだった。


「んしょっ」


川澄はその掛けた右足と両手に力を込めて勢いをつけて1つ登った。同じように左足、そしてまた右足と、「いける」と思ったのだろうテンポ良く次々と登っていった。ちょうど川澄の履いていた革靴の裏が目の前の高さ辺りに来た時に、さっきまでよりも少し強い風が吹いて川澄の制服のスカートをふわりと捲り上げた。


「こらっ! アンタたちどこ見てんの! 川澄さんもダメよ、そんな危ないってば! 」


芽衣に注意され、一瞬しか見えなかったけど川澄のスカートの中の白いパンティはいつまでも俺の瞼の裏に焼き付いたままだった。


「ほんと気持ちいい、瀬野君たちも登ってみてよ、ほら小山内さんも」


川澄が貯水タンクの上にスカートを抑えて座った。


上田が登りヒロトが続いた。俺も梯子に手を掛け、振り向いて芽衣を誘った。


「芽衣、ほら。 それとも俺が下から押してやろうか? 」


「わ、私は行かないわよ、勝手に行ってくればいいじゃない」


「そうか? じゃあ先に行くぞ」


貯水タンクの上は俺たちがいつもサボっている屋上よりもほんの少し高いだけなのに、そこからはいつも見ているものとは全く別の景色が広がっていた。


「広い…… 」


同じ場所からは一方向しか見ることの出来ないいつもの屋上の景色とは違い、360°どこまでも続くパノラマは、俺の心に確かに何かを(のこ)していった。


「…… 」


「ちょっ…… ちょっと達哉、ほんとに置いていくことないでしょ」


結局は芽衣も文句を言いながらも登って来たので、手を引いて支えてやった。


「芽衣、見てみろよ、俺たちの町」


「ちょっと達哉、手を離さないでよ」


「この見える範囲の中で俺たちが足跡を付けた部分ってほんのちょびっとなんだろうな」


「世界はこの景色と比べものにならないくらい広いんだもんね、人間なんてホントちっぽけね」


川澄がため息にも似た小さな声で呟いた。


「あの海岸線を伊能忠敬は歩いたのかなぁ」


ヒロトが遠くの海を眺めながらナナメ上の発想を口にする。


「俺たちはどれだけの道を歩けるんだろうな」


上田の心にも響くものがあったのだろう。その横顔はいつもより少し大人びて見えた。


「森に二つの分かれ道があった。人の通らぬ道を行こう、全てが変わる。君たちには自分らしい歩き方を見つけてほしい」


「え?」


光彦先生の言葉に全員が耳を傾けた。


「詩人ロバート・フロストの言葉。そしてそれを僕に教えてくれたキーティング先生の言葉」


「上杉先生って外国の学校に行ってたの!?」


「ハハハハ 映画の中の台詞ですよ、小山内君」


「映画? ですか? 」


「そう、こんな言葉もある。 『バラのつぼみはすぐに摘め。』ラテン語で言うなら " カーペディエム " 意味は『今を生きろ』」

出典 映画『いまを生きる』

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