第37話
少し歩くとすぐに住宅街が広がり始めた。セルバーン全体でガーデニングの文化があるのか、バアル地区でも花々が咲き誇る庭を目にすることができる。
木でできた低い囲い。正面のその門から家までの三メートルほどの空間の左右に設置された花壇。その中で競うように美しさを磨き上げる色とりどりの花々。
だが、昨日バスの窓から見たものとはどこか違う。その違和感の正体にツバサはすぐに気付いた。
「ねえセレティスさん」
「……今度は何?」
眉間に皺を寄せるリリア。
「この地区って青い花流行ってんの?」
他の地区で見た花との違い。それは色。他地区では、黄色、赤、ピンクなどが多かったが、このバアル地区で見る花は青が多い。しかも、他の色の花も薄らと青みがかっているように感じる。赤は少し黒っぽく、黄色は少し緑っぽく、ピンクは少し紫っぽくなっている気がする。
そういえば教会の食卓に飾ってあった花も青かったなと、ツバサは思い出す。
リリアは庭を一瞥してから、口を開く。
「バアル地区に流れる水は、他の地区と違って青いの」
リリアの回答に、ツバサは道の両脇に流れる水に目を向ける。だが、石造りの水路に流れる水を見たところで、色はよく分からない。
「バアル地区に咲く青い花は世界で最も美しいと言われているのよ。白い花を植えると、海のように瑞々しい青い花が咲くの。水を青くしている成分が何なのか、研究家たちが調べに来たこともあったけど、結局分からなかったそうよ。まだ世界で発見されていないものじゃないかって言われているわ。水道水は濾過されちゃってるから無色透明だけど、ガーデニングしている家では水路にホースを入れて水をやっている人が多いの」
未知の成分が水を青くする。何とも不思議な話だ。
「その水ってどこから流れてくんの?」
「それは――これからわたしたちが行くミスティ湖よ」




