第26話
「〝人魚の涙〟を作った人物……、それがクロードなのよ」
なるほど、ティーナの言いたいことは解った。しかし、セルバーンの英雄的存在であるクロードが作った宝石が発見されただけで、そこまで盛り上がるほどの話でもないような気がするが……。
「〝人魚の涙〟が見つかったドロマ地区の民家って、クロードさんの家なんですか?」
今度はティーナがツバサにかぶりを振った。
「いえ、違うのよ。どうやら、ずっと使われていなかった民家の地下室から見つかったそうなの。〝人魚の涙〟が見つかって、そこはきっとクロードの秘密の研究所だったのだという説が有力みたいね」
なぜ今更使用されていない民家を調べた?
「では、クロードさんの本当の家はどこに?」
「彼の家は――このバアル地区にあるのよ」
「!?」
クロードの家はバアル地区にあるのに、〝人魚の涙〟が発見されたのはバアル地区と反対に位置するドロマ地区。ティーナの話が本当だとすると、なぜそんな遠いところに秘密の研究所を構え、〝人魚の涙〟を隠したのか?
そこまで考えて、ツバサは自分の胸中の言葉に待ったをかけた。
隠した? なぜ宝石なんかを隠す必要がある?
ツバサの中に疑問符が徐々に蓄積されていく。
「ティーナさん、〝人魚の涙〟ってどういうものなんですか?」
ティーナは口に運ぼうとしていたスプーンを持つ手を止め、少し考える素振りを見せる。
「私も詳しくは分からないのだけど……、新聞には、表面はどこまでも透き通るように青く美しい宝石と書いてあったわ。大きさは直径三センチほどで、中心の方が白っぽく濁っているとか……」
「後で新聞見せてもらってもいいですか?」
「ええ、勿論」
ツバサは了承を得てから、食事に戻った。パンを半分に千切りながら、そもそも初めに話題を振られていたリリアにさり気なく目を向ける。彼女は静かにパンを食していたが、その瞳はどこか虚ろで、心ここに在らずといった感じだった。
親指に力を入れて千切ったパンは固く、それをつけたシチューも冷めてしまっていた。