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第98話

 十五年前、危険を冒して火の手が上がる街にクロードが戻って行った理由。それは大切な娘の将来を守るため。


「……そんな……」


 ゼノンは震えた声を漏らした。今までやってきたことが脳裏に蘇る。自分が志した世界が音を立てて崩れ去る。喪失感が苛み、冷静になれない。告げられた真実を信じられない、信じたくない。


 ゼノンの視界の右端に黒い物体が映った。あれを取って引き金を引く。そうすれば何かが変わる気がした。今話をした男を殺せば、真実が消えて無くなるような気がした。


 ゼノンは口角を吊り上げた。素早くしゃがみ右手で床の銃を拾い上げ、ツバサに向け引き金を引く。しかし引き金を引く前、銃口をツバサへ向けた時には既に彼は剣を構え、身を屈めてゼノンに向かっていた。ツバサはゼノンの近くにオートマチックピストルが落ちていることにも留意し、彼の動きを注視していたのだ。


 ツバサは銃弾を躱し、ゼノンまで到達すると、剣でピストルを弾き飛ばした。その勢いのまま、剣をくるりと百八十度回転させ、柄の先で思いきり鳩尾を突き飛ばした。


「カハッ!」


 ゼノンは吐血しながら吹っ飛んだ。背中を強く打ち、気を失った。〝人魚の涙〟がゼノンの左手から離れて宙を舞い、コツンという音を奏で床に着地する。


 これで漸くリリアを解放できる!


 ツバサは一目散にリリアに駆け寄り、剣先で彼女を縛るロープを切断した。カノンは床に落ちた長いロープを拾い上げ、先ほどからずっと銃口を向けていた長身痩躯の男の腕を背中で縛る。


 床に落ちていたフード付ケープを首に巻いてあげると、リリアの体力は限界だったようで前傾に倒れてきた。痛々しい彼女の体をツバサが受け止める。


「リリア! 大丈夫!?」


 すると彼女は弱々しくも嬉々として微笑んだ。


「大丈夫。ツバサがきっと助けに来てくれるってわたしずっと信じてたの。だから頑張れた……。ありがとう」


 ツバサは思わず彼女を優しく抱き締めた。こんなことを言われては体が勝手に動いてしまう。


 しかしそれも、次のラックの台詞で中断された。


「おい! 〝人魚の涙〟が二つあるぞ!」

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