ドワーフのラネラ
私と半次郎は翌日、ドワーフに会う為に街外れにきていた。
プラダに聞いた話だとかなり腕が立つドワーフだとか、腕が立つっていうのは戦闘だけじゃない、鍛治の腕でもという話である。
私としても、銃のメンテナンスができる奴は身内には当然欲しいし、半次郎やスーナのように刀や剣に精通している奴が扱う武器にも定期的な手入れは必要だ。
腕がいい鍛冶屋がいれば、それも気にせずに済む。
だからこそ、ラネラのスカウトは非常に重要なものだ。まあ、その前にやる事があるんだけどな。
「ほら、この金で足りんだろう。半次郎の刀ってやつを返しな」
「…えぇ!? 姐さん! ありゃもう買い手が付いてて…」
「ごちゃごちゃうっせぇな、元はコイツのだろうが」
そう言って、銃口を顔面に押し付けながら奴隷商のマルケを脅して、半次郎が身につけていた日本刀を無理矢理掻っ払った。
まあ、一応、金は払ってるしな、なんの問題はない、奴隷商の奴はなんだか泣いてたが、脅せばすぐだった。
なんにしろ、半次郎の刀を取り戻したわけだが。
「どうだ? 手触りは」
「なんの問題もなか!」
半次郎に刀を手渡すとそう言って満面の笑みで応えてきた。
使い慣れた得物だと、なんだかしっくりくるのは私にもわかる。仕事する上でこの銃がなければやる気も起きないしな。
というわけで、用事が済んだので私達は早速、ラネラの元へと向かった。
話はつけてるとプラダは言っていたが、実際はどうだかわからない。
私達がやろうとしていること自体が黒いことだしな、最悪断られても仕方ないとは思ってはいるが。
しばらく歩くと、金属を叩く音が耳に入ってくる。
少し街外れの場所、そこに工房は建っていた。
私と半次郎は顔を見合わせると、互いに頷き、工房に入って行く。
「すんもはん! ラネラどんはおられ申すか!」
「…ん? 誰じゃ?」
そこに居たのは屈強な筋肉をした小さなオヤジだった。
本当にオヤジかよ、と私は思わず目を疑う、眼光は鋭く、それでいて、でかいハンマーを軽々と扱うその姿からは気迫すら感じられる。
だが、私もここで圧に負けるわけにはいかない、真っ直ぐにラネラの目を見据える私はこう話を切り出す。
「プラダから話は聞いてるだろ?…ロホだ」
「おぉ、あんたが! えらいべっぴんさんじゃな!」
私を見ながらそう言って笑みを浮かべるラネラ。
彼はハンマーを肩に担ぎ、汗を拭うとゆっくりと腰を椅子に下ろし、私達にこう話を続ける。
「それで? わしの腕を買いに来たのか?」
「あぁそうだ」
私は取り繕うことなく、単刀直入にラネラに告げる。
何かを話したところで、結局は来るか来ないかの二つだけだ。
私達は黒いことをやろうとしているいわば、まだ小さなギャングの一つでしかない。もちろん、場合によっては争い事なんかも今後出てくる事だってあるだろう。
そんなところにスカウトするとなれば、もちろん、断る事だって普通に考えられる。
「そうか…、なら、お前さんの腰につけてるそれ、一回見せてはくれんか?」
「…これか? 良いぞ」
私はそう言って、相棒をラネラに手渡す。
既に半次郎の手には刀が握られている。下手な動きをすれば直ぐに抜く用意ができているのだ。
ラネラはしばらくの間、興味深そうに私の銃を眺めて構造を確かめているようだった。
「こりゃ…出回っとるフリントロック式よりもかなり精密に出来とるな」
「だろうな」
「…うむ、気に入った、良い銃じゃ」
そう言って、ラネラはパイプを取り出すと煙を吸いながら、私に銃を投げ渡す。
そして、煙を吐き出したラネラは私のスカウトに対して笑みを浮かべたままこう返答する。
「良いじゃろ、合格じゃ、ワシはその銃と…そちらの男が腰に据えとる剣を弄らせて貰えるんならお主らの一味に入る。…それが条件じゃ」
「願ってもないな、是非よろしく頼むよ」
私の言葉に力強く頷くラネラ。
私達のことについてあらかじめプラダがラネラに話していたことがやはり大きかったな。
でなければ不信感で断られる可能性の方が高かった。ここはプラダの顔の広さに救われたと私は素直にそう思った。
「それじゃ、私達のアジトなんだが」
私はそう言うと、今、プラダが探しに行っている物件についてラネラに話をし始める。
金は渡してあるから、おそらく今日のうちにアジトはできるだろう。
後はプラダ達がうまくやっているかどうかだが…