フラグが立ちました。
高校生活が始まって1ヶ月ちょっと。
私、深田夢叶は小学生の時に言われた「悲劇のヒロインぶっている」の一言で目立つことはとても面倒であることを自覚し、オシャレだとかに努力するのをやめて地味に生きてきた。
クラスメイトとも広く浅い友好な関係を築き毎日を淡々と平凡に過ごしきた。
「夢ちゃん次の体育、雨だから男子と合同でバスケだって。」
「え。ただでさえ体育嫌なのに男子と一緒なの?!」
「夢ちゃん恋愛ゲームとかはするけどリアルだと違うよね」
そう言って苦笑するのは幼馴染みの田島優花。
校則の緩い事で有名な日野咲高校に受かって直ぐに黒髪ショートをモカブラウンに染めた彼女は小柄で守ってあげたくなるような可愛らしい女子。
地味な私とは対照的だ。
「だってさ合同って事は小林くんや長山くんが一緒ってことでしょ?」
「まぁクラス一緒だからね。いいじゃんイケメンだよ?目の保養だよ。」
「やだよー。あの2人いると女子が煩いし。イケメンは二次元で充分。三次元男子に興味ないもん。」
そう言いながらも授業はさぼるわけにもいかないので渋々更衣室へ向かう。
「夢ちゃん昔はあんなに可愛かったのに」
優ちゃんが私の後ろでそう言っていたのには気づかなかった。
バスケの授業は体育館の中央にネットの壁を設けて男女別れて行われた。
2クラス合同で行われる為に4チーム分かれて行われる。
半面しか使えないので2チーム交代で行われた。
「夢ちゃんお疲れ様ー。」
私のいたチームと交代でコートに入る優ちゃんにタオルを貰って私は隅っこで壁にもたれるように座った。
「うわ。最悪だ。」
水筒のお茶を飲みがらチラリと男子の方を見ると丁度小林くんと長山くんコートにいた。
しかもそれは同じチームではなく別々に。
私は体操座りして膝に顔を埋める。
「「キャー小林くーん」」
「「長山くーん頑張ってー」」
直後に聞こえてきたのは女子の甲高い所謂黄色い声というやつ。
「あー煩い。」
こうなるから嫌だったんだよ。
あんなにキャーキャー言われて目立ちまくって大変じゃないのかな?
そう思ってチラリと2人を覗き見ると特に気にした様子もなく試合をしている。
っけ。イケメンはモテモテにも慣れてるってことか。そもそも別世界の人間だから気にすることもないか。
内心毒づいていると目の前をコロコロとボールが転がり中央のネットの隙間を抜けて男子の方へ転がって行った。
コートを見ると顔の目の前で手を合わせる優ちゃんがいる。
優ちゃんのミスか。
私は小さく息を吐きながらネットを潜りボールを掴む。
そのまま振り返ってコートの優ちゃんにパスする。
パスを受け取った優ちゃんは何故か真っ青な顔で手を振る。
「ん?」
何か後ろであったのかと男子のコートのを見たと同時だった。
バシン
ボール特有のゴム臭さと顔面にめり込む痛みで私の意識はフェイドアウトした。
「深田さん大丈夫?!」
「大丈夫なわけあ・・・る・・・か」
最後に聞こえたのは聞き覚えのある男子のだった。
「ん」
消毒液の独特な臭いが鼻腔をくすぐる。
「あ、目覚めた?」
ん?優ちゃんにしては声が低いような。
嫌な予感がするが目が覚めた事は気付かれてるみたいだしな。
ゆっくりと目を開ける。
「小林くん?」
何故関わりたくないイケメンがここにいる。
上半身を起こそうとすると頭がクラクラする。
「おっと。大丈夫?軽い脳震盪らしいから無理しない方がいいよ。」
小林くんは慣れた様子で私の背中に手を添えて起きるのを手伝ってくれる。
手慣れてんなー。こういうのがモテるのか。
「あの何で小林くんが?」
「あぁ。本当は長山が謝んなきゃいけないんだけどさ。あいつバイトがあるとか言って。本当ごめんね。女の子の大事な顔に。」
「はあ」
私にボールを当てたのは長山くんだったのか。
あー仲が良いから代わりに付き添ってくれたと別にそこまでしてもらわないくてもいいのに。
むしろ関わらないでほしい。
「ところで深田さんはオシャレしないの?」
「は?」
「いやさ。寝てる時思ったんだけど深田さん可愛いよね?」
何、なんなのこの流れでナンパなの?!
爽やか系に見えてチャラいとか有り得ない。
「いやー。小林くんの勘違いでは?」
「そんな事はないと思うけど?」
そう言って小林くんが顔を近づけてくる。
「夢ちゃん大丈夫ー?」
タイミングよく入ってきた優ちゃんに私はホッと胸をなでおろした。
「田島さん来たし、俺は帰るよ。じゃあお大事にね深田さん。」
小林くんは何事もなかったかの様に席を立つと保健室を出ていった。
「夢ちゃん。私邪魔しちゃった?」
「いや。むしろ助かった。」
やっぱりイケメンは二次元でいいや。
「優ちゃん荷物ありがとう。帰ろ。」
「あ、待って夢ちゃん。」
荷物を受け取って帰ろうとする私を引き止める。
「どうしたの?」
「夢ちゃん放課後になっても起きないから先生が家に電話したんだって。」
「うん。」
「そうしたらお姉さんが出て迎えに来るって。」
「うん。ってえ?お姉ちゃん?」
私がそう言った時保健室の扉が開いた。
「深田さん。お姉さん迎えに来ましたよ。あら、目が覚めてたのね。良かったわ。」
「夢叶?」
ニコニコな保険医の横には一瞬鬼の形相を浮かべたお姉ちゃんがいた。
やばい。
「もしかして春子お姉さん?」
「優花ちゃん?可愛くなったわねぇ〜。」
冷や汗を浮かべる私に気付かない優ちゃんがお姉ちゃんと楽しそうに談笑する。
「深田さんにこんな綺麗なお姉さんいたなんて知らなかったわ。」
「いえいえ。この度は妹がご迷惑おかけしました。」
お姉ちゃんは人当たりのいい笑顔で保険医に挨拶すると私の手を引いて歩き出した。
私のSOSに気付かない優ちゃん達に笑顔で見送られて私は家に帰る事になった。
「さあ夢叶。説明してもらいましょうか?」
はい。私、深田夢叶は15歳にして死亡フラグが立ちました。