第22話
「さようなら」
笑顔で子供たちを見送ったリリアは、教会の扉を閉めると、途端にいつもと同じすまし顔に戻ってしまった。
「リリア、お帰りなさい」
紺色の修道服に身を包んだ二十代くらいの女性が近づいて来る。物腰柔らかな感じで、安心するようなおっとりとした女性だ。頭には修道女お決まりのベールを被っている。
お帰りなさい? と彼女の発した単語に首を傾げるツバサ。
「こちらが、仰っていた方々ね」
修道女がリリアから目を逸らし、ツバサ以外勝手に長椅子に腰かけていたカノン班に目を向ける。それから、穏やかに微笑んだ。
「初めまして。私はティーナと申します。話はリリアから伺っています。皆様がリリアを護衛して下さる方々ですね」
ティーナの台詞に固まり、クエッションマークを頭上に浮かべるカノン班。一方、慌てたのはリリアだ。
「ティ、ティーナ、その話はまた後で! ――あ、わたしこの人たちを部屋に案内してくるから、ティーナは食事の支度をお願い! ね?」
リリアはティーナの肩を持ってくるりと反転させ、背を押してその場から強制退場させてしまった。右奥の扉へティーナを押しやったリリアは戻って来て、視線で説明を請うカノン班に目を向ける。といっても、カノンは気にしていないようだったが。
「……何よ。何か問題でもあるの?」
「『何か問題でもあるの?』じゃねーよ! こりゃ一体どういうことだ? この教会はどこで、テメェとどんな関係があって、あのシスターに俺たちのこと何であんな風に説明してんだよ!」
足を組んで長椅子に腰かけていたラックが勢いよく立ち上がってリリアを捲し立てる。
「ねえ、ラックン」
「ああ!?」
メンチを切って振り向いたラックの視界には、挙手したカノンが映っていた。発言許可を得ようとしているのか、そのままの状態で静止している。
「…………」
私服のカノンは、いつものシルクハット、ブーツの他に、それと非常にマッチする水色を基調としたフリフリのワンピースを身に付けている。フリルには白いレースがついている。更にレンズの大きな赤いメガネも装着しており、外見からは隊長であることどころか、WGSの生徒であることさえも分からないだろう。因みに、視力三・〇の彼女のメガネは完全にダテである。
「……カノン隊長様どうぞ」
血管が浮き出るほど怒鳴っていたラックのテンションが見る見るうちに下がり、額に手を当てながら仕方なくカノンに発言許可を与える。彼女はこうでもしないと、ずっと挙手したままでいそうで怖い。
「ラックン、あのシスターさんにボクたちのことをああいう風に説明したのは、この任務が極秘だからだよー。隠すことさえできれば、理由は何でもいいんじゃないのー?」
「……仰る通りで」
ラックは肩の力が抜けたように、溜息交じりに呟いた。