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人材確保

 



 隣町のギルドで俺が報酬を待っている最中の事だ。


 ギルドというのは情報がどこよりも集まる場所、カウンターに寄りかかる俺は近くで話をしている男達の会話に静かに耳を傾けていた。


 こういうところから、案外、金になる案件が舞い込んで来るのは必然だ。



「おいおい聞いたかよ…隣の村の話」

「聞いたぜ、ありゃひでぇよ…、ゴブリンとオークの群れだろ? ほぼ村は壊滅して女は攫われてったらしいな…」

「…可哀想になぁ…、この間も新人のパーティーが壊滅したとか言っていたしな…」

「胸糞悪い」



 そう言って、酒を煽る男達。


 オークとゴブリン、確かにあれの群れに襲われたんじゃそうなるのも致し方ないのかもしれないなと俺はタバコをふかして静かに内心で呟く。


 この世界での下級のモンスターは基本的に人間の女性を繁殖用の肉袋程度にしか考えていない。


 残虐性も高く、奴らに捕まった女性の中には精神が崩壊した後に保護されたりする事も稀にあるそうだ。



「甘っちょろいな、殺してでも生き延びようとしなきゃ生きていけんぜ」



 俺はタバコの煙を吐きながら静かにそう呟く。


 どんな目に合おうが、どんなひどい状況だろうが、俺なら殺すことを諦めたりしない。


 例え、捕まったとて、殺されない限りはどんな手を使ってでも報復する手立てを考える。汚い手でもいくらでも使う。


 村娘達が捕まった事には同情はするが、助けを待つくらいなら、俺は機を見てそいつらを皆殺しにする。あくまでも、自分が同じ立場ならの話だが。


 生存能力が高い者で構成されたパーティーならまだ良いだろうが、学院上がりのぬるま湯に浸かりきったボンクラや村からやってきた田舎育ちとかだけのパーティーなんて向こうからしてみればカモも良いところである。


 さて、そんなカモ達が集まるのがこのギルドなわけで、俺が報酬を待っている間にタバコを吸っていると頭がおめでたい連中が絡んでくる。



「やあ、はじめまして! 君! もしかしてソロかな! よかったら俺たちのパーティーに加わって欲しいんだけど!」

「あん?」



 そう言って、黒い短髪のいかにも駆け出しですよと言わんばかりに皮装備を装着している男性の冒険者から声を掛けられた。


 彼の後ろには数名の連れ、見る限りコイツのパーティーだろう。僧侶に魔法使い、槍使いとどれもこの街出身の学園を出たばかりの甘ちゃんばかりだ。


 俺は思わず鼻で笑いそうになってしまう、生憎だが、全滅予定の甘ちゃんパーティーに構ってやるほど暇ではない。



「あっ…! 待って! 君! その人は…」



 すると、俺が甘ちゃんから声を掛けられているのを見て思わず顔を真っ青にした受付嬢がオルトロスを倒した報酬の袋を持って現れた。


 流石に新人が俺に話し掛けたりしたらそうなるのも致し方ないだろう。


 何せ、俺は仕事とはいえ人を指で数え切れないほど殺っている冒険者というよりはロクデナシの暗殺者に近いような人間だ。


 俺は肩を竦めて左右に首を振りながらこう話をし始める。



「無知というのは怖いねぇ…」

「…え?」

「オルトロスの件、ありがとうございました」

「あいよ」



 受け付け嬢から報酬を受け取った俺はそれをポーチに仕舞うと煙をふかしながら寄りかかっていたカウンターから身体を離し、ギルドの扉を雑に蹴って出て行く。


 呆けたように俺の背中を見送る新人冒険者は暫くして、ギルドの受け付け嬢に恐る恐る話しかけた。



「あの…あの人…」

「『ディアボロ』のオグロ・ロホさんよ」

「…えっ!? あの人がッ!?」

「そうよ、命拾いしたわね。関わらない方が身のためよ、長生きしたいならね」



 ギルドの受け付け嬢は至って真面目な表情で彼に忠告した。


 まるで、悪魔のような扱い方だが、その通りだから致し方ない、俺の行動を振り返ればそうなるだろう。


 モンスターより怖いものがある。それは、紛れもなく人間だ。


 モンスターではなく人間を主に狩ってあげているのだから、もしかしたら、彼らには俺がモンスターよりも怪物に見えているのかもしれない。


 それでいい、寄って来られない方が彼らの身の為にもなる。



「さて、それじゃ報酬も貰ったし、姉御の妹を探すとしますか…えーと…」



 俺はレディストの姉御から貰った地図を頼りに周りを見渡しながら街を散策しはじめる。


 エスケレトプエルトとは違い、治安の面では明らかにオベッハプエブロの方が良い、俺が街の中を警戒せずに歩くなんてのは久方ぶりの事だった。


 とはいえ、歩き慣れていない街というのはどうにも苦手だ。姉御から貰った地図を頼りに指定された場所に行くしかない。


 暫し、街の中を歩いた後、俺が辿り着いたのは木造の建物だった。


 看板には魔法品取扱店カンパネルラと書かれている。どうやら、レディストの姉御の妹はここで働いているらしい。


 俺は扉に手をかけて、中へと入る。



「いらっしゃい、あら?」



 俺を出迎えてくれたのは写真で見た通りの透き通る様な白い肌、長い亜麻色の髪をツーサイドアップに束ねた可憐な美少女だった。


 ただ、目元はレディストの姉御にそっくりだった。気が強そうな性格なんだろうなと初見で見て思う。


 俺はため息を吐くと、出迎えてくれた彼女に話をし始めた。



「ロホだ。姉御から話は聞いてるだろ?」

「あー…、話は聞いてるわ、奥の部屋で話しましょうか」

「話が早くて助かる」



 そう言って、俺はレディストの妹の後に続くように店の奥へと足を進める。


 たしかに彼女は気が強そうだが、火炎魔法で船1隻丸々燃やし尽くすようには見えない。


 俺も人間は見た目によらないというのは身に染みてわかっている。航海学を学んでいる魔法が使える人間というのは非常に貴重だ。


 奥の部屋に着くと、机のある椅子に座るレディストの妹、椅子に腰掛けた彼女は対面の椅子を手で示しながらゆっくりと口を開く。



「どうぞ、座って。…あ、自己紹介がまだだったわね。 私はプラダ、プラダ・カーラ、レディスト・カーラの妹よ」

「よろしく。俺はオグロ・ロホだ」



 そう言って、席に座りながら俺とプラダは簡単に互いの自己紹介を終える。


 対面で見つめ合う形になり、これで、ゆっくりと話が出来そうだ。


 俺は今回、この街に訪れた理由について、改めてプラダの目を見ながら口を開き話をし始める。



「さて、さっそくビジネスの話だが、俺は今、航海士を探しててね、それも、魔法が使えるとびっきり優秀な航海士だ」

「へぇ…、それで?」

「姉御からアンタの話を聞いてね、なんでも航海学を学んでたとか、だからスカウトしに来たのさ」



 そう言って、俺は何も取り繕うこと無く要件を簡単にプラダに述べた。


 正直、この話を彼女にして、どんな反応を返してくるのかは全く予想できなかった。


 それはそうだ、こんな治安の良い街で魔法品を売る商売に携わっているのだ。わざわざ、治安の悪い荒くれ者の街であるエスケレトプエルトに行く必要性は全くない。


 しかも、俺がやろうとしているのは海賊稼業に近い船を使った商売だ。


 とはいえ、奴隷商売や略奪強奪などでは無く、あくまでもそれらを行う船を狩る商売だったり、エスケレトプエルトのギルドから受注した依頼をこなす商売だ。だが、そうであってもかなりのリスクがある。


 こればかりはプラダから断られても致し方ないのではないかと俺は思っていた。


 だが、プラダは俺の顔をジッと見つめるとゆっくりと話をし始める。



「口調、そして、身だしなみね」

「…ん?」

「貴女のその男っぽい口調とその女の子らしさからかけ離れた身だしなみを変えるっていうなら考えてあげてもいいわ」

「…んなっ!?」



 俺にそっぽを向きながら言い放つプラダに対して思わず、暴言を吐きそうになった。


 今更、この口調を変えろと言われてハイそうですかと従えるわけがない、小さなガキの頃からずっとこの話し方で通してきたのだ。


 エスケレトプエルトでは、俺が女だからといって、つけあがる男達を何人も屠り、墓の下に送ってやった。


 それを今更、口調を変えろと言われてすぐに変えるなど俺は人間ができてはいない。


 だが、それは以前からレディストからも言われていた事だ。


 背に腹はかえられない、金銭と自分のくだらないプライドなら明らかに生きていくためには後者を投げ捨てた方が賢い選択だろう。


 俺はそのプラダの言葉に声を震わせながらゆっくりと口を開く。



「わ…わかった…、それじゃ俺…、じゃなかった、私…。これで、私の航海士を引き受けるって事でいいんだな? 身だしなみもそれなりにするよ」

「ん〜…まぁ、及第点だけど…、良いわ、努力するって事で大目に見てあげる」



 私の言葉遣いに満足したのか、フフンと上機嫌に答えるプラダ。


 これが、レディストの姉御の身内で、更に、必要としてない人材なら間違いなく私は殴り飛ばしていたと思う。


 だが、現実とはそうは上手くいかないものだ。プラダは笑みを浮かべると、一枚の紙を机の上にドン! と置いた。


 彼女が置いたその紙に首を傾げる私、一体これはなんなのだろうと覗き見ると、そこに書かれていたのはズラリと並んだ人の名前であった。


 紙を机の上に置いたプラダは俺に対して、話をし始める。



「さて、私以外の船員がいるでしょう? 姉からは通信機で話は聞いてたわ、実はね、何人かもう目星は付けてたのよ」



 そう言って、プラダはにっこりと笑みを浮かべる。


 この女、初めからレディストから話を聞いていて私の話に乗る前提だったらしい。


 だが、今更言ったところで彼女の条件を私が飲んでしまった以上、その約束を反故にすることはできないだろう。


 一癖も二癖もあって、食えない女だなと私はその時思った。


 さて、プラダから机に置かれた紙に私は視線を向ける。


 そして、そこに書かれている人物の名前、職業、簡単な経歴などに簡単に目を通していった。


 こんな風にあらかじめ、彼女が船員に目星つけてくれているのは非常にありがたいこと、この上ない。


 これから、船に乗り、ドンパチやったりすることも多々あるだろう、なので、今は腕が立つ船乗りが必要なのだ。


 まだ、船の購入の手配はしていないが、購入する金銭に関しては問題無い。なんなら、一隻くらいならバルバロイが譲ってくれることだろう。


 さて、話を戻すと、戦力になるであろう船員についてだ。


 私は紙に書かれた名前を見ながら、目星つけた人物についてプラダに質問を投げかけはじめる。



「はじめにコイツだな、ラネラ・バートン。コイツの経歴は?」

「傭兵のドワーフね、レトリックとルメリオットが争った円卓海戦にも海兵として出兵した経歴があるわ。ドワーフ独自の鍛冶知識もある優秀な人材ね」



 実践経験もあり、鍛冶もこなせるマルチスキルがある人材、これは非常に優秀な人材だ。


 海戦でボロボロになった武器の修繕費などが鍛冶スキルがある人材がいることで抑えることもできる。


 スカウトには全く問題ないと言って良いだろう、それに、傭兵としてではなく船員として雇うので向こうとしても安定した給金を受け取ることができ、食い扶持には困らない、まさにwin-winな関係だ。



「よし、コイツは決まりだな…、他の船員についても良い人材ばかりだ」

「感謝しなさいよね、この私が航海士になってあげるんだから」

「…あー、うん…」



 自信満々に私の肩を叩いてくるプラダを見て、思わず、コイツめんどくさそうだな、とか思いつつもなんとか航海士兼魔法使いを確保することはできた。


 私は改めて、プラダが人員を記してくれた紙をジッと見つめる。


 確かに優秀な人材ばかりで文句のつけようがない、だが、これらの人材が全て縦に首を振ってくれるのだろうか?


 そのことを考えた私は、プラダに対し、こんな提案を持ち掛け始める。



「なぁ、この街に奴隷市とかあるのか…?」

「奴隷…? …まぁ、そうね、奴隷ならエスケレトプエルトが隣町にある関係上、この街の裏市場には出回ってるとは思うけど…」



 そう言って、首を傾げるプラダに私は顔をひきつらせながら苦笑いを浮かべる。


 幼少期、奴隷として扱われていた身からすると奴隷という扱いを受けている者達がいることには複雑な感情がある。


 大海賊の頭目であるバルバロイの旦那やエスケレトプエルトの一角を担っているマフィアの頭目であるティグレが奴隷商売に睨みを利かしているにもかかわらずこれだ。


 それだけ、奴隷というビジネスは金になるのだろう。



「そこからも人材を探してみるか…」

「見に行ってみる?」

「そうだな、奴隷を見るのはあまり気乗りはしないけど人手はいるからな」



 私は深いため息を吐くと紅い髪を弄りながら、憂鬱そうな表情を浮かべ、プラダに告げる。


 プラダは私はその言葉に暫し思案した後、こう口を開く。



「ならとりあえず明日は奴隷市から行ってみましょうかね」

「そうだな」



 こうして、私とプラダは目星をつけている人員達を訪れる前に奴隷市を見ることに。


 割と優秀な人材がいれば、金銭に関しては問題なく払える。


 さて、オベッハプエブロの奴隷市場というのはどんなものなのか、見定めるとしよう。

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