第6話
「またE判定取っちゃった感じ?」
ここは〝天空ガーデン〟と呼ばれる展望台。足元には青々とした芝、天井から横側までを覆うガラスを一枚隔てた向こうは青空が広がっている。展望台の輪郭を描くように木が等間隔に植えられていて、リフレッシュするにはもってこいの場所である。生徒たちに人気の空間で、幾つか設置されている東屋は、いつも女子生徒たちに占領されている。
今は昼休みの時間。昼食を食べ終わり、食休みをしているところだった。
ガラス越しに移りゆく景色を眺めながら、ツバサと同級生のディノ=スラッファは定期テストの結果について話題を切り出した。成績は校内の掲示板に張り出されるため、全校生徒がカノン班の評価を知っている。この学園は順位がはっきりと示される厳しい、もっと言うとえげつない世界だ。
「残念ながら……」
ツバサは力なく頷く。それに対し、そっか……、と溜息交じりに呟くディノ。
ディノはツバサと違い、毎度A判定を取る最優秀班のメンバーである。普段の筆記試験の成績もよく、細身の銀縁メガネも相まって、彼の周りにはエリートな雰囲気が漂っている。ただし、口を開かなければ、だが。
同じ年に入学したのに随分と差がついてしまったものだと、落胆せずにはいられない。
この学園は、世界各国の国費で創設された国衛官養成のための学校――ワールド・ガーディアン・スクール、通称WGSである。受験資格は世界各国の十三歳から十八歳に与えられ、二十歳までに卒業する。卒業後は参謀や司令官からスパイなどの秘密部隊まで、国衛の中枢で働く者が多い。
「卒業できなかったりして」
今にも舌を出しそうなくらいおどけて言うディノに、ツバサは顔の筋肉を収縮させる。
「……あと五年で何とかして……みせる……」
優秀な成績を収めている者は、各国からオファーが来て苦労なく就職するが、そうでない者はきつい。就職活動は勿論、どこにも決まらなければ荷物を纏めて故郷に帰る他ない。二十歳までに卒業できない場合も同様だ。
しかし、その就職活動はかなり厳しい。というのも、WGSの核となるこの学園校舎は、浮遊し、世界を移動しているからである。
キャンパス・シップ。それがこの学園校舎の名称である。楕円形の人工地――船内での大地に当たる部分――を隔てて、下部には動力機、上部には学園に必要な施設が整っている。教室、食堂、寮、購買、校庭など、学校に必要な施設は勿論、ショッピングモール、湖畔や森林などの自然と触れ合える区画も用意されている。いわば、ここは浮遊する一つの世界だ。