仲直り Ⅱ
「こんな面倒を起こしてくれるのは、生徒だけで充分!!もう、いい加減にしてよ!!うんざりなのよ!!」
和香子からいきなり大きな声で罵倒されても、健人はキョトンとした顔をするばかり。
「なんで私が、いい大人の、私よりも年上のあなたの保護者みたいに面倒見なきゃいけないのよ!!だいたい、いつもフラフラフラフラしてるから、こんなことになるのよ!!ちゃんと働きなさいって、いつも言ってるじゃない!!」
これだけではない。和香子は普段から溜まっている不満を、洗いざらいぶちまけた。感情が制御できずに、涙も一緒にこぼれ出てくる。
それでも、和香子は泣きじゃくりながら健人に対して怒鳴ってなじり続けた。
傷だらけで頭には包帯を巻いている健人は、ソファーの肘掛けに座って、和香子の怒りを黙って聞いていた。
何も反論はせず、でも深い眼差しでじっと和香子を見つめて、和香子の気が済むまで敢てサンドバッグになった。
和香子が怒り疲れて、涙も落ち着いてきた頃、健人が立ち上がって、立ちすくむ和香子をそっと背後から抱きしめた。
「和香子……。仲直りしよ」
一方的に和香子がまくし立ててるだけで、別にケンカをしているわけではない。
「ハァ…」と、和香子が諦めにも似たため息をついたとき、健人は和香子の顔を覗き込んで、そのため息を押し込めるようにキスをした。
と同時に、健人の指が和香子の服の下に滑り込んでくる。
「ちょっ……。健人?!なにしてるの?」
「愛してるよ。和香子……」
和香子は体をよじって抵抗を試みるが、健人には中止する気配がない。
それどころか、健人は和香子が〝その気〟になるスイッチを知っていて、確実にそこを刺激してくる。
「怪我してるのに、ダメだよ」
と言いながら、和香子は甘い感覚に抗えなくなって流されていく。
「今日の君は、特別きれいだ……」
健人は和香子の体の曲線を確かめるように、唇でたどりながら言葉を漏らす。
最初はソファーで、それからベッドで、健人の愛撫は絶え間なく続き、和香子はそれに翻弄され、我を忘れて溺れてしまう。
〝肌が合う〟とは、こんなことを言うのかもしれない……。
健人と抱き合うとき、和香子は自分と健人とが融け合って、その境目がなくなるような感覚になった。
額に頬に絆創膏を貼りながら、和香子の隣で安らかな寝息を立てている健人の寝顔を見れば、愛しいとも思う……。
――だけど……、こうやって健人に流されて、こんなふうに生きてていいの……?
健人のペースに巻き込まれて、享楽的な生活をこれからも続けていくことに、和香子は一抹の不安を覚えてしまう。
いや、一抹ではない。
気づいたときはその程度だった感覚も、今では和香子の心の大きな部分を蝕む感覚になってしまっていた。