第4話
「次はどっちー? 右、左?」
《左である》
カノンは自分とともに移動する、空中に浮遊した球体の小型カメラの指示に従って出口を目指す。
実はこのカメラ、カノン班の歴としたメンバーの一人、ダイスである。カメラの向こう側でパソコンに囲まれながら指示だけ出している、完全なる自宅警備員である。だがしかし、カノンたちがマッピングをせずにこの複雑なダンジョンに入れたのは、彼がいたからこそである、ということを考慮すれば、戦闘に参加していないとはいえ、あながち馬鹿にはできない。
「バッサー、ラックン、付いて来てるよねー? 次左だって!」
カノンは人を愛称で呼ぶ。バッサーはツバサ、ラックンはラックのことである。
三人はダイスの指示の下、着実に出口へと向かって走り続ける。滑らないように気を付け、階段を駆け上がり、凸凹した地面を疾走する。
「そんなことより隊長! プランAからCって何なんですか!」
ツバサが走りながら声を張り上げる。プランDという以上、AからCまでがあるはずだ。カノンは振り向くこともなく、口だけを動かす。
「Aはー〝死ぬまで戦え〟、Bはー〝死んでも戦え〟、Cはー〝死で戦え〟だよー」
「…………」
言葉が出ない。
「おい、待てぇ――!!」
お約束。敵が執拗に追いかけてくる。待てと言われて待つバカはどこにもいない。
「ったく、しつけーなぁ」
ラックは腰に固定していた直径八センチほどの玉を取り出し、それを後ろに向かって勢いよく放り投げた。衝撃を与えられた玉は、それ自体が爆発し、中から赤茶色っぽい煙をもくもくと吐き出す。胡椒とタマネギエキスとタバスコ、それに体調不良の時にリバースしたものを当時の状態のまま保存したドロドロをブレンドした、ラックオリジナル煙幕である。
煙の向こうからは、海賊たちがゴホゴホブエックショイオウェェーと苦しんでいる音が聞こえてくる。
「へっ! どんなもんだい!!」
こうして三人と一機は、無事ダンジョンから脱出した。太陽光が反射してキラリと光る美しい入り江が正面に広がったかと思うと、視界がすぐに暗転した。