表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/110

第87話

 レンガ造りのひんやりとした空間。今の時間、文字盤を通して外から差し込む光はオレンジに映る。文字盤の周りには大小様々な歯車が設置されているが、ブラッディ・サンセット以降動きは止まっている。


 歯車を支える細い棒、それらを固定するために天井からぶら下がった鎖。それを見て、リリアはまるで自分がその歯車のようであると思った。


 リリアは今、塔内にある一本の棒にロープで固定されていた。棒を挟むように両手を後ろで縛られ、両足首も腹部も肩も強く棒と固定されていて動くことは叶わない。座りたくても、それさえも許されない。お手洗いに行く時だけ解放されるため、その隙をみて脱走しようと試みたこともあるが、敢え無く失敗に終わった。二度と脱走なんて真似をさせないように、殴られたり体のあちこちを触られたりするような屈辱を味わわされたりもした。


 一日がひどく長く感じる。精神的にも肉体的にも衰弱し、視界もぼやけてくる。本当であればとっくに涙が溢れているはずだが、一滴でも流すわけにはいかない。夜には月光に晒され、人魚と化したリリアが涙を流すように、脱走を試みた時と同じようなことをされているのだ。それでもただ唇を噛み締め、泣くのを我慢する。


 どうしてわたしがこんな目に遭うの……?


 心はとうに悲鳴を上げていた。誰か早く助けに来てほしい。もう拉致されてから二日になるのだ。ここは教会の隣の時計塔。こんなに近くにいるのに助けが来ないのは、自分を本当に心配してくれる人がいないからではないかとリリアは思い始めていた。自分が人と距離を取り、冷たい態度を取っていたが故の結果なのではないかと。自業自得だ。しかしリリアの頭に浮かぶのは、いつも自分を気にかけ、身を挺して守ろうとしてくれたツバサの姿。誰かに助けてもらおうなんて虫がいい話だと解っている。だがそれでも、ツバサに助けに来てほしいという願望がリリアの中に溢れてくるのだ。


 ギィという重々しい音が空間に響いた。扉が開く音だ。リリアはすぐさまそちらに顔を向ける。


「ツバサ?」


 無意識に漏れた期待の一言だったが、その扉から姿を現したのは全く別の人間だった。銀髪に真紅の瞳。新聞で何度か見たことがある顔。セルバーンの有名人。


「ゼノン=リーヴァ……?」


 リリアは思わず瞠目する。なぜ彼がここに? という疑問が湧く。ゼノンの後ろには背の高い美人秘書と、フードを目深に被った人物が付いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ