第15話
「挨拶はその程度でいいだろ。セレティスはバアル地区の住人だ。この任務には欠かせない。協力してもらう立場だということを忘れるな。それと――、任務に使用するスペルカードを渡しておく」
ボルドー教官は黒い自身のカードケースから二十枚取り出し、カノンに手渡す。
任務を与えられる時、その班にはスペルカードが一人五枚ずつ配られる。スペルカードは名刺大のサイズで、攻撃、防御、回復、補助の四つの性質に分かれている。カードにはその機能の特性が描かれ、その魔力を解放するスペルワードが刻まれている。カードを手に持ち、そのスペルを唱えると、魔法が使える仕組みだ。
各特性のカードがバランスよく組まれ、それはリーダーへと渡される。
「よくわかんねーけど、そんな極秘扱いの任務で渡されるカードが通常規定と同じ枚数ってのはおかしくねぇか? カードを供給してんのは俺の国なんだから、もっと融通してくれてもいいんじゃねぇの?」
ラックがボルドー教官に意地悪い笑みを向ける。
スペルカードは南の島国であるカジルマ王国でのみ生産されている高価なものである。魔力が強い土地、魔法をカード化できるほどの技術を有しているという理由から、どの国もカジルマ王国の潜在的脅威が計り知れず、手を出そうとしない。王国は中立国であり、世界の中でも特異な位置付けがされている。
ラックはそのカジルマ王国国王の息子であり、王位継承権を有する者である。彼は次男だがカジルマ王国では国王の子供は性別や生まれた順番に依らず、全員に王位継承権が与えている。王位継承の時が来たら各々の能力を測り、次期国王を決定するのだそうだ。
そのためにラックは自分でWGSへ入学することを選択したらしい。有能な人材の育成ということでカジルマ王国は大量のスペルカードをWGSに提供しているのだが、それがあったからラックが入学できたのではないかという噂が立ったこともある。本人は完全に実力で試験をパスしたと思っているようだが、真相は生徒たちには分からない。
「…………」
ボルドー教官は鋭い目つきでラックをじっと睨んだかと思うと、スペルカードを五枚取り出した。
「足りねぇな」
得意顔で言うラックの顔はカツアゲをしているヤクザのそれにしか見えない。
ボルドー教官はもう一度ラックに睨みを利かせてから、渋々更に五枚取り出した。追加でそれをカノンに手渡す。
「これで文句はないな。――話は以上だ」
デジ板に映し出されていたデータが消え、準備室の照明も戻る。ボルドー教官が退室し、その場にはカノン班とリリアが残された。空間に静寂が降り注ぐ。