調査
私達は馬を降りて、焼けてしまった村を歩き回り近隣を調査する事にした。
一応、ギルドからの依頼ではここから南東の廃墟に救出対象がいるという話であったが、この村に何かしら敵に関しての情報があるかもしれない。
しばらく、三人で手分けして辺りを探っていると、そのヒントが見つかった。
「おい、これ…」
「どうした?」
私は何かを発見したスーナに近寄る。
すると、スーナがそれを発見したのは大きめの屋敷が焼け落ちた跡地であった。
私がスーナと共にその場所に足を運んでみると、そこには、倒れている白骨の商人らしき死体と何やら、元々物が置かれていたような跡があった。
そして、それはしばらく引き摺られているうちに家を出た辺りで途中で途切れている。
そこには荷台らしき車輪の跡が残されていた。
「…きな臭いな」
「ボスもそう思うか?」
「あぁ、どうにもな…」
私は、スーナが言うようにそれがどうにも引っかかっていた。
そもそも、なんで村を急にゴブリンやオークが襲撃したのかが気がかりだ。確かに奴等は理性がなく、村を襲う事は珍しい事ではない。
だが、なんだか、今回のケースは違うように思えて来た。この村の規模を見る限りでは、自警団が居てもおかしくはないし、外堀らしき物もあった事から防衛には長けていた村だっただろうと思う。
それが、急なモンスター達の襲撃に戸惑い、村を簡単に焼き払われて娘達を連れ去られてしまった?
人為的なものが何か加えられている気がしてならない、これはもしかすると…。
「今回の依頼、案外ビンゴかもな」
「…え? それは…」
「まあ、もうちょっとこの村を探せばわかるだろ」
私はそう言うと、ヒラヒラと手を振りその場を後にして他所の家を見て回る事にした。
目星的には出来るだけ、お金が置いてあるような家、そして、その家から何か無くなった物がないかを重点的に探した。
半次郎にも、その旨を伝えて、手分けして焼け落ちた家をそれぞれ見て回る。
そして、見て回った結果、私はある事に気がつき、それが確信に変わった。
「おい、半次郎」
「おぉ、言ったとおりじゃの、数軒か何か大きな物が盗られちょる痕跡があったど」
私の呼びかけに頷く半次郎は見て回った家について、笑みを浮かべてそう告げる。
スーナも半次郎の二人も、私が考えている事を大体察したのだろう。
違和感ある村の様子を見て回れば察しの良い人間ならばすぐに気がつく。
特に半次郎とスーナはそういった事に関して非常勘が働く類の人間だ。
ひとまず、私はこの焼けた村を見て回ってわかった事を二人に告げ始める。
まあ、わかったというか、あくまでも推測なんだけどな。
「この村、内部と外部から細工されて意図的に奴らに襲わされたな」
「あぁ…おそらくな」
私の言葉に同調するように頷くスーナ。
そして、彼女は私の話を繋げるように、村の様子から推測した事を述べ始める。
「動機は金だろう、いくつかの家の大きさを見る限りこの村にはそれなりに稼いでる商人が住んでたみたいだしな」
私は頷くスーナに続けるように話をする。
今回は襲われた、というよりワザと何者かが襲わさせたのだろうと思う。
これだけ、対策が出来てる村がこうなるのは、人間が絡んでいないと起きえないだろう。
理由は村をモンスター達に襲わせ、ほとぼりが冷めたのちに家に残している商人達が隠していた金を盗むという手口。
荷台の車輪の跡を見る限り、一人だけの犯行とは考え難い、複数人でこの犯行を計画したと思われる。
あの商人の死体は、その際、隠していた金を取り戻しに焼け落ちた村に帰って来た商人がその人物から襲われ殺されたという事なのだろう。
なかなかにえげつないやり方、頭が随分と回る奴らみたいだ。
「そいつは…いや、複数人だろうからそいつらは未だに大金を持ってどっかに潜伏してるだろうな」
「場所は?」
「そりゃお前、ここら辺で身を隠すのにはうってつけの場所があるだろうがよ」
私はケラケラと笑いながら、訪ねてきたスーナにそう告げる。
その言葉を聞いたスーナも理解したのかハッとした表情を浮かべていた。そう、こんな事をして金を奪った奴等が向かう先はただ一つ。
私と馴染み深い、あのクソみたいな素敵な楽園しかないだろう。
ひとまず、村を一通り見て考えをまとめ終えた私はその場から立ち上がる。
「とりあえず、何にしてもこの依頼を終わらせてからだ」
「…気分が悪いな」
「まあ、そうじゃの。賊どもの都合や欲で巻き込まれたおなご達が可哀想じゃ」
半次郎の放った言葉にこの時ばかりは私も同感だった。
とはいえ、その未だに行方不明になった女達の安否もどうなのかはわからない、全て殺されてるようならその分、私達が貰う報酬も当然ながら減る。
一旦、調査は切り上げて廃墟の教会へ向かうのが得策だろう、思わぬ収穫があった事だしな。
私はスーナと半次郎を連れて村の外まで出ると、外に待たせていたシャンドレに跨る。
「おそらく、ゴブリンやオークの足跡はこれだろうな」
「…うむ、確かに南東の方角に向かっているようだ」
「そんじゃ、ささっと殺るかの」
焼け落ちた村を後にし、シャンドレを走らせる私に半次郎とスーナも馬を加速させ、その後に続く。
長々と村の調査をしているうちに日も暮れつつある。
出来るだけ、早めに廃墟の教会につければ良いのだが、もしかすると時間的に今日は間に合わないかもしれないな。




