ふたり
体育祭かあの後どうなったか正直あんまり覚えていない。
最後の競走で逆転した赤組が優勝したのは何となくだが記憶にあった。
「深田さん。」
「小林くん・・・」
「少しいい?」
小林くんがそう言って私の前にくるだけで周りの空気がざわめいている。
「体育祭の時は本当ごめん。『好きなもの』って物でも良かったらしいんだ。」
「別に・・・いいよ。」
「でも今だって好奇の目に晒されてるわけで」
「・・・じゃあ私の周りに来ないでよ。」
「それは出来ない。こんな事になったのは謝るよ。だけど好きだって事は嘘じゃないから。」
小林くんのその目は真剣で私は目を逸らした。
確かに好奇の目に晒されてるけど嫌がらせなどはない。
きっとこのザワザワも暫くすると落ち着くだろう。
でもそうじゃないんだよ。
私は・・・
「小林。田島が日直の仕事手伝えって呼んでたぞ。」
「長山・・あぁ分かった。」
小林くんは呼びに来た長山くんに何か言いたさげにしながらも日直の仕事をしに教室を出て行った。
「大丈夫か?」
「うん。」
長山くんは先程まで小林くんが座っていた席につくと自然な流れではなしかけてきた。
「小林ってさ。いつもあぁなんだよ。」
「え?」
「いや。なんて言うんだ・・・例えば赤いものって書いてあるとするだろ。」
「うん。」
「それを赤いボールって勝手に頭で変換してずっと赤いボールを探し続けるんだよ。赤けりゃ何でもいいのに。」
「う、うん?」
「つまり体育祭の時お題の紙を見てあいつは好きなものって言うのを『好きな者』って勝手に思い込んだよ。だから悪気はないって事で。」
長山くんの伝えたい事は何となく分かった。
二人は小さい頃から仲良かったって聞いてたし、一生懸命小林くんのフォローをしている長山くんを見ていると思わず笑がこぼれた。
「やっと笑ったな。」
「え?笑ってなかった?」
「あぁこーんな顔してたぜ。」
長山くんはそう言って自分の頬を掴むと変顔してきた。
「ちょっもう何それ私!?」
それに耐えられず笑っていると長山くんは暫くその変顔で私を見てきた。
「うん。やっぱり深田は笑ってんのが1番いいぜ。」
「ありがとう。」
「小林の事も悪く思わないでやってくれ。深田の事が好きなのは本当だから・・・あいつも俺も」
「・・・うん。」
長山くんも小林くんも私には勿体ないくらい良い人だよ。
だからやっぱり伝えなきゃ。
「長山くん。後で小林くんも戻ってきたら話があるの。いい?」




