第85話
カノン班の無言の圧力に、さすがにラック本人もそんなわけないと解っているのだろう。言ってすぐにひどく残念そうに肩を落とした。ティーナがそれを見て慌てて状況を付け加える。
「あ、でも、ガラスが割れた音がして、私料理してたので、コンロの火止めたり、野菜を切っている手を止めて手を軽く洗ったりしてから様子を見に行ったので、犯人が部屋を荒らす時間はあったのかもしれません」
犯人が窓を割る目的は室内への侵入に間違いない。ティーナが作業の手を止めて部屋を見に行ったと言っても、さほど時間がかかっていないことに変わりはないのだから、犯人はかなりの短時間で目標物を入手し、持ち去ったということになる。その素早さも気になるが、そもそも目標物があの部屋にあることを知っていたかのように、ピンポイントで狙ってきたのも気になる。捕まっているリリアが白状してしまったのだろうか。
先ほどから違和感がツバサを包み、何だか落ち着かない。昼間だというのにティーナ以外犯人を見ていないし、犯人は目標物の場所を粗方察していた。しかも可能なのかと思わせるほどに華麗な身のこなし。更には盗みに入る時間帯。普通人目につきやすい昼間は避けるはずだ。なぜわざわざこの時間に盗む必要があったのか。――まさかカノン班が教会を離れている時を狙った……?
ツバサの胸中に何とも言えないざわつきが渦巻く最中、ジャケットのポケットからバイブ音が聞こえた。急いでケータイを手に取り、通話ボタンを押す。
「もしもしディノ?」
『もしもしツバサ! 落ち着いて聞いてね。――ゼノンがそっちに向かった!』
「何!?」
『俺も今知ったんだけど、今日急遽バアル地区に出張になってて。もうそっち向かったみたいで、ほんのちょっとの差で間に合わなかった。俺も今からそっち向かう』
「解った」
『でさ、ツバサに耳より情報プレゼント』
何だよ、とツバサは眉根を寄せる。
『ゼノンの秘書に発信機付けてあるんだ。秘書もゼノンに同行してるから、行き先は一緒。発信機の移動データ送るから、攫われた人魚の居場所掴めるよ』
さすが連続A判定取得者のディノだ。やはり持つべきものは優秀な友である。
「サンキュ! 助かるよ」
『お礼ならそれ付けた人に言ってあげてよ』
「ディノが付けてくれたんじゃないの?」
『残念ながら。ぶつかる振りして今朝すれ違いざまに発信機付けたのは〝何でも屋〟さ』
「……何でも屋?」
『そう。まあ詳しい話はまた今度。で、一つ気を付けてほしいんだけど、この話誰にも言うなよ? ツバサの周りにゼノンの仲間がいる可能性がある。実は今日――』




