第69話
空の橙が徐々に減っていく頃、カノン班は疲れた顔で教会に戻って来た。すぐにティーナが夕食を用意してくれ、マザーも含めて食事についた。温かいポトフを口に運んでいると、ジャケットのポケットに入れていたケータイが振動した。ちょっとすみません、と言って、ツバサは急いで通話ボタンを押す。カノン班だけでない、マザーもティーナもツバサの話にじっと耳を傾ける。
電話の相手はディノだった。やがて話し終わりケータイを仕舞うと、ティーナが心配そうに訊ねた。
「今の誰だったの? リリアは無事なの?」
「今のはおれの友達で、何か分かったことあったら連絡くれるんです。残念ながらリリアの安否は分かりません」
ツバサの言葉に一時静寂が包む。だがカノンがすぐにそれを破った。
「ディノノン何だって?」
「確証は持てないけど、怪しい人物がいるって」
「誰だよそれ!」
口の中のパンを飛ばしながらラックが叫ぶ。ツバサは嫌悪の混じる一瞥をくれてから、一拍置いて答えた。
「最年少議員のゼノン=リーヴァ」
その名を聞いた途端、マザーとティーナは信じられないといったように酷く驚いていた。やはり有名人なのだろう。
「でもどうしてゼノン君が……?」
ゼノンとリリアの見えない繋がりに、ティーナが眉を顰める。
「どうやら〝人魚の涙〟は危険な物みたいです。目的は不明ですが、ゼノンはそれを入手しようとしているらしくて。ただ、威力を引き出すためには本物の人魚が流す涙が必要で、だから人魚を探すために各地の湖を調べてたんだと思います。そんな時にリリアが人魚の姿になってるのを見て、彼女は拉致されてしまったのではないかと」
《それでは我はゼノンという人物について調べてみよう》
浮遊していたダイスがテーブルの上に着地し、動かなくなった。調べものをしてくれる時はそちらに集中するため、機器の動作は行わない。移動する時は面倒だがツバサたちが手で持ち運んでいる。
ディノはその他にも様々な情報をくれた。マザーとティーナの前なので控えたが、後でカノンたちには伝えようと思っている。
予想通り〝人魚の涙〟は見つかったわけではないこと。ゼノンは〝人魚の涙〟と〝人魚〟を探すために湖を探索していたこと。手元にない〝人魚の涙〟を一週間以内に議員に公開することになってしまったこと。怪しいと思っていたボルドー教官はプレジデントに頼まれて協力していたこと。しかしボルドー教官が取って来いと言ったミスティ湖に沈む〝何か〟はプレジデントも知らないようで、まだ謎に包まれていること。