第2話
キンキンと交錯する剣先、バンバンと響く発砲音、ビュンビュンと空気を掻き切る刃。
迷路のように深く振り下げられたダンジョン。湿った岩肌、冷ややかな空気、大きく木霊する水音。その最深部で、ツバサたち〝カノン班〟は、顔や体に幾つも傷を負った、見るからにヤバそうな輩四人に囲まれていた。
祭壇のように一部高くなった台座の上には、財宝の入った宝箱。大きさは幅三十センチ、高さ二十センチ、奥行き十五センチほど。色は赤地に金の縁取り。明らかに中身の高額さを匂わすだけの見た目をしていた。
その宝箱を開けようと手を伸ばした直後、悪い歯並びが露わになるほどニヒルな笑みを浮かべた海賊どもがどこからか湧いて出てきたのだ。ドクロが描かれた黒のキャプテンハットを被っている者や眼帯で片目を覆っている者、左手がフックになっている者までいる。
奴らは言った。
「俺らの財宝に手出そうってんじゃねーよな?」
言いがかりも甚だしい。最初に見つけたのは、間違いなくカノン班だ。しかし、彼らにそんな言い訳は通用しない。
「七つの海を渡り歩いて、やっと見つけた代物だぞ?」
その時点で、お前たちのものではないだろう、と思わずツッコみたくなるのも我慢して、ツバサは左手を前に差し出した。
左手首に嵌る腕輪。細い銀の線が何本も交差しているようなデザイン、中央にはエメラルド色に透き通るダイヤ型の石が嵌め込まれている。
ツバサは腕輪に向かって命じる。
「ディライマ!」
ワードに反応して腕輪のエメラルドが眩く光った。かと思うと、そこから生まれるように一本の剣が姿を現した。それは青白い輝きを放つ。
ツバサはその剣を右手で握り、敵に向けて構える。カノンもラックも準備が整ったようだ。
ツバサの持つ剣、ラックの持つ斧槍、そしてカノンの持つハンドガン。三人が各々の武器を構えるのを見て、相手が我先にと攻撃を仕かけてきた。
一つの発砲音が響き亘り、それを皮切りに戦いが始まった。静かだった洞窟ダンジョンが騒然とする。湿った地面のコンディションに気を付け、滑らないように足に力を入れる。
しかし、四対三ではいささか分が悪い。
「あーもうっ! こいつら不死身設定か!? どんだけ強靭な肉体してやがんだよ、ったく! 隊長どうすんだよ! このままだとここで全滅だぞ!?」
ラックが二人にも聞こえるように声を張り上げる。勿論彼ら二人に目を向ける余裕はない。
すぐに返答は来なかった。だが、暫くの黙考の後、女隊長であるカノンが面倒臭そうに口を開いた。
「……仕方ないなー」
彼女は短い溜息を漏らすと、覚悟を決めたように腹に力を入れて大声を上げた。
「プランDでいくよ!」
「!?」
カノンの指示に、ツバサもラックも息を呑んだ。驚きを隠せず、目を見開く。思わず目の前の戦闘を放り出して、カノンを見やるところだった。
「隊長、プランDって……」
ツバサの言葉に、場には緊張が走る。戦いながら三人とも表情を引き締める。しかし、紡ぎ出されたツバサの台詞の続きは、何とも信じられないものだった。
「そんなの決めてましたっけ?」
「……………」
キンキン、バンバン、ビュンビュンと戦いの音だけが辺りに響き亘る。
「今決めたんだけどー、何か問題でもあるのかなー?」
「……いえ、ありません」
見ていないとはいえ、目が笑っていないカノンの笑みが容易に想像できる。ツバサもラックも脱力する。
「それで隊長、その……プランDとは?」