第21話
リリアは時計塔の隣、先ほど鐘が鳴った教会の前で立ち止まり、振り返った。建物の中からは讃美歌を奏でるパイプオルガンの音が聞こえる。
「今日はもう遅いし、ミスティ湖には明日向かうことにするわ」
橋の役割も果たす五段の階段を上り、木製の背の高い両扉の右側を開けて中へ入る。
街の教会だからか、それほど大きくはない。天井が高く、長椅子が左右十列ずつ整列している。奥は祭壇のように一段高くなっており、中央に教卓のような高い台座、左側にはパイプオルガンが設置されている。教会を覆う細長い窓は全て色鮮やかで精緻なステンドグラスで飾られ、光が差し込むと物語が浮き出るように煌めく。
「あ、リリアだ!」
ちょうど帰り支度をしていた八歳前後の子供たちが開いた扉に気付き、一斉に走り寄って来る。リリアは彼らの目線に合わせるように身を屈めた。
「みんなでね、リリアの絵を描いたんだよ! 今日あげるために持ってきたんだ!」
子供たちの代表と思われる男の子が興奮気味に語り、自分の小さな黄色いバッグから丸まった画用紙を取り出した。輪ゴムを取り、咲き誇らんばかりの笑顔でそれをリリアへ向ける。
「ぼくたちの大好きなリリアへ!」
画用紙に描かれていたのは、似ても似つかないリリアだった。
クレヨンが入り混じり、一応女性であるということが判別できる程度。首元からは深緑のスカーフが下がり、グレーのジャンパースカートを穿いている。恐らくリリアの通う学校の制服だろう。
「ありがとう」
リリアがそう言うのを横で見て、ツバサは息を呑んだ。
柔らかく、優しく、温かい微笑み。今まで彼女がカノン班に見せていた、作られた笑みとは全く違う。
あんな顔、できるんだ……。
〝聖女の微笑み〟。ツバサはなんだか嬉しくなって、今のリリアの表情をそう名付けることにした。機会があれば、また是非拝みたい。