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覇戒の龍神  作者: KB
一ノ欠片
12/13

進軍

漸く戦いが始まる……。(次回から)


※一人称

※2017/7/1改稿

「――――との事です。オロチ様」


 ユーミットとガーヴァンが人間と接触し、辺境にある都市まで出向いた結果を聞かされた。だが、俺としてはだからどうしたと言う他ない。


「クレナイ」


「はい」


「この私がその程度の事を把握していないとでも思ったのか」


 そう。その程度(・・・・)の事であればとっくに想定していたし、あいつらならどう頑張っても喧嘩を売ってる風にしか聞こえないから、俺としては想定通りという他ない。


「失礼致しました。では、全ての配下が戻り次第お出になられますか?」


 俺の言葉に深く頭を下げて謝罪をしたクレナイが簡単な確認を取ってくる。


「あぁ、そうしようか」


「では、既に各種族一個大隊。計1万程の兵の準備が出来ております」


 1万、か。


 想定通りと言えば想定通りだが、ここまで手際が良いとは掘り出し物だったな。こいつは。


「それで良い。それでこそ私の人形に相応しいぞ、クレナイ」


 俺が少しばかり大仰そうに言うと、頭を深く下げたクレナイはプルプルとその身を震わせて言葉を返してきた。


「お褒めに預かり大変恐れ入ります。オロチ様」


 だとしても、1万か。


 俺が作り上げたこの都市には、龍種と自動人形(オートマタ)を除いた様々な種族が凡そ100万程存在している。

 その全てを知っているわけではないが、地下やら異空間やら空中やらに様々な施設が立ち並んでいるし、しかもゲーム時代はそこに住まう全住民が15歳から35歳の間という、実に都合の良い設定になっていた。

 どうやらその設定自体はこの地に来ても変わっていないみたいだから、総動員を行えば実質100万近い保有戦力がある事になる。


「はっ。負ける訳がない」


 思わず口に出してしまっても仕方ないだろう。

 なにせ、知らないとは言え住民のほぼ全てが眷属である13の部下の配下だ。種族は直臣の部下達とほぼ同一の者ばかりだろうし、実力としては中堅どころに劣るかといったところだ。


 まぁ、全てが全てゲームの様にはいかないだろうからピンからキリまであるだろうが、それでも中堅に近い実力があれば、ファミコンがボスを気取ってたこの森を開拓できない様な実力の者達が住まうこの地では、相当の実力者となれるだろう。


 一つ説明を入れるとすれば、中堅は凡そ一から十まである等級の内、四から六までの等級のモンスターを相手どれる者達の事を指すから、もし万が一それ以上の実力者がいた場合は何の役にも立たなくなるんだが。


 だか、そういった奴らは『眷属』達にやらせれば良いだろう。


「後どれくらいで揃う」


 クレナイの方を向くこともなくそう呟くと、俺の機嫌を損ねない様な心地よい音色で答えが返ってくる。


「一刻もあれば揃うかと」


「そうか」


 30分で揃うのなら俺も準備をし始めないとな。


「支度をする。各員、篤と準備に移れ」


『はっ!』


 そう言い残して謁見の間を出ると、すぐ外の廊下にシェラが残したメイド達が頭を下げて待機していた。


「ご苦労」


 どうも、俺はこの世界に来てからますますロールプレイから抜けられなくなったらしい。

 口から出る言葉の全てが偉そうだが、それに対して何の違和感も抱かなくなっている。


 俺の労いの言葉はシンとした廊下によく響き、より一層の重しとなって彼女達の背にのし掛かったようだ。


「いえ。当たり前のことなれば、お気遣いなされぬよう伏してお願い申し上げます」


 一番謁見の間に近い所で頭を下げていたメイドが体を少し起こして言う。


「そうか。まぁ良い。一時(いっとき)もしたらここを出る。手伝え」


 俺はそれきり後ろを振り返ることなく、王宮にある自室から転移する事が出来る寝室へと戻った。


 王宮の丁度三階部分の隠し空間に作った俺の寝室には、天蓋付きのキングサイズのベットに世界樹の端材とエルダートレントの木材で作られたロッカー。他にも貴重な素材を使って作り上げたチェストやタンスに、重要なアイテムを入れて置く為の金庫など、かなり時間と手間をかけて揃えた一品ものばかりが並んでいる。

 極め付けは天井から釣り下がっている照明に使われている、『邪神の心臓』だ。

 邪教徒が諸手を挙げて欲しがる品を寝室の照明代わりに使うやつなんて、古今東西見渡しても俺くらいだろう。


 俺はそれらを眺めながら、後ろからついて来ていたメイド達に聞いた。


「初めてか。ここは」


 聞いてから気付いたが、ゲームとはいえAI搭載のNPCがプライベートルームに入るなんて事はあり得ないだろう。


「も、申し訳ありませんっ!!!」


 案の定、王の寝室に突然入った形になる彼女達は急いでその場に平伏して許しを請うて来た。


「別に構わん」


 見られたからと言って困るものもないし、第一俺がいなければ隠し空間に繋がる通路の段階でガーディアン達に襲撃されているだろう。


 そう考えてみれば、特にと言って怒る気にもなれない。


 良く良く考えても見てくれ、まず王宮に入るには、普通なら王城地下にある『真実の牢獄』から王宮が存在する地に転移し、そこから眷属達の住む『十三宮廷』を越えて、そして最後の砦である『龍神殿』を抜けないと俺が寝起きする王宮まで辿り着けないのだから。


 何故ここまでややこしい設定を作ってしまったんだと思わなくもないが、俺自身は直接王宮に転移できるし、眷属達もそれぞれの居城には直接帰る手段を作っていたから、今の今まで気付くことはなかった。


 困るとすれば城下町の民達だが、ゲーム時代はAIすら搭載されていなかったオートNPCに一体誰が配慮するというのか。


 まぁ、そんな理由があるから、彼女達がこの部屋に入ってこようと俺と一緒じゃなければ帰ることも再度来ることも叶わない訳だ。


「お前達は、シェラが態々『侍従の臣宮』から連れて来た指折りの者達だと聞いている」


 俺のその言葉にほぼ全てのメイドが体を震わせた。


 シェラが住まう宮廷である『侍従の臣宮』には、城下町の中から選ばれたハイ・ヒューマンの内、最も優れている者達が日々研鑽を積んでいる場所。という設定にしてあったはずだ。


「だからここを見せた」


 そう言って装備品を揃える為に動き出した俺の背に、静かながらも情欲の篭った声が届く。


「過分なお言葉を頂き、感謝の念に堪えません」


「そう自分達を卑下するな」


 俺はそう言いながら両開きになっているタンスの扉を開き、一つの装備を取り出した。


 『貴き銀龍の外套』。


 俺がゲームの設定上、脱皮を繰り返すごとに発生した古い皮を加工して作り出した眩しいくらいの銀色の輝きを放つロングコートだ。


 まず、龍種である俺に生半可な装備は必要ない。

 ましてや、『龍神』である俺よりも硬い防具や鋭い武器がこの世に存在するとは思えない。


 もしもあったとしたら、それはそれで歓迎するべき事だろうけどな。


 現に、ゲーム時代も自分が脱皮した際に出た皮や、生え変わりの際に取れた牙なんかを加工して作った装備品の方がバザーの商品より圧倒的に優れていたぐらいだ。


「後は……」


 鍵付き認証機能のある廃課金者向けの金庫を開け、中から一つの刀を取り出す。


 『荒ぶる悔恨の大刀』。


 『あの日』手に入れた唯一にして無二の素材を手ずから加工して作り上げた、この世に2つとしてない至高の武器。


「こんなものか」


 鏡の前で装備品を整えた俺は、未だ平伏しているメイド達を見て、思わず呆れた声が出た。


「構わんと言っているだろう」


 びくっと恐れるようにして震えた彼女らは、恐る恐るといった表情で顔を上げ、俺の顔色を伺って来た。


「ここに来れるのは私が認めた者達だけだ。私が信を置いているシェラが、認めぬ者をこの私に付ける訳がないからな。ならば、その者達も信じてやるのが王としての務めだろう」


 傲慢にそう言い放つと、彼女達は背筋を伸ばしてこちらを見た後、綺麗なまでに揃ったお辞儀をしてきた。


「偉大なる御方の深きご配慮に、大いなる感謝を」


 その姿を見て大した問題にもならないと感じた俺は、これから戻ってくるであろう眷属達を出迎える為に再度謁見の間へと転移する事にした。


「『転移(トランシジョン)』」


 一瞬の暗転の後、多数のメイドと共に謁見の間の扉の前に転移して来た俺は、メイド達に再度待機するように告げて扉の前に立った。


 ゴゴゴゴ。


 大層な音を立てながら徐々に開いていく扉を見て、中々に凝った物を作れたもんだと思わず感心してしまった。


 まぁ、設計に一ヶ月。実際に作り上げるまでには半年も時間をかけたからな。


 廃課金者であった俺がそれだけの時間をかけたという時点で色々と察しろという所だろう。


 そうして開いていく扉を眺めていたら、段々と扉の向こう側の景色が見えてきた。


 視線の先では、赤い絨毯のその先にある玉座とその玉座を照らす照明の光に当てられながら、目を惹くような赤い髪をした少女が俺に向かって頭を下げていた。


「クレナイ」


「はい」


 玉座の横でいつまでも頭を下げていそうなこの少女は、一体いつからこうしていたのだろうか。


「先遣隊を送れ」


「御意」


 彼女はその一言だけで全てを把握したのだろう。謁見の間を出ていく際にこちらに向き直り深く頭を下げてから、足早にあちらでの準備を済ませに向かった。


「ふぅ」


 どかっと玉座に腰を下ろした俺を、ケルベロスの毛皮で作ったこの椅子は心持ち穏やかに受け止めてくれた。


「さて、誰が最初に来るか……」


 頬杖をつきながらぼんやりと扉を眺めていたら、俺の耳にブブブという羽音が聞こえてきた。


 ジジジジジジ。


 謁見の間の扉が誤差の範囲内で静かに開き、俺の視界の隅、絨毯の外側に体長1センチにも満たないの極小の虫のような存在が無数に集まり一つの形となり始めた。


 幾万の蠱毒の王(インフィニティ・ビー)


 蠱毒の王(ポイズニアン・ビー)と呼ばれる下位種族が幾つも集まって形作られる上位種族。

 本来であればその中の一体足りとも共闘をするはずのないその種族は、その種の絶対的な危機においてのみ、その身を寄せ合い強大なる存在へと進化すると言われている。


 危機の内容としては、自らの種の絶滅や世界の破滅。あり得ないところとしては、百万いようが千万いようが絶対に叶わないような相手が敵となった場合。


 俺としてはそのあり得ない方法を取って『眷属』とした訳だが。


「御身ノ前二」


 そうして形作られた蠱毒の王が俺に向かって片膝を付きながら言った。


 ウルージ。


 大まかな分類では戦虫族(バトル・ビー)として分類される種族。

 基本的に『眷属』達は一部を除き(クラス)を持たない。

 だから、種族レベルがその者達の力を測る際の指標となるのだが、その分、かなり細かな分類がなされており、一つ種族が違うだけでスキル構成もがらりと変わる。

 ウルージは俺が持つ眷属達の中では10位という比較的下位の序列だが、同一種族の中では圧倒的な種である蠱毒の王(ポイズニアン・ビー)として生まれたため、俺と出会うまでは最強の地位に就いていた奴だ。


 まぁ、暇つぶしがてら受けたクエストで手に入った『眷属』だったが、思いの外使い勝手が良くて驚いた記憶があるんだよな。


 さっきまでの登場の仕方の通り、こいつの種族はどのような場所にでも容易に侵入する事が出来る。そして、一体でも侵入する事が出来れば、そこから猛毒液を噴出することで相手を死に至らしめる事が出来るという、まぁまぁ便利な『眷属』だ。


「良い。それで、準備の方はどうだ?」


 俺がそう聞くとウルージは聞き取りづらい声で言った。


「ハイ。我ラ蠱毒ノ王(ポイズニアン・ビー)一同。全テ準備ハ出来テオリマス」


「それはお前がか? それとも他の奴らがか?」


「私モ含メテデ御座イマス」


「そうか。ならばその場で待機しておけ」


 俺のその言葉を聞いたウルージはギチギチと音を鳴らしながらその場に直立した。


 それからどのくらいだろうか、漸くこの都市に9つの大きな力の塊が到着した。


「オロチ様」


 いつの間にか俺の隣で待機していたクレナイが、耳元で囁くように話しかけてきた。


「各員、準備が整いました」


 その言葉を聞いて、ふと意識を部屋の中央へ向けると通路中程の空間にぽっかりと黒い穴が開いていた。


「何処に繋がってる?」


「王城最上階のバルコニーになります」


「先遣隊の準備は」


「万事整っております」


 打てば響くとは正にこの事だろう。


 俺が聞きたい情報を長すぎず短すぎない範囲で返して来るクレナイは、本当に使いやすい。


「なら、行こう」


 玉座に掛けてあった『銀龍の外套』を羽織り、『悔恨の大刀』を腰に挿した俺は、ゆったりとした歩調でその穴へと足を踏み入れた。



♢♢♢♢♢



 私が今回の遠征軍に選ばれたのは本当に偶々だった。


 魔法に特化したダークエルフの中でお世辞にも魔法が得意とは言えない私は、たった一つだけ得意な事があった。


 それは――



 ――『回帰魔法』。


 魔法職に就いた者の中で、極稀に習得する事が出来ると言われている記憶操作に関する魔法。


 今回の遠征で敵方の情報を抜き取る必要性がある為、その魔法を使える数少ないダークエルフの1人として光栄にもこの度の遠征軍のメンバーに選ばれる事が出来た。


 今回の遠征軍で働きを認められれば、天上人である御方から労りの言葉が貰えるかもしれないと、情報取得部隊の隊長はかなり意気込んでいたけど。


「そう簡単に行くかなぁ」


 私の気の抜けた声は突如として起こった空間の揺らぎに掻き消された。


「――――っ!!」


 その方の登場はその場にいる1万の兵だけでなく、遥か後方で出立を見守っていた各種族の人々にまで影響を与えていた。


「楽にして下さい」


 偉大なる御方の『第二』眷属であらせられるクレナイ様の登場に、私達は視線を地面に向けたまま直立不動の姿勢を取っていた。


「今しがた全ての『眷属』がこの地に揃い、我等が王たるオロチ様を出迎える準備が整いました」


 そう仰られるクレナイ様の近くには、いつの間にか他の『眷属』の方々の御姿があった。


「これより、貴方達の失態はその上司である私達の失態となります。心して行動するように」


 そうクレナイ様は私達に向かって忠告であろう発言をなされた。


「では―――」


 そう言ってクレナイ様が踵を返し、ほぼ同じ場所に黒い穴が開いた瞬間、私達はその場に立っている事すら出来なかった。


 そして、その場からあの御方がその御姿をお見せになられた。



「――――壮観だな」



 重く重く、それでも歓喜に打ち震えざるを得ない、そんな尊くも誇らしいお言葉がその地に響く。



「よくぞ集まってくれた『ソール』の民よ」



 嗚呼。貴方様のためならば、私達は何処へだろうと何時(なんどき)だろうと集まって見せましょう。



「此度の戦。勝つのは至極当然のことだ」



 嗚呼、嗚呼。私達が貴方様に変わらぬ勝利を捧げます。



「そして、旗を掲げよ。始まりの日より変わらぬ『銀龍と緑蛇』の旗を」



 嗚呼。嗚呼。嗚呼。 是非とも掲げましょう! この地に旗を! 永劫に変わらぬ支配者の旗を!



「さぁ。進軍――――開始だ」



 御意。何時までも変わらぬ絶対の忠誠を、ここに。

基本的に戦闘パートは一瞬なので、それ以外が多くなるのは仕方がないと思うんだよな。

まぁ、その戦闘ですら建前上は『禁忌』の収集のついでなんだよなぁ(白目)


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