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暖かな記憶

優ちゃんに連れて行かれた長山くんが戻ってくる前に私は場所を移動した。

あのまま長山くんの顔を見るのは無理だ。

いくら何でも私でも分かる長山くんが言おうとした言葉なんて。


「無理だよ。私は。」


私は好きな人なんて作りたくない。


ずっとクラス席を離れているわけにもいかず、私は長山くんに見つからない様にクラス席の端に座った。

いつの間にか障害物リレーは女子が終わり、男子が始まっていた。

色んな所から自身のチームを応援する声が聞こえる。


私はどこか遠くでそれを聞いていた。

あの時もこんな天気の良い日だったな。


小学5年生の下校途中。

おしゃべりに夢中になっていた私は前をよく見ていなかった。


「痛っーい。」


当然の様に私は石かなにかにつまずいて盛大に転んでしまった。

右足には大きな擦り傷が出来ていてそこからは赤い血が流れている。

その光景が怖くて痛くて泣きそうだったけど泣くのが恥ずかしく思えて強がったんだよな。

水筒に残っていた水でティッシュを濡らし砂利や傷口を拭き歩きだした。

血がまだ止まっていないから時々立ち止まって拭いては歩いての繰り返し。


「夢叶!」


痛みに堪えながら歩いている時に私の右手を掴んで普段名前で呼んだりしたいアイツが息を切らせていた。


「何よ。」

「お前、血が出てるのに歩くなよ。ほらここ1回座れ。」


アパートの囲いのコンクリートブロックに座らされた私の前に屈むとアイツはランドセルから大きな絆創膏を取り出してペタッと貼った。


「おうきゅーしょちだ。帰ったら母ちゃんにちゃんと手当してもらえよ。」

「う、うん。」

「よし。じゃあ、ん。」


そう言ってアイツは私の左手を持って立たせると歩きだした。


「ちょ、ちょっと手!」

「お前、まだ痛いだろ。」


そう言うと周りに冷やかされてもアイツは私の手を離すことは無かった。

そのまま自分の家を通り過ぎて私家の前まで送ってくれた。


「今日だけだからな」


そう言ってアイツは来た道を走って帰っていった。

今思えばこの事で私はアイツの事が好きになったんだと思う。

もう会うことなんてないアイツが私の最初で最後の恋だったんだ。


「はー。こんな事思い出すなんて。」


きっと長山くんのせいだ。

彼等に悪いからちゃんと言わないと私は誰も好きにならない。


「深田さん!!」

「小林くん?」


隠れる様に座っていたのに。

小林くんは迷う事なく私を見つけ、手を掴んだ。


「一緒にゴールまで来て。」

「え?」


私の手を掴むとそのまま走り出す。

昔のこと思い出したからかな。

小林くんの手が暖かい。


「ゴール。小林くんが持って来たカードに書いてあるのは・・・おぉこれは特別カード好きな人!!」


その瞬間、色んな所から女子の悲鳴が聞こえた。

少し男子の悲鳴も聞こえた気がするけど・・・。


「これは小林くんに確認しないと分かりませんね。本当ですか小林くん?」

「嘘はいってないよ。俺は深田さんの事が好きだから。」


その瞬間先程よりよ大きな悲鳴が聞こえた。


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