第36話
朝食を取り、準備を整えると、カノン班は教会の外に出た。
青空に浮かぶ白い雲。空気はカラッとしていて、気持ちがいい。
「これからミスティ湖へ向かうわ。付いて来て」
リリアは教会を出て左へ進む。道の端に流れる水音が心地良い。
今日のリリアは昨日とは違い、女の子らしい洋服を着ている。先ほどパイプオルガンを弾いていた時ともまた違う格好だ。胸元でりぼんを結んだ白いブラウス、ふわっとした桜色のスカート。しかし相変わらず、紺色のフード付ケープは外さない。
「ねえセレティスさん」
先に行くリリアを小走りで追い駆け、ツバサは彼女の隣につく。
「な、何よ」
挙動が少しおかしいリリアに小首を傾げつつも、ツバサは自分たちとすれ違う女学生に視線を向ける。
「今日学校行かなくていいの?」
女学生たちは襟元から深緑のスカーフを下げ、グレーのジャンパースカートを身に付けている。昨日子供たちが手渡していたリリアの絵と同じ制服だ。
「今夏休みなの。それでもわたしに学校に行けって言うの?」
「……じゃああの子たちは?」
「部活か何かじゃないの? そんなに知りたいなら本人に直接訊いてみればいいじゃない」
「…………」
ツバサはそれ以上何も言うことができなかった。少し怒っているような気がするのは気のせいか。
そこでふと昨日のマザーの言葉がツバサの脳内で木霊する。
リリアはいつも独り。人といつも一定の距離を取り、深入りはしない。
「ねえ、セレティスさんは外ではいつもそのケープみたいなのしてんの?」
昨日も彼女が身に付けていた紺色のフード付ケープ。
リリアは人とコミュニケーションを取ることを恐れている。だとすれば、それはとても勿体ないこと。人との関わりは楽しく、人生を豊かにすることだということを彼女に教えてあげたい。自分独りで完結した世界より、遥かに視野が広がる果てしない世界。これはWGSに入学して思ったことだ。
ツバサはリリアに極力話しかけようと決めた。勿論彼女のためということもあるが、ツバサ自身が彼女ともっと話したいから、というのもあった。本当は後者の方が割合として高いのかもしれないが。
リリアはケープを一瞥してから、ツバサを横目で睨む。
「そうよ。だったら何?」
「いや、なんかさ、何でかなーって思って」
「……お気に入りなのよ。悪い?」
「いや別に……」
まるで触れられたくないと言わんばかりに、表情を顰めるリリア。会話が終了してしまったことに、内心で溜息を溢した。
「ツバサ、気にすんな!」
ツバサとリリアのやり取りを後ろで見ていたらしいラックが、ツバサに肩を回してくる。
「お前には俺が付いてるって!」
ビシッと親指を立てて、ニカッと笑うラック。それに対しツバサは苦笑しながら、ありがとうございます……、と返答したのだった。




