~時間は有限なので、人生は楽しくやっていきましょう。~
序章『これが僕と愉快な仲間たちである。』
朝、学校へ向かうために通学路を淡々と歩いていた。今日の天気は晴れ。平均気温は18度と過ごしやすい1日。この五月半ばの季節、桜が一生懸命に咲き、そして最期に儚く散ったあとの時期。満開の桜が散った跡を思わせるように落ちていた桜の花びらも、いまはきれいに掃除されている。そんな花びらが散った桜道を僕は・・・。
「ふわぁ~ぁ・・・」
と大口を開けて、あくびをしながら歩いていた。
「あくびのときくらい手で口覆ったらどうなの?坂李くん。」
後ろからそんな注意を言いながら歩いてくる女の子の姿が見えた。
「うるせぇなぁ...僕の勝手じゃないか、そんなの。」
後ろからやってきたこの女の子は比奈々井 木葉。同じクラスで仲がいいやつのうちの一人。ちなみにうちの学校の生徒会長だ。お偉いことで。と、自己紹介がまだだった。僕は坂李 倫定。クラスでは浮いている、特徴もあまりない普通の高校生。むしろ目立っているやつのほうが普通じゃないというのが僕の意見。おっと、これはまたの機会に語るとしよう。え?だれに語りかけているだって?僕自身だよ!
・・・って、こんなことやっていて悲しくなってきた・・・。
「はぁ~、まったく。それだから学校で浮いちゃうんだよ?」
「余計なお世話だ。どうせ僕はみっともないヘタレ野郎ですよ~。」
少し顔をそらして嫌味ったらしく言い放った。
「たしかに君は屁理屈ばっかり並べて他者を否定し、自分を肯定し、周りに嫌
われるようになったヘタレバカだもんね。しょうがないね(笑)」
少し胸を張って付け加えながら肯定してきた。
「勝手に付け加えるな・・・。はぁ、急ごうぜ、遅刻しちゃいけないからな。」
「まだSHRまで45分もあって、学校まであと5分、計40分も余裕があるというのに急ぐことないでしょ。」
くそ、冷静に計算しやがって・・・。あっ!急がなきゃって感じで走って転ぶことを期待していたのに・・・KYKS(空気読めカ○!)。
「そういえば前々から思っていたんだけど、なんでそんな喋り方が変なの?主に一人称と喋り方が合っていないどころか声も顔に合ってないし。どちらかといえばその顔だと一人称は俺のほうが似合うと思うんだけど。」
「一人称が僕なのはこだわりだ。」
「ふ~ん。こだわりねぇ・・・。やっぱり君は面白いね、実に面白い生き物だよ。」
ちょっとー。その言い方だとまるで僕を人間として扱っていないみたいに聞こえるんですがあの・・・。付け加えればまるで僕を不思議生物だと思っいるみたい聞こえてくるんですが。
「そういうお前こそ、もうちょっと乙女っぽく喋ってみたらどうなんだ。”男の娘”みたいだぞ喋り方。」
「最近の女の子はこんな感じだと思うんだけどな~。私は別にそこら辺はこだわってないかなぁ。」
そいつは残念。こいつが乙女チックに「あなた、おもしろいわね~」みたいなおばさん風の口調になったら毎日笑い飛ばせただろうに。
「あっ!今絶対失礼なこと考えてたよね!?いたよね!?」
と、僕の前に出てきた、そのショートカットの髪を揺らしながらこっちを上目遣いで見つめながら頬を膨らませてる。おもしろいなこいつ。
「全然考えてないよー(棒)」
顔をそらして答える。
「嘘だ!君は嘘をつくとき顔逸らすし!しかも棒読み!」
そういうの観察してるのかこいつ。そういやこいつは何故僕とこんなに絡んでくるのか気になる。中学の頃は特別仲が良かったってわけでもないが、後攻に入ってからよく絡むようになった。
「そういえば僕も気になったことがあるんだが。」
わからないことがあれば聞く。これ常識ね。
「ん?なに?」
「お前はなんで僕と絡むんだ?中学の時はむしろ若干距離置かれてた感じがあったんだが・・・。」
「・・・いろいろ、あるんだよ。そういうことには。まあざっくり言っちゃ
ば考え方を変えたんだよ。」
いろいろってなんだよ。と言おうとしたが、比奈々井の表情を見てその言葉を抑えた。なぜか切ない顔をして微笑を浮かべて空を見上げていた。
「ごめん、いつかちゃんと話すよ。」
こちらに向き直って少し悲し気に笑って言い放った。
「・・・あぁ。」
「さあ、早く学校へ行こう?」
ちょっと失敗した気がした。だから待つとしようか、彼女がちゃんと言うって言ったのだから。
まあそんなこんなで学校の教室に着き、SHRの準備をして机に伏せていた。
「おはようっす!倫!」
「んぁ?あぁ、秀森か。おはよう。」
声をかけてきたのは「森崎 秀正」。比奈々井同様、中学からの仲。僕と関わってくれる数少ない友人の一人。秀森という呼び方は名前と苗字の頭文字からとっている。こいつもこいつで僕のことを「倫」と呼んでいる。
「相変わらず元気のなさそうな返事なことで。どうしたんだよ、なにかあったん?」
こいつ、やっぱり鋭い。そう、こいつは人のことを見ることに長けている・・・いや、長け過ぎている。僕も表には出さないよう普通にしてても何故かこいつにはバレてしまう。読心術でも身に付けてきたのかこいつは。
「はぁ~、お前ってほんと鋭いよな。表に出さないようにしてるってのに・・・まあなにかあったっていっても大したことじゃねえよ。」
実際そこまで大したことでもない。ただ、気になっているだけなのだ。比奈々井に登校中、聞いたことについて。
「ふ~ん、まあ大したことないならいいや。でもなんかあったら頼ってくれよ?ダチなんだからな。」
「あぁ、頼りにしてる。」
キーンコーンカーンコーン・・・
「っと、チャイム鳴ったし、自分の席戻るわ、またあとで。」
「おう、また。」
そういって秀森は自分の席に戻っていった。
SHRが始まるとき、僕はふいに、比奈々井のほうを向いて様子を見てみた。
(やっぱり、失敗したな・・・。)
比奈々井を見て、改めてそう感じた。
SHRにて・・・。
「今日はみんなに転校生を紹介する。静宮!」
と担任が教室のドアのほうに向いて転入生の名を呼ぶ。
ガラガラ・・・
ドアが開き、一人の少女が入ってきた。
その少女が黒板の前に立ち・・・。
「皆さん、初めまして。訳あって東京へ越してきて、こちらの学校へ通うことになりました、静宮 春華と言います。よろしくお願いします。」
とまぁ、静宮さんとやらが丁寧に自己紹介をした、と同時に・・・。
クラスの男子が騒ぎ出した。周りの男子は「かわいい!美人だ!」などいろいろ言って盛り上がっている。無理もない。顔もスタイルもよく、ロングヘアーで可愛い。さらには美人要素まで兼ね備えている。しかも落ち着いていて人付き合いがよさそうなのだ。男子が騒ぐのも無理ない。そんな中担任は・・・。
パンッ!
「はいはい、静かに。静宮の席は・・・坂李の隣が空いてるな。よし、窓側二列目の後ろの空いてる席に座ってくれ。」
「はい、わかりました。」
席を指定され、転校生の静宮は僕のほうへ歩いてきて・・・。
「よろしくお願いします。」
と挨拶をされた。
「あぁ、こちらこそよろしく。」
こちらが挨拶を返したのを確認すると自分の席に座った。
ちなみにその様子を見ていたであろう秀森はというと・・・。
「ニヤァ~」
とムカつくくらいの満面の笑顔でこちらを見ていた。
(あとで覚えてろよ秀森・・・)
「あ、あの~・・・なにか機嫌悪そうですけど、私、隣じゃ嫌でした?」
隣に座っている静宮は心配そうな顔して聞いてきた。
「あ、いや。そんなことはないよ。ちょっと向こうでムカつくくらいの笑顔でこっちを見てきたやつがいただけだから。静宮さんが気にすることはない。」
「そうですか、よかった・・・。」
と胸を撫で下ろすようにホッとしていた。
静宮さんが転校してきてから一週間が過ぎた。特に何の問題もなく友達も出来、クラスにも馴染み始めていた。僕はというと、いつものことながらクラスで浮いていた。まあ秀森や比奈々井たちと駄弁ったりする感じで過ごしていた。ある日の昼休みに静宮さんが僕に話しかけてきた。
「坂李さんって、あまりクラスでほかの方たちと話をしてるところをあまり見たことがないんですが、それはどうしてですか?」
と、訪ねてきた。随分と痛いところを突いてくるなぁ・・・。
「別に、大した理由はない。ただ僕がヘタレバカだからってだけじゃないかな。」
「へ、ヘタレバカ?」
頭にはてなマークを浮かべながら首を傾げていた。
「あぁ、言い方が悪かったな。え~っと、僕が自分主義で何か面倒なことがあったらすぐ逃げる情けない性格をしたバカ野郎ってことだよ。通称ヘタレバカってわけだ。」
懇切丁寧に説明をして差し上げた。自分で言ってて悲しくないの?って言われそう。
「自分で言ってて悲しくないですか?」
ほら、言った通り。
「もう慣れたよ。ヘタレバカを否定する理由が見つからないものでね、これはこれでいいと自負しているよ。」
「ふふっ。やっぱり変わっていますね、坂李さん。第一印象通りの面白い人です。」
あれ?なんで笑われてるの僕。
「何がそんなに面白いんだかね。」
「いやいや、倫は面白いよ?その性格とかね。俺が言うんだ間違いない。」
秀森が横から顔を覗かせてきた。
「なんで自信満々に言うんだよ。てか、お前まで僕を面白生物みたいに言うな。」
「いいじゃないか、俺と倫の仲だろ?」
いやどんな仲だよ。
「倫?坂李さんの呼名ですか?いいですね!私も倫さんって呼んでいいですか?」
と、静宮さんが笑顔で聞いてくる。
「やめてくれ、倫はともかく倫『さん』は嫌だね。」
「おいおい、それぐらい良いじゃないか。面白いよ?倫さん(笑)」
バカにされた気分だ。
「じゃあ、倫君!これでどうですか?」
え?僕、呼名増やされること前提で話進んでないか?
「お!いいね!それで行こう!」
秀森が親指を立てて、グッドの形を手で作っている。
「いや、ちょっと?僕の意見は聞かないのか?」
「「だって倫(君)断るだろ(じゃないですか)」」
この二人なんで意気投合してるの?仲良くなるの早くないか?
「はあ、もういいよ、それで。じゃあ静宮さんに一つ頼みがある。」
「なんですか?」
首を傾げながら返答を待つ。
「その敬語、やめてくれ。どうも調子が狂う。呼名を付けられたら、なんか敬語だと違和感がある。普通に喋ってくれ。」
と、言ってみる。実際、秀森にも呼名を付けられたからには壁とか隔たりがないほうが個人的には楽なのだ。
「わかった。倫君がそう言うなら、普通にするね。こんな感じでどう?」
「あぁ、そっちのほうがいい。」
と、言いつつ内心では、なんという劇的ビフォーアフター。まるで別人!って感じである。
「ところで・・・その、あなたはだれですか?」
秀森に視線を向けながら訪ねてくる。
いやいや遅すぎる!僕の呼名の話よりそっちのほう先じゃないの普通!?
とまあ、そのあとお互いに自己紹介を済ませ、友達の第一歩を踏み出したのである。




