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モンストルオ

 




 私達はレディストの姉御から聞かされた倉庫街にやってきた。


 多分、こんなとこに呼び出して、なおかつ用事を済ませているとティグレの師匠が言ってるとなると大体何をやっているのかは見当がつく。


 私達は倉庫の外で出迎えてくれた黒服に連れられ、ティグレの師匠がいる場所へと案内させられた。


 さて、そこに居たのは、椅子に座っているオレンジの短髪に獰猛な虎のような眼光、そして、黒のスーツのまま葉巻を口に咥えているスタイルが良い女性の姿であった。


 このいかにも頭がぶっ飛んでそうなやばい女性がこの街の大ファミリーの一つである『モンストルオ』を率いているこの街の顔役、そして、私の師匠であり育ての親であるバルバロイ・ティグレその人である。


 椅子に座っている彼女の周りにはズラリと厳つめな男性達が黒のスーツやジャケットを着て並んでいる。


 そして、その彼女の前には血だらけになったまま、ボロ雑巾のようにさせられ宙吊りにされてる茶髪の中年男性の姿があった。


 あーあ、やっぱりそんなことだとは思ってたよ。


 私がため息を吐く中、ティグレの師匠は宙吊りになった中年男性に低い声でこう問いかける。



「おい…時間がもったいないんだ、早く話してくれねぇかなぁ? あの積荷はなんだって聞いてんだよ」

「…ひ…ひぃ…」

「情けねぇ悲鳴上げてんじゃねぇよバカヤロー」

「あぃぎゃあ!?」



 そう言って、ティグレの師匠の師匠は容赦なくナイフをその宙吊りにされてる男のふとももに向かって投擲する。


 血が吹き出るが、追撃とばかりに『モンストルオ』の配下の一人であろうゴツい男が腹に目掛けて思い切り拳を打ち込んでいた。


 そのバイオレンスな光景を目の当たりにしたスーナは顔を真っ青にしながら、ひぃ! と声をあげ、隣にいる半次郎は顔を引きつらせていた。


 私はそんなティグレの師匠の相変わらずの様子に肩を竦ませながら気軽にこう告げる。



「奴隷船の密輸かい? かあちゃん」

「ん? あぁ、ロホじゃないか! 元気そうだな! 可愛い愛娘! まあ、そんなとこだ! 悪いな、こんなところで」



 私の姿を見た、ティグレの師匠は満面の笑みを浮かべながらさっきとうって変わり、満面の笑みを浮かべる。


 そう、私がティグレの師匠に会いたくないなと思っていたのはこの人、実は私を物凄く過剰に可愛がるという娘離れできない方なのだ。


 もちろん、訓練の時はかなり厳しいんだが、こんな時でもこんな調子だから困る。



「そうそう、こいつらの船が奴隷と『ミスト』を運んでやがってなぁ? …まあ、それで仲間を全部吐かせてる最中ってわけだ。…おい! 次、左目えぐり出してやれ」

「了解です」

「んで? 私の可愛い娘は何のようだい? 寂しかったんだぞぉ、最近は顔出さないからなぁ」



 そう言って、ティグレの師匠は座っていた椅子から立ち上がると私の事を抱きしめてくる。


 現在、やってる事と私にしている事にギャップがありすぎて最早、半端なく恐怖しかないだろこれ。


 ちなみに、ティグレの師匠が言う『ミスト』というのは違法薬物の事である。使用者が頭が霧がかるように気持ちよくなれる事からこの名前をつけられたんだが、中毒性が非常に高く使用しつづけれは廃人になる。


 まあ、そんなものをこの街で売ろうとするのは大体、ティグレの師匠や海賊のバルバロイの旦那以外のよそ者か、もう一つのこの街の顔役のファミリーくらいだろうが、それをティグレの師匠が仕切ってる縄張りでやろうものならこの宙吊りになってる男のようになるのは明白である。



「姐さん、こちらをどうぞ」

「良いよ気を使わなくても」

「はい」

「あら? ブランデーが好きじゃなかったかい? お前」

「さっき飲んできたからね、今は大丈夫」



 このように『モンストルオ』の連中はティグレの師匠の義理の娘ってこともあり、私の事を姐さんと呼び慕ってくる。


 まあ、私が手練れの殺し屋って事も理由としてはあるんだが、こんな風に飲み物とか無理に差し入れしてくれるのは嬉しいんだけどもね。


 そんな中、ティグレの師匠は私の後ろにいるスーナと半次郎を見るとこう問いかけてくる。



「それで? そこの二人は? アンタの仲間かい?」

「あぁ、最近、ちょっと隣町でギャングを旗揚げしたもんでねそこの部下さ」

「はぁー、そんなことすんなら別にウチのファミリーの一つくらいくれてやるのに馬鹿な娘だねぇ」



 そう言って、値踏みするようにスーナと半次郎を見つめるティグレの師匠。


 この人の人を見る目は相当なものだ。その人間の本質をあっさりと見抜いてしまう。真っ直ぐにティグレの姉御から見つめられたスーナは思わず冷や汗を掻いた。


 まるで、虎に睨まれたような錯覚、今まで戦場に出てきたスーナであってもティグレの様な眼をした人間には今まで出会った事がない。


 一方で、半次郎は笑みを浮かべたまま真っ直ぐにティグレの師匠の眼を見据えている。



「なるほどね…、そこの男は…ロホ、アンタの彼氏かい? やけに肝が座ってやがんね」

「違うっての、私の懐刀の半次郎」

「ハッ、そりゃ残念だ、それだったら今すぐ殺してサメの餌にでもしようと思ったんだがね」

「あっはっはっは! 大将! こりゃ面白い母君じゃのう!」



 そう言って、ティグレの師匠の物騒な言葉を冗談と捉えて豪快に笑いを溢す半次郎、まあ、多分、ティグレの師匠の場合は半分冗談じゃないんだがね。


 半次郎はその豪胆さから、むしろ、ティグレの師匠からはわりと好感が高いようだった。


 まあ、おそらく、腕が立つのも理由の一つなんだろうが、こちら側の人間であるというのは、半次郎が醸し出すその雰囲気をティグレの師匠くらいの人間ならば一目でみればわかってしまう。


 さて、一方でスーナの方に視線を向けたティグレの師匠はため息を吐くと私にこう告げてくる。



「お前、こいつは使い物になるのかね? いかにもって感じじゃないかい? お前さん、女騎士だろ? この街じゃ格好のカモだよ」

「んなっ!?」

「あはははは! カモち言われちょるぞ! スーナどん!」



 そう言って、顔を赤くするスーナを笑うように声を上げる半次郎。


 確かに、ティグレの師匠が言うように女騎士はこの街じゃ格好のカモだ。


 しかも、生真面目となれば相性は最悪と言っても良い、ちなみにこの街の売春婦には元女騎士なんて奴もいる。


 こっち側の人間としちゃ、まだまだ、染まりきっていないとティグレの師匠は言いたいんだろう、そして、その事は私も理解しているつもりだ。



「おい! そこに吊るしてる馬鹿は後はお前達に任せるぞ、私はちょっと席はずしてロホと外で話してくる」

「わかりました」

「用件があるんだろ? ちょっとここじゃ、さっきから宙吊りにしてる馬鹿の悲鳴が煩いから場所を変える」

「最初からそうしてくれたら嬉しかったんだけどなぁ」



 そう言って、私達はティグレの師匠から連れられて倉庫の外に出る。


 流石に拷問されてる男の悲鳴の中でちゃんとした話はできないだろうからこの配慮は助かるな、というか、最初から別の場所で話をしたかったのが正直、本音なんだが。


 とはいえ、色々と近況のこととかばかり話していたが、ようやく、腰を据えて、まともに今回、私達が話したかった要件について話ができる。


 倉庫の外に出た私達は改めて、ティグレの師匠に質問を投げかける事にした。

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