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覇戒の龍神  作者: KB
一ノ欠片
9/13

接触

決意表明と謎の説明回


※2017/6/15改稿

※一人称

 ここ数日の間で連続して多くの配下が出て行き、ガランとしてしまった謁見の間を眺めながら俺は1つ溜息をついた。


「どうされました? オロチ様」


 自動人形(オートマタ)のクレナイにそう聞かれる。


「あぁ、なんでもない」


 俺はそちらを見る事なく手を振り返す。


「失礼致しました」


 そう言って1つ気配が離れていくのが分かった。


「さて、ここから優先すべき事は……と」


 玉座から立ち上がった俺は、謁見の間後方に付けられた両開きの窓から外を眺めながら物思いにふけっていた。


 手駒であるNPC達の内、性格を考慮せずに強さだけを見て何組かを送り出したが、果たしてそれで良かったのか、そんな思いが今更ながら湧いてくる。


「だとしても、ゲームでの相性や弱点の影響上、今の組み合わせが最高なのもまた、悩ましい点だ」


 どうにも俺は喋る相手がいないと独り言が大きくなるタチらしい。


 考え事をしながら、ふと振り向いた俺はその視線の先に見える残された4体のNPCを見る。


 クレナイ。セバス。ウルージ。ロックガン。


 クレナイはこのソールの守りの為に。

 セバスはこの城の掌握の為に。

 ウルージとロックガンは明らかな異形の為。

 様々な理由で彼らを残したが、仮に彼らが束になって襲い掛かってこようが出て行った他の者達が反旗を翻そうが、俺が負けるとは微塵も思っちゃいなかった。


 先の魔法しかり、自分のパッシブスキルしかり、アイテムストレージやその他身に付けてある禁忌、更には王城内の配置や、自らの契約獣等。転移してから数日はゲーム時代と何か変わったことはないかと目を皿にして確認したが、特にと言って変わったこともなかった。

 故に、己が「ウロボロス」最強のキャラクターである『オロチ』のままこの場にいると確信している。


 ――まぁ、こいつらが負けるとなると、少なくとも上位種の中でもLevelが200付近の奴らだけだろう。


 「ウロボロス」の中でも、上位者に名を連ねる事が出来る可能性のある無課金カンストの基準である上位種Level200。

 それをベースに作られた運営の鬼畜イベントをクリアしたものだけに送られる「眷属」達。

 それを二桁以上保有するのは、多くのユーザー達の中でもこの俺、ただ一人である。


 まぁそうなったらなったで、俺が出張るしか無いだろうが。


 窓の外の景色を眺めながら俺はそんな事を思い、そしてマークするべき人物達を頭の内に思い浮かべていく。


 身内は無いとは思うが、仮に他のプレイヤーが居たとして、脅威になりそうなのはギルド上位の奴らだろうな……。


 己の金と時間と能力でここまで引き上げてきたキャラであったが、配信開始直後からゲームバランスが何処か狂ったゲームだった。

 プレイヤーキャラが平気で素材になるような設定。

 強姦や拷問など倫理的に忌避すべき事柄以外の犯罪行為の黙認、及び自己責任。

 その強姦や拷問に至っても結局は肥大化しすぎたサーバーの悪影響により取り締まりに穴が出来ることもしばしばあった。とは言っても、R15のゲームだったので本番行為やスプラッタ事態は厳しく禁止されていたが。

 だからか、ゲームでありながらも生々しいまでの現実感と人の悪意が見え隠れするようなゲームになっていた。

 そのせいか、開始直後に始めたものと出遅れたものとの間に大きく差が出来てしまい、時が経てば経つほど囲い込みや保護を建前にした強引な勧誘などが後をたたなくなった。

 それでも世界で初にして唯一のVRMMOであったが故に人口は減るどころか増える一方だったが。


 まぁ、大手ギルドなら犯罪行為は徹底的に取り締まっていたし、一部の悪を気取るプレイヤーも多数の晒しにあって社会的に消えていったものも少なくはなかったがな。


 俺はサーバー開始直後からこのゲームを始め、今や数年目といったところだった。

 確かに、当初は様々な問題と面倒ごとに直面した、だがそれらを踏み潰し、ここまでゲームを続けた年月が確固たる地位となり、今や俺に匹敵するようなプレイヤーなど居ないと言い切ってもいい。


 もっと言えば、この世界の相手が俺の予想以上に優れていたり、他の物語にありがちな知らない技術があったとしても全て奪い尽くせば何の問題もない。

 仮にも俺は『神』の位を戴いている最上位種族『龍神』だ。この体は仮初めのモノだし、あの日から俺の本体は龍界に存在している。その事はこちらに来てからも確認済みだし、本体が顕現するのに必要なこの分体自体の能力もゲームの頃と何ら変わっていない。

 ゲームの中のアバターがまた違うアバターを扱ってゲームをプレイするという何とも言いづらい違和感を覚えながらプレイする事になってはいたが、それ以上の恩恵が与えられていたのが大きかった。


 それでも俺が知らない事は多いだろう。


 だから、それらを知るために俺は動くつもりだ。


 まぁ、仮に死んだとしても配下の者であれば魂を龍界に送り込んでからアイテムを使えばいいし、俺自身無いとは思うがこの体が使えなくなれば新たに本体の方から作り直せば良いだけの話だ。


 ゲームの頃は誰もこの事を知らなかった。

 健気に無謀に、そして愚かしいまでの努力を積み重ねて俺を討たんとほぼ全てのプレイヤー挑みかかって来ていた。


 その度に俺は思った。



 ――愚かな。お前達が俺を生み出したんだ。



 と。


 『龍神』へと進化する前から、俺は密かに『柳』のあり方を変える気でいた。

 ギルド大戦が起こる前は、全ての『禁忌』を回収し、誰も手を出せない高みまで昇ったその時、『神』の名の下に龍人による絶対帝政を築くつもりだった。


 それもこれも、全ては異世界らしき地に来てご破算になったがな。


 少しばかりの案くらいは弟妹達に話してはいたが、絶対的な王がいなければ成り立たないものだったし、仮に弟達がこの世界に来ていたとしても国を興すくらいしか出来てないのでは、とも思う。


 確かに弟達は強い。

 他者を寄せ付けないほどに圧倒的ではあるが、それでも完璧では無い。


 俺も完璧では無いが、それ故に『禁忌』を求めた。


 他のプレイヤーは知らない事だが、『禁忌』とは端的に言ってゲーム時代に出て来ていた架空上の神の分身みたいなものだ。

 「神へと至る扉が現れる」のは自らの種族に『神』が付くから。

 全ての『禁忌』を集めれば、かつて分割封印された神の力が新たなる種族となったその者に宿り、第2の神へと至る事が出来る。

 そして、ゲームの表裏の設定や、その他全ての事を知り、自由に操れる事が出来るようになる。

 俺がこの事を知れたのも偶然に過ぎなかったし、この事を知れなければ絶対帝政なんて事は考え付きもしなかっただろう。


 だが、それもこれも全ては『あの日』に無意味なものとなった。

 俺は既に『神』の名を冠する事となったし、『禁忌』を集めた結果必要となったのは世界の知識だけだった。

 『神』の座も、その力も、因果律の変更も、今までの俺なら容易く行えた。

 それをしてしまうと『禁忌』を集める楽しみが無くなってしまうからやらなかったが。


 全てを『あの日』に知ってしまったからこそ、俺は『禁忌』により固執するようになった。


 もう二度と『あのような事』を引き起こさないために。


 『神』へと至った俺が最初に行ったのは秘匿されていた他の神の再封印だった。


 そして何食わぬ顔をして再度『禁忌』を集め始めた俺のところにあいつは来て、あの日の大戦へと日々が過ぎていった。


 この地に残りの『禁忌』があるのかは分からないが、俺の手持ちの『禁忌』が問題なく発動しているあたり少しは期待しても良いのだろう。


 ならば、やる事は変わらない。


 『あの日』、『あの時』、『あの場所』で決めた事を俺は決して違えない。


 慈しみながら、嘆き悲しみ、そして謝りながら消えていった我らが母の意思を途絶えさせぬために、俺は俺のやり方で家族を守る。


 その為なら、ここが現実だろうと何だろうと振るえる力の全てを使う事に躊躇いなどあろうはずがない。


「だから、まずは――――」


 そう、まずは。


「世界の全てを手に入れる」


 途端、謁見の間の雰囲気が一瞬のたるみも許されないほど緊迫したものに変わった。


「『あの日』託され、そして己が認めた愛しい家族を、それに連なる全ての同胞を、俺はこの世界でもこの背に背負う」


 びりびりとした雰囲気が俺の肌を刺す中で、俺は片手を握り締めながら今一度誓う。


「力を振るえ。その命を燃やせ。俺は『あの日』を決して忘れない。愚かしき人間が弱神に誑かされ我らが母を討った『あの日』を」


 体の奥底に眠っていた本体の力がこちらの世界に静かに現れ始めた。


『………』


 俺の背後4つの気配が深く頭を垂れ、俺に畏怖と崇拝の念を抱いているのが良くわかった。


「クレナイ」


「はい」


 俺の呼びかけにクレナイは静かに立ち上がり顔を伏せながら応えた。


「直にユーミットからお前に連絡が来るだろう。『人間に接触。被害は皆無。都市への侵入は容易』と」


「はい」


 先ほどまで視界の片隅で観て(・・)いた状況からそう推測し、次なる判断を告げる。


「恐らく私が期待するものはないだろう。それでも、私達に刃を向けるのなら容赦はできない」


 静かに俺の判断を聞いている4人に向き直り、最後にこう伝えた。


「擦り潰せ。圧倒的な、絶対的な、覆しようのない天上の力によって」


 4人のその先を、俺が守らなければならない愛しい者達を見ながら俺は静かに目を瞑る。


「新たなる世界で狼煙を上げろ。全ての同胞に私の存在を伝えろ。『龍神』オロチが顕現したと。龍の守り神が世界を取りに来たと」


 俺のその命令に、自然と片膝をつき直していたクレナイを含め4人が身震いをして返答した。


『意のままに、我らの至高にして絶対なる主よ』


 俺はその返答に満足し、再度玉座に座り直した。



♢♢♢♢♢



「――――報告は以上です」


 先程、ガーヴァンが捕らえた山賊達から手に入れた情報と此方の私見を交えた報告をクレナイ様にした私は下される判断を静かに待った。


『そうですか』


 返ってきた言葉は意外にもそれだけだった。


「何か、おかしな点でもありましたか?」


 だとすれば、私達が手に入れた報告はオロチ様には不必要と断じ、新たな贄を探さなければならなくなる。

 別段それ自体が不服なわけではないが、これ以上獣臭い奴と共にいると、オロチ様の御顔を拝謁する際に獣臭がしてしまう。


『いえ。ユーミットの報告は的確であり、素晴らしいものでしたよ』


 では何だと言うのだろうか?


『ただ、貴方が上げた報告の全ては、既にオロチ様によって全住民に下知されています』


 なんだって!?

 オロチ様は既にこの状況を予見されていたというのか!?


 ならば私達を派遣したのはその考えが確実なものか判断するためなのか?


 だとすれば……、なんと素晴らしい!!


 なんと素晴らしい御方なのだろうか、あの御人は!!!


 私など態々力を使わなければ考えもつかなかったような事を、あの御方はたった一考しただけで命令を下せるほど確信を持っていただなんて!!


 あぁ、あぁ!!

 良かった、あの御方に付き従えて本当に良かった!

 魔王などという小者に従うのではなく、あの時オロチ様に従って本当に良かった!!


 やはり私の心からの決断は間違っていなかった!


『それで、ですが』


 おっと、まだ何か至高なる頭脳から出された御命令があるのだろうか。


『「新たなる世界で狼煙を上げろ。全ての同胞に私の存在を伝えろ。『龍神』オロチが顕現したと。龍の守り神が世界を取りに来たと」オロチ様は私達にそう御命じになられました』


「………」


『刃向かう者の全てに対し「擦り潰せ。圧倒的な、絶対的な、覆しようのない天上の力によって」と、そして世界の全てに知らしめろ、と』


 なん……と。


 遂に、遂に私達の力が……。


『ですので、ユーミット。慈悲深き我らが主オロチ様の名の下に、今から行く都市の全てを貰い受けて来なさい』


 あぁ……。


 なんていう日だ……。


 この私が、オロチ様の目的の一助でも担える日が来ようとは。


 『あの日』以来、オロチ様は変わられた。

 浅ましくも愚かしいニンゲン共によってオロチ様の母君は討ち取られ、オロチ様が同族の全てを司る至高の唯一神となられた。


 その日以来、私達『眷属』はオロチ様の荒れ狂う心情を時折感じられるようになった。


 漸く、漸くなのですね、我が君。


 煩わしい鎖から解き放たれ、遂に貴方様がこの世の全てを手に入れる時が来たのですね。


 ならば、ならばこのユーミット、何時までも何処までも貴方様の力になる事を今一度誓います。


「承知しましたクレナイ様。オロチ様にもお伝え下さい。『このユーミット、必ずや成し遂げて見せましょう』と」


『分かりました、それでは』


「はい」


 それを最後に念話は途切れた。


 私のこの感情を他の『眷属』達は感じ取れたのだろうか、いやきっと感じ取れている事でしょう。でなくば、オロチ様の『眷属』として相応しくない。


「ガーヴァン」


 ぐちゃぐちゃと山賊を弄って遊んでいたガーヴァンがのそりと立ち上がって此方を見て来た。


「それで?」


 何時もなら腹立たしいこの畜生も、今なら慈愛の心を持って接する事が出来る。


「分かっているのでしょう、貴方も」


「えぇ、まぁ」


 そうやってボリボリと頬を掻くガーヴァン。


「やっと、ヤれるんですかぃ」


 そう言って私達はオロチ様の居られる方を向き、一度片膝を付いた。


『【蛇、蛇、蛇。我ら浅ましくも卑しき下賤なる蛇。我らが至高なる御方の為にその命を費やすモノ。生まれ出ずるその日より体の一欠片まで貴方様のモノ。どうかその大望の為に我らが命をお使いください】』


 私達の背に、『眷属』共通の証である『白き銀龍に絡みつく緑の蛇』の紋様が現れる。


 この紋様がある限り、私達は大いなる御方の加護の下にいる事が感じられる。


「それでは、行きましょうか」


「言われなくとも」


 そうして、念話の間放っておいたマトモな方のニンゲンを操り、私達は辺境に存在するという都市へと向かった。


 あの御方の大いなる目的の第一歩目を。

ふっ、まだ読んでる人はいるかな?

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