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仲直り Ⅰ



そんな和香子の心を知ってか知らずか、健人は気ままな毎日を送る。


和香子が高校教師として息つく暇もないほど働いているときも、気が向けばフラリと街に出てみる。その日の気分で何時間も歩き回ったり、河原で寝そべってみたり、パチンコを打ってみたり。


見た目からして目立つ健人は、この街の有名人で、ファンも多かった。ときには、年頃の女性たちや有閑マダムたちから、下心のあるお誘いもあるようだが、



「んー、またね」



と、曖昧な答えが返すだけ。そのときの「またね」は、〝永遠にない〟という意味だった。



なぜなら、健人はその浮ついた見た目によらず和香子ひとすじで、この十年、浮気なんて一度だってしたことがない。



そんな健人の毎日を知ってか知らずか、和香子は今日も勤勉に働き、そして健人に振り回される。


金曜日の放課後、仕事も区切りがつき、コーヒーカップを洗って帰ろうとしていたときのことだった。



「石井先生、携帯が鳴ってるよ!」



同じ学年部の古庄が、給湯室にいる和香子に声をかけてくれた。



知らない番号が表示されていて、不審に思いながら電話に出る。すると、相手は〝警察〟を名乗り、和香子の心臓が飛び上がった。


生徒が問題を起こしたのなら、まず学校へと連絡が入るはずだ。ドキドキしながら和香子が詳細を聞くと、事件の当事者は生徒ではなく、健人だった。



なんでも、街をフラついていた時に、不良グループに絡まれて、殴る蹴るの暴行を受けてしまったらしい。

今は怪我の治療をしているとのことで、和香子は取るものもとりあえず、病院へ駆けつけた。



「あー、和香子。向かえに来てくれて、ありがとう」



顔に体に怪我をしているにも関わらず、健人はいつもと同じニッコリと和香子に笑って見せた。



「……どうして、こんなことになったの?!」



普段、生徒が同じようなことになったときには、優しく経緯を聞き出してあげる和香子だけど、健人が相手だと呆れるのと心配とが入り混じって、その語気はおのずと強まってしまう。



「んー。僕は河原の草っぱらに寝転がって、雲を眺めてたんだよ」



「……雲?」



「そう、雲。大きな雲や小さな雲が、青い空にぽっかり浮かんでて、それが今日は次々といい具合に流れていってたんだよねー」



「……いや、雲のことはいいから、それからどうなったの?」



「ああ、そうしたら、僕より真っ金々の髪のにーちゃんたちがやって来て、『金、貸して』って言うんだよね。それで、僕は持ち合わせがなかったから『またね』って言ったら、この通りボッコボコにされちゃったよ」



付け加えて、連絡をしてくれた警察官の話によると、犬の散歩のおじさんが暴行の現場を見つけてくれたので、この程度で済んだらしい。



その話を聞いて、和香子は大きなため息をついた。心配するよりも呆れる方が大きくなって、苛立ちが加わってくる。



というのも、それでなくても目立ってしまう健人は、こういう〝ならず者〟たちの標的になりやすいらしく、こんなことはこれが初めてではなかったからだ。


経験を生かさず、何も学習せず、こんなことを繰り返すなんて。そもそも、普通の大人としてきちんと社会生活を送っていれば、こんな事件に巻き込まれることも避けられたはずだ。



健人を車に乗せて、マンションへ帰宅する途中にも、和香子の苛立ちは憤りへとなり、我慢ができなくなる。


マンションの部屋の中に入り、二人きりになった途端、和香子の感情の緒が切れて、健人に対する鬱憤が爆発した。





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