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仕事と人




 奴隷を商人から買った私は、すぐに彼らを繋いでいた鎖を外してやった。


 買った人材は、戦闘員、支援員、そして、補給員、医療員として使えそうな7人だ。


 特にその中でも私が目に付いたのは変わった言葉を使う日本人だろう。


 私はかつて、日本に住んでいた時、その存在を母から聞いたことがあった。


 かつて、日本では刀を振り回していたと、その時に活躍したのが武士と呼ばれる者達の事を私は母から話でよく聞かされていた。


 そして、私が奴隷として買い付けたこの男は戦争経験があると言っていた。


 もしかしたら、私と同じように、いや、それとは違う方法でこの地に呼ばれたのかもしれない。


 私はその事もあって、この男を奴隷として買うに至った訳である。



「すんもはん、かたじけなか。わざわざおいば助けてくれて、この恩は忘れんで」

「いや、別に良いさ私はアンタの腕を見込んで買ったんだ。安い買い物さね」



 私はわざわざ律儀に頭を下げてくる青年に肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。


 とはいえ、ボロボロの状態だった為に、今はプラダの家に連れて行き、買い付けた奴隷の一人であるエルフの少女に手当てさせてやっている最中だ。


 身体から見える刀傷が彼の生き様を物語っている。


 私は改めて、彼の目を真っ直ぐに見据えるとこんな質問を投げかけはじめた。



「それで? アンタはいつこの世界に?」



 そう問いかけた瞬間、青年の眼が大きく見開く。


 それはつまり、そういう事なのだろう。



「…!? なんでそいを…!」

「なぁに、私も同類ってやつさ」



 そう言って、私は男に笑みを浮かべて答える。


 同類、つまりは元はこの世界の住民ではないという事だ。


 なら、こう言えば大体の事は伝わるだろう、私の顔を見つめた武士の男は大きな笑い声を上げる。



「ははははは! そうじゃったか! そうじゃったか! どうにも肝が据おうちょる女子やと思うとったが! 薩摩出身じゃったかい! どうりで肝が据わっちょるわけじゃ!」

「いやー…薩摩では無いんだが…」

「細かい事はよかぞ! あげん肝が座おうちょるなら薩摩兵子と変わりんなか!」



 雑な言い分で笑い声を高々に上げる男の姿に私もこれには顔をひきつらせるしか無かった。


 どうにも大胆で豪胆な男らしい、警護にするには頼れるのだが、少しだけ、この男を買った事は面倒だったのではないかと思ってしまった。


 とはいえ、商売をやる上で必要な人間がこうして増えていくのは嬉しい事だ。


 私も凄腕の殺し屋であって超人というわけではないのだ。


 一人で出来ることなんて限りがある。襲撃を受けた際、こいつの様な腕が立ちそうな男が側にいれば何事も円滑に進めることが出来るだろう。



「それで名前なんだが…」

「半次郎じゃ」

「ん?」



 私は思わず自身の名前を語り出した男に目を丸くして聞き返す。


 彼は笑みを浮かべたまま、目を丸くしている私に続ける様に告げてきた。



「おいの名じゃ、昔、そう呼ばれとったとじゃ」

「そうか、……私はロホだ、よろしくな」



 恐らくは私が信用に値するかどうかを見定めていたのだろうと察し、簡単に名を教えてきた半次郎に答えた。


 会った当初、彼がわざと名がないと言ったのは大方、私が信用できなかった場合の事を考えていたのだと思う。


 信用に値しなかった場合は恐らくは機を見て私を殺すか、脱走するかを企てていたに違いない。


 半次郎というこの男、なかなかに食えない性格をしている。


 そして、彼の傷の手当てをしているのは同じく奴隷市で拾ってきたエルフの女性。


 見た目は金髪で綺麗な顔立ちの女性だ。年齢的に見ると私と同い年くらいだろう。


 ある程度の治癒魔法が使え、エルフらしく弓の扱いも少々心得ていると奴隷商人からは聞いている。


 見た目もエルフらしく端整で、身体もグラマラス、そして、綺麗な金髪の美少女といった具合だ。貴族の男に娼婦として売ろうと考えていたと奴隷商人は話していた。



「お前は? 名前はなんていうんだ?」

「…え? わ、私…ですか?」

「そうだよ、お前だ。そう怖がんなよ、私も元は奴隷出身だ」



 私はそう言うと彼女の肩をポンと叩き、笑みを浮かべて告げる。


 実際、私も奴隷船から助けられて、エスケレトプエルトのギャングや海賊の首領から育てられた身だ。


 同じ奴隷とは言わないが、その当時の扱われ方は知っているし、彼女が私に対して怖がる理由もある程度わかっている。


 それは、人間ではない、エルフという人種への偏見を持っているという事。


 だが、私はそんなことは微塵も気にはかけない、ようは私にとって彼女を仲間にしたいと思ったから商人からその腕を買ったに過ぎないのだ。


 エルフの女の子は私の顔をジッと見つめるとゆっくりと話し出す。



「…カリファ…です」

「カリファか、良い名前だな。今日からお前は私の仲間だ。他の奴には手を出させないし私が守ってやるから、心配すんな」



 私はそう言うと、カリファと名乗るエルフの女の子の頭をワシワシと乱暴に撫でてやる。


 そんな私とカリファのやり取りを見ていた半次郎は顔を綻ばせると肩を竦め、こう話しをし始める。



「なんじゃ、お前さん案外、面倒見が良よかな! よかよか! そういう奴は嫌いじゃなかど! がはははは!」

「…うっせー、…ま、何はともあれ期待してるよ」

「応っ…! せいぜい御期待に添えられるようきばらせてもらうど、ロホさぁ」



 そう言うと、包帯で身体中を巻いている半次郎はドン! と力強く自身の胸のあたりを拳で叩いて笑みを浮かべて答えてくる。


 こいつの腕前が一体どれほどのものかはまだわからないところではあるが、これだけ言い切るという事はそれだけ剣を握る腕に自信があるのだろう。


 そして、後の五人だが、女が四人、男が一人というメンバー構成になっている。


 その理由は単純で、奴隷は男よりも女の方が高く売れる場合が多いのが原因だ。


 貴族や王族には女を侍らせたいという邪な考えを持っている奴らが多くいる。


 そういった客に対しての需要を満たすと考えたならば、私が今回、仲間に引き入れたこの比率は致し方ないとも言えるだろう。


 私的には男手が欲しかったところだが、あの奴隷商人が扱っているのが基本的に女性ばかりだというのも原因だ。


 よって、私は今回、ある程度、職種に特化した人材を選び抜いたと自負している。



「…私はその…」

「あー聞いたよ、奴隷商の奴からな、貴族の姫さんなんだろ? 元、だけど」

「…は、はい…マーレイと言います…」



 一見幸薄そうな綺麗な顔立ちをした女性は、ボロボロの衣服に長い朱色の髪を耳に掛けるようにして私に応える。


 何があったかなんてのは大体予想がつく、謀略か家が取り潰されたか、所属していた国が戦で負けて奴隷に落ちたか、そんなとこだろう。


 逃亡する際に盗賊に捕まれば売り飛ばされるのもわかるし、まあ、私は不幸話は聞くつもりはないのでとりあえずどんな人物かがわかればそれで十分だ。


 私は彼女を見据えたまま、こんな質問を投げかける。



「お前さん学はあるか?」

「…えっ? …」

「学だよ学、元貴族の姫さまってならそれなりの教育はされてきたんだろう? まさか、何も勉強しなかったってわけでもないだろ」



 私は笑みを浮かべたまま、彼女にそう問いかける。


 そう、私が彼女を買ったのは同情なんかではない、そこに確かな価値があると思ったから奴隷商人から買ったのだ。


 貴族の元令嬢なら、慰み者なんて考える馬鹿な金持ち商人や貴族はいるだろう。


 だけど、それは言ってしまえば浅はかで馬鹿な買い物だ。彼女の持つ価値に気づいていないし生かそうともしていない。


 私は違う、そう、私が目をつけたのはかつて裕福だったからこそ持ち得ている彼女の身につけてきたことだ。



「あ、えっと…まあ、それなりには…」

「それだけで十分だ。学があるってなら、お前の価値はそれ相応の価値があるよ、…具体的には何の知識を持ってんだ?」

「帝王学は父から…あと…は、財政についても多少は齧りました…、それとマナーや芸術なども少々…馬術と…後は」

「なるほど、十分だ…」



 私はそう言うと、彼女の肩をポンと叩き満足気に頷く。


 今の話だけで十二分に価値があるとわかればそれで良い、おそらく、今挙げたこと以外でもこの姫様は何かしらの知識の蓄えがある事が伝わった。


 腕っ節があるやつも確かに魅力的だが、こうして、裏方に回らせてなんでもできそうな奴は重宝する。


 仕事を回しやすいし、今後、色々と幅を持たせて商売するには彼女みたいな人間が必要不可欠だ。


 半次郎も私は面白いから、腕が立ちそうだからだけで買ったりなんてしてはいない。


 奴からは私と同じ匂いというか、戦場や土壇場で機転が利くなと思い奴隷商人から買ったのだ。


 確かにカリファは少し、私の私情があって買ったというのはある。


 以前、姉御の話でエルフには治癒の魔法の知識があるという話を耳にしていたのが更に決め手になった。


 治癒が出来るなら、何かしらの出来事で仲間が怪我を負ってしまった際に対応できるという意味では彼女も一芸に秀でていると言えるだろう。


 そして、残る2人だが。



「スーナだ、元騎士だ…、まあ、そんな肩書きはもうないがな…」

「フルシュです…えっと! よろしくおねがいします」



 綺麗な美人で白みを帯びた長い銀髪の元騎士の女性と少しばかり幼気があり、ショートの栗毛の綺麗な耳が生えている半獣の少女。


 前者は私が探している中で、傭兵や騎士について精通してそうでなおかつ、理にかなった行動をしてくれる人材を探した末に選んだ。


 私が買う前に一度、私の元で働く際に騎士道とはかけ離れたものになると説き、そのプライドを捨て去る事ができると言い切った為に奴隷商人から買った。


 彼女が奴隷になった経緯なども奴隷商人から聞いた上で問いかけ、そして、それを承知したのが買った要因である。


 後者の少女は、半獣という人種で索敵に優れ、危機察知には適しているという面で監視、警戒などで非常に活躍できると踏んでの選択だ。


 さらに手先が器用であったり、常人よりも素早く行動でき敵に見つかりにくいことからも裏で動き回るのに彼女が適していると判断した。


 これで、奴隷は計5人の人材を確保できたわけである。



「…まぁ、こんなもんだろ、後は鍛冶屋だな、ドワーフのラネラは…?」

「明日会ってくれるそうよ」

「良し、順調だな」



 私はプラダの返答に満足し、笑みを浮かべて懐から取り出したタバコに火を付ける。


 あらかた欲しかった人員は確保できてきた。


 後はもうちょい水夫を確保できれば万々歳だろう。というか、あからさまに女性比率が高すぎる。


 男性が勧誘予定のドワーフと侍の用心棒だけでは心許ない。



「船乗りのベテランが欲しいとこだな、参謀が…」

「うん? 私じゃダメなの?」

「私を含め女が多すぎる、アンバランスなのは私は嫌いなんだよ」

「なんじゃ、まだ人数ば増やす気なんか随分と大所帯にする気だの? まあ、何をするにしても確かに数が多か方がよかが」



 そう言って、プラダに答えている私の頭をポンと撫でてくる半次郎。


 身長差があるとはいえ、若干イラっとした。


 まあ、悪い気はしないが何にしても今確認できる中で人数は半次郎、私、プラダ、カリファ、マーレイ、スーナ、フルシュの七人。


 これは流石に偏りすぎだ。



「まあ、今日は風呂入ってとりあえず寝るか、てか、この人数寝る場所なんてあんのかよプラダ」

「何人かは雑魚寝ね、仕方ないわ」

「かぁー! マジか! …明日ちょっとデカイ物件探してくるわ」

「雑魚寝ぐらいなら屁でもなか、おいは山の中で寝たこともあるが」

「ちょっと考えてみ? 毎日床で雑魚寝なんて背中痛めるだろ? 私は嫌だぞ」



 そう言って、私は呆れたように肩を竦めて半次郎に告げる。


 人数が多いということは部屋も当然必要だったんだが、いかんせん人数を集めることばかり考えていてそこら辺は疎かにしていた。



「なら、明日は私が物件探してくるから、アンタはラネラに会って来なさいな」

「良いのか?」

「えぇ、それじゃ護衛に…スーナを借りるわね」

「ん? 私か?」

「そうよ、剣の腕、落ちちゃいないでしょ? ほら、アンタのよ」



 そう言って、プラダは乱暴に鞘に入っていた剣をスーナに投げ渡す。


 驚いたように剣を受け取るスーナはそれをジッと見つめると鞘から剣を少し抜いて品を確認する。



「これは…良い剣だな」

「上等なもの仕入れたからね、ま、それ使っても女一人守れないなんてことはないでしょ?」

「ふっ…、誰に言ってる? 当然だ」



 そう言って、煽るようなプラダの言葉に肩を竦めて笑みを溢して答えるスーナ。


 彼女の剣の腕とやらはまだ見てないが、まあ、ある程度期待しといても良いのかもしれないなと私は思った。


 後は残りの三人だが、この三人にも一応、明日やるべき事は伝えておくべきだろう。



「カリファ、フルシュ、マーレイ、お前らは身なりを良くして明日、プラダの店を開いといてくれ」

「え!? わ、私達がですか?」

「そうだ、初仕事だぞ、いつまでも店閉めとくわけにゃいかんしな、半次郎は私とドワーフに会いに行かなきゃならないし、店の回し方はプラダに聞いときな」



 慌てた様子のマーレイに私は淡々と告げる。


 お金の収入源であるプラダの店は私達にとってみれば貴重な稼ぎ元になる。


 それならば、早めに店を彼女達に開かせておいて必要経費を確保できるようにしておきたいと考えるのは当たり前の話だ。



「いずれ賭博場なんかも、この街に作りたいもんだよな」

「そうねー、密造酒の横流しだけじゃやっぱりね、軌道に乗り次第ってことかしらね」

「後は購入予定の船もエスケレトプエルトに残したまんまだからな、お前含めてコイツらをバルバロイの旦那とディグレの姉御に紹介しなきゃならないし」



 そう告げる私の言葉に肩を竦めるプラダ。


 なんにしても、まだ何も始まっちゃいないし、これからやらなくてはいけない事はたくさんある。


 なんにしても、私達がやる事はこれからどんどんと幅を持していきたいものだ。


 人生は一度きり、なら、一度きりの人生を思う存分楽しんで生きれる生き方を私はしたい。


 こうして、明日やるべき事を話し合った私達は夜を明かすのだった。

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