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野営

 


 廃墟の教会へ馬を走らせる私と半次郎、スーナは途中、日が暮れてきた事もあり野営を取る事にした。


 夜はいろいろと出歩くには危険だからな、ちょうどキリもいいし、ここいらで寝るのも悪くはないだろう。


 私は薪木に火をつけると、その火を使って煙草に火をつけて煙を吐く。



「のう、ロホさぁ、この夜に紛れて夜襲かけた方がよか気がするんじゃが…」

「あー…、まあ、それも別に悪かねぇけどよ、まだ、どれくらい掛かるかわかんねぇし、今日は素直に休むのが得策だ」

「そうかぁ、薩摩隼人なら、血相変えて夜襲に行くんじゃがの」

「…どんな人種なんだお前達は…」



 私の言葉にいまいち納得出来ずに首を傾げる半次郎。


 そして、いろいろと動き回りそれなりに疲れていたスーナは半次郎の言葉に顔をひきつらせる。


 確か薩摩というのは、日本の九州あたりだったかな? 九州男児は血の気が多いとは聞いたことがあるが、半次郎を見ているとそれもあらがち間違いじゃないだろう。


 私もこの世界に来る生前、母親が生きていた頃、歴史の話を良く聞かされていた。


 私の母は歴史の先生だった事もあり、世界史や日本史にとても詳しく、私が寝る前にはよくその話を聞かせてくれたものである。


 まあ、結局、その母も父も強盗に殺されてしまったのだが。



「…半次郎のいう薩摩ってのは、確か桜島が見える鹿児島ってところだろ?」

「応ッ! ロホさぁ! よう知っとるのぉ! そうじゃそうじゃ!」



 故郷の話を聞いて嬉しそうに笑う半次郎。


 だが、そんな地名も場所も聞いたことが無いスーナは私達の会話に首を傾げていた。


 半次郎は続けるように私とスーナに話をし始める。それは、半次郎がこの世界に来た経緯と以前、何をしていたかという話だった。



「丁度、おいがこの場所に来る前におった薩摩はぁ戦争ばしちょったぁ…。国相手に派手な大戦じゃ、けんど、まあ、おいは頭を銃で撃たれての、ちょいと意識を手放したらこの世界に投げ出されるように来とったとじゃ」

「…そうか…」

「まあ、師と慕っておった人と最後まで戦えたのは誉れじゃがの」



 そう言って半次郎はワハハと面白そうに笑っていた。


 随分と物騒な所にいたんだなとスーナはただ思っていたが、一方で私は違っていた。


 半次郎がいた時代、それが、大体分かってしまったからだ。とはいえ、その事を知ったところで私は半次郎に対して態度を変えようなどとは微塵と思っていなかった。



「今はおまんに助けて貰うて、感謝ばしちょる。ほんと、ありがとさげ申す」

「やめてくれよ、私はそんな出来た人間じゃない」



 私はそう言って、笑みを浮かべたまま半次郎に焼けた串肉を差し出した。


 清々しい半次郎のお礼はむず痒くなる。何というか純粋な感謝の言葉に私自身が慣れてないというのもあるのだけども。


 戦の末にたどり着いた世界、なるほど、きっと半次郎も生きるのに精一杯だったのだろうなと私は思った。


 私もそうだったが、半次郎とは雲泥の差だ。


 半次郎は自分の志と慕う師の為に生き残りをかけて戦った。


 私は野垂れ死ぬかもしれない仲間達の為に強盗をして、人を傷つけた挙句にその仲間達に食料を届けられないままこの世界に流れ着いた。


 肉串を受け取る半次郎はそれを手に取りながら私にこう告げる。



「おまんも凄か人間じゃ、胸ば張ってよかぞ、おいやスーナどんをこうして拾うたのはおまんじゃなかか」

「たまたまさ」

「それでもじゃ、おまんがしたことにゃ大きな意味がある! 心配すんな! なんかあればおいが助けてやるで! なぁ! スーナどん!」



 そう言って、私の肩をバンバンと叩く半次郎はスーナの方を向いて笑みを浮かべて告げる。


 一方、急に話を振られたスーナは戸惑った様子で少しばかりあたふたしていた。まあ、あのタイミングでまさか、自分に話がくるとは思わないからな、気持ちはわかる。



「え!? え! 私か!?」

「応! そうじゃ! おまんもおいと同じじゃろう?」

「ま、まぁ、確かにそうだが…」



 そう言って、オドオドとしていたスーナだが、確かに半次郎が言うように自分も私に拾ってもらった身である事を踏まえた身だ。


 彼女もまた、元騎士、半次郎と気持ちを同じくするところがあったのだろう。


 気を取り直したようにコホンとワザとらしく咳払いをするとこう語り始める。



「…それはもちろんだ、ロホ殿の事はボスと呼んではいるが、仕えるべき主君として全力を尽くしたいと考えているよ、彼と同じで私も義理固いのでね」



 そう言って、照れ臭そうに頬を染めながら語るスーナ。


 主君だなんて大袈裟な、もっと普通に接してくれていいのにと私は思った。


 彼女も半次郎も他の奴らも皆、平等に仲間だと思っている。確かにボスは私かもしれないが、それで、みんなが怖がってしまって、私を近寄りがたい人間としては扱って欲しくないのだ。


 ただでさえ、ギルドや他の連中から怖がられてるのだから、仲間くらいはもっとフランクにきて欲しいものである。



「そう言ってくれると嬉しいな、私もスーナは信頼してるよ、半次郎もね」

「応! それじゃ、飯食うど! 腹パンパンにして明日にゃ戦じゃ!」

「戦か! ならこの剣にかけて! 私に任せておけ!」



 そう言って、嬉しそうに笑う半次郎。


 戦ってお前達な…、確かに殺し合いにはなるのは間違いないんだけど、楽しそうに意気揚々としてるから本当に物騒な連中だよ。


 あ、私も確かにその部類の人間だったな、忘れてたわ。


 ギルドで人殺しの依頼くれなんて普通は言わないしな。



「あ! それ! 私の肉串だぞ!」

「細かぁこたぁ気にすんな!」

「まあまあ、あ、ボス、大丈夫ですよ私の肉串あげますからね」



 そうして、三人で過ごす賑やかな夜は過ぎていく。


 こんなに賑やかに過ごす夜は、私がスペインのスラム街で過ごした時を思い出すな。


 確かに苦しかったけど、仲間達が居たから寂しくはなかった。


 身寄りがない子供達がより集まって一つの家族のようだったしな。


 私は寝静まった二人の間に挟まれながら、星が輝く綺麗な夜空を見上げる。


 どこの世界でも夜の星の綺麗さは一緒なんだなとそう思った。

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